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嵐の前の騒動 3

 遅くなって申し訳ありません。

 ジリナとフォーリは若様の部屋に行くと、何を買うか検討を始めた。若様が成長してきたので服は必ず必要だが、仕立てて貰うには高い。作業着から着替えてきたシークが、安上がりで見栄えよくする知恵を披露し……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シークが着替えに行っている間に、若様の部屋に行って相談を始める。

 他に何が必要か問われて、ジリナは若様の服が必要だと伝えた。中に着る服はもちろん、マントも必要ではないかと指摘すると、フォーリは若様の準正装用のマントを出してきた。具合の悪い若様も、こればかりは仕方ないので起きだして寝間着のまま立った。

 寝間着姿の若様は大層、可愛らしくて美少女にしか見えないが、フォーリにしろベリー医師にしろ、慣れているらしく顔色一つ変えない。ジリナでも可愛いと思って見とれていたのだが、その辺はさすがだとジリナは内心で素直に感心していた。

「やはり、手直しが必要ですね。丈が短くなっています。」

「……しかし、作るとなると……。」

 ジリナが指摘すると、フォーリが考え込んだ。

「たとえば、上か下かに継ぎ足したらどうですか?上手くすれば、分からないと思いますが。」

 ジリナも彼らの話を小耳に挟んで、どうやらベブフフ家が若様に支給されているお金を横領しているので、若様が使えるお金が少ないらしいということを分かっていた。もしかしたら、お金がないのかもしれない。

 そこで扉が律儀に叩かれた。おそらくシークだろう。

「ヴァドサです。失礼致します。」

 挨拶をした後、静かに入ってきた。彼の声を聞いた若様が嬉しそうに後ろを振り返った。

「ほら、見て。丈が足りないんだって。」

「はい。そのようですね。」

「上か下に足すんだって。」

「マントにですか?」

「うん。ジリナさんとフォーリが相談してるよ。」

「これに足すと?」

 シークが二人に尋ねる。

「考え中だ。」

 フォーリが答えた。

「どっちに付け足す?上と下と。どちらにしろ、腕が良くないと見栄えが悪くなる。」

 シークは少し(かが)んで若様のマントの(すそ)なんかを見ながら、そんなことを指摘して、さらに彼はびっくりすることを口にした。

「お前が()うのか?」

 と、フォーリを見上げる。確かにちょっとした(つくろ)い物とかしているのを見かけることはあったが、そこまでするのか…?というか、縫えるのだろうか?さすがのジリナも少し疑問に思う。仕立屋でもあるまいし。すると、フォーリも意外なことを口にした。

「ヴァドサ、お前は縫えるのか?」

「…おくるみや子供服や自分の服なら縫えるが、若様の服となると自信が無いな。」

 なぜ、おくるみや子供服を縫える?自分の服までって…。結婚していないようだが…兄弟が多くて自分で色々と縫うしかなかったのだろうか。弟や妹のおくるみを縫っていたのだろう。それ以外に考えられない。

 有名剣術流派の家の出だが、今までのことを総合して考えてみると、決して贅沢(ぜいたく)をしていたわけではないようだ。ジリナはそう結論づけた。

「縫って貰うしかないだろう。それに…やはり付け足すのは良くないと思う。王太子殿下と会われるのに、付け足しのマントは印象が良くない。」

 フォーリは黙り込んだ。

「そうなると、上着など様々な服も作った方がいいということか?」

「いや、マントは目立つから新調した方がいいが、上着などは(そで)や裾を付け足す。よく母や叔母が私や弟達の服をそうしていた。目立つ所だけ新しくして、後はお下がりを作り直しながら使い続けていた。

 その目立つマントやなんかも、場合によってはお下がりのまんまで、手直しもしないことはよくあった。」

 なるほど、子ども達が多いための知恵がある。お下がりを使うのはどこの家庭も同じだろうが、田舎の村ではきちんとしないといけない場面などなかったので、目立つところだけ綺麗にしておくという知恵は、ジリナにはなかった。

「なるほど。目立つ所だけか…。しかし、若様はご体調が整わない。仕立てて貰うには時間がかかる。」

「フォーリ、若様は街に行かれない。だから、布だけを買ってくる。」

「仕立屋に来て貰うのか?そうすると、べらぼうに高く請求される。」

 やはり、お金がないらしい。

「そうではなく…。」

 シークは言いながら、ジリナを振り返った。

「ジリナさん、縫って頂けませんか?ベブフフ家で働かれていたというだけあって、色々と王宮のしきたりについても、ご存じのようだし。」

 ジリナが警戒していなかった意外な人の指摘に、さすがのジリナも一瞬、ドキッとした。さすが、親衛隊の隊長だ。王宮のしきたりなんかについても分かっていたのだ。

「……まあ、買いかぶりですよ。多少、失礼があってはいけないからということで、ご領主様のお屋敷で教えて頂いただけなので。忘れていることも多いですし、あまり期待されても困ります。でも、縫うだけならたぶん、できるとは思います。マントですし、あまり複雑な工程はないので。」

 ジリナはそれでも、顔色一つ変えずに答えた。動揺を(かく)せる自信はある。

「それは良かった。」

「本当に縫ってくれると?」

 フォーリが確認してくる。

「いいですよ。気になるなら、少しだけお給金に上乗せしてくれればいいんですよ。それでも、仕立屋よりは安いでしょう。普段着ならいいですが、準正装の衣装ですからね。」

 フォーリはため息をついたが、結局はそれで承諾した。

 他に何を買うか、喧々諤々(けんけんがくがく)と始める。

「布地も高価すぎず安すぎないようにしないと、他の物を買えなくなる。」

 フォーリが言うと、シークが反対した。

「準正装の衣装だから、マントの布地だけは高価な物を使わないといけない。」

「しかし、それ以外にも必要な物はあるし、布ばかりに金をかけるわけにも…。」

「フォーリ、若様はセルゲス公でいらっしゃるから、その名にふさわしい装いというのがある。そこにだけはお金をかけないと、非常にまずいことになる。若様がその名を軽んじていると思われたらどうなる?」

「……。確かにそうだが。しかし、どうする?経済的に(きび)しくなるが…。」

「そうだな。でも、他は切り捨ててでも、若様の装いだけはないがしろにできない。」

 その側で若様がいたたまれない様子でたたずんでいる。

「若様、横になりましょう。」

 ベリー医師に言われて、若様はマントを脱いで椅子の背もたれにかけ、不安そうに寝台に横になる。思わずジリナはそんな若様の頭をなでた。

「大丈夫ですよ。こういうことは大人に任せておくものです。子どもは心配しなくていいんです。なんとかするでしょう。」

「…でも。私のせいで…。」

「若様のせいじゃありませんよ。大丈夫ですよ。こういう時こそ、そういうことに頭が回るか、知恵があるかが分かるんです。」

 ジリナはわざと明るく伝える。

「ジリナさんの言うとおりです。あの人達がなんとかするでしょう。」

 ベリー医師も言うと、若様はおずおずと(うなず)いた。

 結局シークは計算の得意な部下を呼んで、自分達が預かっている費用の帳簿と照らし合わせつつ、フォーリと計算を始めた。

「…しかし、隊長、これだとほとんど布に金をかけることになります。蝋燭(ろうそく)とかいらないんですか?」

「蝋燭は切り捨てる。王太子殿下がいらっしゃるから、先に随行員の一部が来て整えるはずだ。その時に彼らが持ってくる。」

「ああ、なるほど。そうですね。じゃあ、調味料とかそういった物もいらないですね。塩も甘味料も彼らが持ってくるでしょうから。」

 計算しているミブス・ノークという隊員が大胆に削減した。

「食料もいらない。まあ、水だけは井戸と湧き水の水を使うでしょうから。薪は山から切って管理してあるものがあるし、村からも少し買ってあるからいいですね。炭も作ってありますし。」

 炭を作れる隊員がいたため、炭焼き窯を作って焼いたのだ。さらにその後、レンガも焼いて、補修に使った。身内にレンガ職人がいる隊員がいたのだ。

「じゃあ、ほとんど見た目を綺麗にする物を買うことに。」

「今はそれしかない。」

「それでは、張りぼてだ。」

 フォーリは若様を“張りぼて”にしてしまうことが嫌なようだ。本当はもっと若様をきちんと綺麗に整えたいのだろう。

「仕方ない。張りぼても役に立つ。たまには必要だ。人は案外、見た目で判断する。街の警備の仕事をしている時に、それをよく実感した。」

 シークの言葉にフォーリは、仕方なさそうに頷いた。

「言ってる意味は分かっている。」

 そんなこんなでようやく、何を買うか決まり、買い出しに行くことになった。ジリナも付いていくことになり、オルが言い出して村から荷馬車を借りた。親衛隊が村の橋の補修をしていたことがあったので、そのこと事態も異例だったが、村長もすんなり納得した。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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