教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 11
フォーリに打たれて、ベブフフ家の執事は死んだ。それなのに、まだ使いの方は領主兵達に戦えと命じていた。それを見ていたベリー医師は、戦意喪失させる試みをはじめ……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
執事が倒れて、使いは目を剥いて叫んだ。
「し…執事殿…!」
よほど衝撃的だったらしく、すぐには言葉を出せないでいる。
「待て、フォーリ…!」
さらに鉄扇を振り上げたフォーリを若様が止めた。
「その者には話すことがある。」
仕方なくフォーリが振り上げた鉄扇を下ろすと、今のうちとばかりに使いが叫ぶ。
「今だ、今のうちにやってしまえ…!」
もう勝敗はついている。これ以上やれば、もっと死人が出ることが分からないのか。
「まだ、やるのか!お前達の頭である執事は死んだぞ!」
シークは後ろの方にいる領主兵達にも聞こえるよう、大声で怒鳴った。
「今だったら、死者は執事一人で終わる…!無駄な戦いをして血を流す必要は無い…!勝敗はついている!」
さらに言うと、領主兵達は困ったような様子で顔を見合わせ始めた。
「君達ね、教えてあげようか。」
黙って成り行きを見ていたベリー医師が口を開いた。
(先生、何を言うつもりだ?)
何か嫌な予感がする。シークは思わず警戒した。
「フォーリは当然ニピ族だ。凄腕だよ。それは君達も分かっているだろう。」
領主兵の前に出たベリー医師は彼らを見回した。
「そして、彼だけど。」
とシークを指さす。ほら、来た。嫌な予感が当たりそうだ。
「君達も聞いた覚えがあるだろう。大街道の事件。若様が狙われて大街道で放火も起きた事件のこと。その時、若様を抱きかかえて一晩中、敵を斬り続けたのがこの人だ。」
領主兵達が若様とシークを見比べる。小さな子供でも一晩中抱きかかえて逃げながら、敵を斬ることがどれほど大変か、少し子守をしたことがある者なら分かるだろう。「はあ?本当なのか?」という疑いの混じったような表情を浮かべている。
「フォーリともはぐれちゃってね。たまたま、ヴァドサ隊長が若様を抱っこしてたけど、仕方ないから一人で敵を斬りまくったわけだ。分かってるだけで、一人で一晩のうちに三十人だよ。」
ベリー医師の話に、村娘達から小さなどよめきが起きた。若様にそれだけの刺客が送られたことに驚いているようだ。普通の神経なら驚くだろう。こんな大人しい少年に、何十人もの刺客を送ること事態が異常だと分かるはずだから。
「彼の部下達が他にも斬ってるから、総計でどれくらいか正確には分からないけど。全部で結局、百人近くいたか…越したくらいだったな。もちろん、フォーリもいるし。」
にわかには信じられないようで、戸惑っていた。領主兵達も村娘達もびっくりしている様子だ。
「それでも、やる?親衛隊に抜擢されるだけで猛者だって分かってるだろう?君達だって。そんな相手に本当にやる?この人は真面目な隊長殿で、練兵もきっちりしているよ。はっきり言って、この人の持つ武器が箒でも君達は勝てない。」
領主兵達がさすがにざわついた。実際にシークは昔、箒で槍を持つ相手を倒したことがある。
「なにくそと思うだろうけど、今ので分かっただろう。剣を抜いてないんだよ。剣を抜いていない相手にそのざまで、本当に武器を持った彼に勝てると思ってるわけ?」
ベリー医師の言うことは正論だが、それに納得している領主兵達は少ないようだ。それでも、さすがに考えている兵士たちも少しいる。それは自分の実力が伴っている者達だ。動きがなかなか良かったと、少しの動作で見えた者達は、ベリー医師の言うこともさりありなん、という感じで黙って聞いている。
「じゃあ、聞くけど、寝込みを襲われて何人までなら君達、勝てると思うわけ?自分の力で。」
使いが何か言いかけたが、フォーリが襟首をつかんで睨みを利かせると押し黙った。戦わないで済むなら、その方がいい。
「ほら、君、遠慮しないで答え給え。」
ベリー医師が領主兵の一人を指名したので、領主兵は困惑しつつも口を開いた。
「…一人か…上手くいっても二人。そもそも、深く眠って熟睡していたら、その時点で終わりだ。勝てる見込みは全くない。」
ふむ、とベリー医師は大きく頷いた。
「その通り。彼は七人を返り討ちにした。」
ベリー医師はなぜか自分が得意げに、シークを手で示した。領主兵達が顔を見合わせた。
「嘘だ…!」
と誰かが叫んでいる。
「嘘なもんか…!部屋中、血みどろだった…!天井から壁から全部…!だから、フォーリも若様も血みどろにするなと、彼には言うんだよ。ぶち切れたら恐ろしい事態になるからね。ニピ族も真っ青だな。」
ベリー医師は迫真の演技で、とても恐ろしそうな表情を浮かべた。
「ちなみに私はカートン家の医師でね。」
最後に何気なく付け加える。カートン家はニピ族と契約しているから、ニピの踊りを護身術として教えて貰う代わりに、ニピ族を必ず助けることになっている。必然的に、サリカタ王国で一番ニピ族を知っている人達、ということになる。
そのカートン家の医師が「ニピ族も真っ青だ」とわざわざ言うので、どれほどの惨事だったかを強調しているわけである。実際にフォーリも青ざめたらしいので、嘘ではないが。
「ベリー先生、若様のお加減が悪そうです。」
領主兵達の戦意喪失の試みが落ち着いた所で、ベイルが伝えた。
「ふむ。そういうわけで、君達、解散。」
はあ、と領主兵達は顔を見合わせているが、戦意が抜けたのは間違いなかった。ベリー医師と話しているうちに、やる気が削がれたのだ。
星河語
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