教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 10
シークとフォーリは、どちらがベブフフ家の使者に制裁を加えるかで揉め始めた。二人が言い合っていると、ベブフフ家の使者達が領主兵達をけしかけてきて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
若様にはベリー医師がやってきて側についたので、シークはすぐに部下達の囲いから外に出る。そして、まっすぐに執事達に向かい歩みを進めた。
すると、フォーリが隣にひらりと降り立ち、シークの肩を掴んだ。
「待て。私がやる。絶対に許さん。」
やっぱり、そうなるか。
「そういえば、フォーリ。お前、今までよく我慢したな。」
すると、フォーリは不満そうに、殺気丸出しでシークを睨みながら怒鳴りつけた。
「お前の部下達に押さえられていたからだ…!そのせいで若様を…!」
フォーリが吠えた。
「隊長、その者達を殺しては、若様のお立場が悪くなるかと思い、フォーリを押さえていました。」
ベイルが説明する。
「ベイル、分かっている。だが、フォーリ。これは私がやるべきことだ。それが任務だ。」
親衛隊のあるべき姿を示さなくてはならない。そうでないと、王室が軽んじられることになるのだ。国の根幹が揺らぐことになる。
「何を言っている!こいつらはニピ族のことも馬鹿にしている!絶対に許さん!」
フォーリが唾を飛ばしながら怒鳴り、さすがのシークも我慢の限界が来て怒鳴り返した。
「それを言ったら、親衛隊はもっと馬鹿にされている…!私は陛下の兵だ。こんなことがあってはならない…!」
そうだ。向こうは勝てるつもりでいるのだ。そこからして間違っていると示してやらないといけないのだ。
二人が本気で睨み合っていると、執事達が隙ありとみて動き出した。まあ、当然といえば当然だが。
「執事殿と私を守るのだ…!」
執事の使いの男が叫んだ。その号令で領主兵達がざっと二人を取り囲んだ。
ほう、やる気満々じゃないか。本当に勝てるつもりなんだな。馬鹿にするつもりはない。だが、動きに隙がある。まだまだ訓練が足りないようだ。
「ちょっと、何やってんですか、守り固めちゃった!」
心配になったセリナが叫んだ。村娘達は怯えて震えている。一斉にバラバラと走り出されたら、それはやっかいだ。
「ほんとだよ、あんた達、何やってんだい!」
ジリナの声が広間に響いた。彼女も様子を見にやってきていたのだ。
「これだから、男ってのは…!張り合ってる場合じゃないだろ!」
さらに肝の据わっている彼女はつかつかと近寄ってきた。
「あんた達、娘達の命もかかってんだよ!村人の命もだ!ちゃんと守ってくれるんだろうね!」
思わず二人は同時に振り返り、同時に同じ事を答えていた。
「問題ない…!」
思わず息もぴったりに答えてしまい、お互いに睨み合ったが、息が合ってしまったものはしょうがなかった。
しかし、ジリナの言うとおりではある。ここはシークが折れるしかない。村娘達が怯えてバラバラに走り出し、領主兵達に斬られる隙を与える可能性もある。
「分かった。フォーリ。その男はお前がやれ。」
思わずため息をついて譲った。
「いいか、お前達、人数は圧倒的に我々が多いのだ…!やってしまえ!親衛隊だということは気にするな…!」
「その通りだ!死人に口なし、全員口封じに殺してしまえ!」
ああ、馬鹿な奴らだ。本気で勝てるつもりだ。動きがバラバラで隙だらけだ。確かに幾人かは腕に覚えがある者もいるだろう。でも、シークの隊の方が遙かに揃っているし、練度も高いと胸を張って言える。
フォーリもその辺は見て分かったようで、こんなことを言ってきた。
「おい、ヴァドサ。こいつらはお前がやれ。ただし、血みどろにするな!」
もちろん、血みどろにしたら若様が責任を取らされるし、何より若様にそんな場面を見せたらいけないからだ。
ところが、村娘達の方にフォーリの言葉で動揺が走った。どよめきが広がる。「えぇー、大丈夫なの!?」「血みどろって、仕方ないよ…!」「やられちゃうよ…!」もはや、小声にもなっておらず、ここまでまる聞こえだった。
(…ああ、いつも雑用ばかりしている所しか見ていないからだな……。若様の最初の頃のように、簡単に私達がやられると思っているんだな。)
弱いと思われていて、とても複雑な気分だ。
「…ヴァドサ隊長、フォーリの言うとおりだ。」
村娘達の動揺を心配した若様が口を開いた。
「血を流せば、きっとみんなが驚いてしまう。だから、血を流さないようにして。」
若様に言われたら、もう絶対だ。まあ、いいだろう。実力差を見せておかなければ、また同じようなことを仕掛けてくるに違いない。
「承知致しました。仰せの通りに。」
シークは一度振り返り、若様に返事を返した後、もう一度、執事達の方を向いた。彼らは自分達の方が数も多いし、今の流れで完全に自分達の勝利を疑っていないらしい。
「ふ、ははは…!愚か者め…!ちょうど良いぞ、やってしまえ…!」
執事の使いが偉そうに叫んだ。
「行け、やるのだ!」
使いの号令を聞いて、領主兵達が飛びかかってくる。だが、隙だらけで揃っていない。しかも、自分達が精鋭だと思っているらしく、ひるみもしないで飛びかかってきた。
(…右、左、真ん中。)
シークは到達してきた順番に、柔術技で三人をまずは床に転がした。しかも、全員、床に剣を取り落としていた。腕を捻り上げながら転がしたので、力が抜けて落としたのだ。
「何をしている…!」
執事の使いが怒鳴った。さすがに焦っている。だが、転がされた三人はぽかんとしていた。何が起こったのか分かっていない。
「早く行け…!」
使いがけしかけるので慌てて次の者達がかかってくるが、焦りもあるので動きがさらに悪くなり、さっきより余裕で次々に転がした。七人転がっている。みんな腕が痛いだろう。痛みが走ってすぐには、剣を持てないように捻っているからだ。
これですっかり、執事達の前ががら空きになった。
「フォーリ、空いたぞ。」
シークが言った時には、フォーリはすでに空中に舞っていた。
「言われなくても、行く。」
言い終わった時には執事の目の前に着地している。
そして、鉄扇がひらめき、執事の首に打ち込んだ。執事がもんどり打って床に倒れた。
その場がしん、と静まりかえっていた。
星河語
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