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教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 9

 シークはベブフフ家の使者達に怒っていたが、若様が彼らに言われたことを説明し始め、怒り心頭に達した。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 高笑いしている執事をシークは冷淡な気持ちで眺めていた。ベブフフ・ラスーカは、この男を捨て駒としてここに送ったのだ。この二人はそれに気がついているのだろうか。

「どうだ、言い返す言葉も見つからんか?」

「言いたいことはそれだけか?」

 シークは淡々と聞き返した。多少、憐憫(れんびん)の情が沸き上がらんでもないが、この二人を許すことはできない。

「お前の方も(すご)んで見せるだけが精一杯だろう。いいか。我らの判断で、陛下にどのように伝えられるかが決まる。我らの判断で、若様の病状が変わるのだ。そうなれば、セルゲス公の位も剥奪(はくだつ)されるかもしれんぞ。いいな。それを踏まえた上で賢い判断をしろ。」

 お前の方がな、とシークは心の中で執事に言った。

「そうか。」

 口ではそれだけ執事に言うと、ベイルに向き直る。ここは引いてはいけない局面だ。絶対に。

「ベイル。お前が慎重になった理由は分かった。だが、私達の任務はなんだ?」

 シークの様子から、ベイルはもう分かっているだろう。シークがこの二人を斬るつもりだと。ベブフフ家の領主兵と一戦交えたとしても、絶対に引くつもりがないことが分かったはずだ。

「若様…殿下をお守りすることです。」

「そうだ。陛下はたとえ、八大貴族の誰だろうと、殿下を侮辱する者は斬れと仰った。私の代理をする以上、それは全うしなくてはならない。この者達は、殿下に対して無礼を働いたのか?」

 知っていたが、わざと確認を取る。

「はい。」

 (うなず)いたベイルの目からは、迷いが消えていた。シークがいないのに、斬り合いになっても大丈夫だろうか、そのことを心配していたはずだ。

 今度からこういうことになった場合、シークが不在であっても、迷いなく任務を実行しろ、と強く言っておかなくてはならないとシークは思う。

 村娘達が小声でざわつき始めた。騒ぎが収まるどころか、斬り合いになりそうになってきたからだろう。だが、親衛隊と名乗る以上、こればかりは譲れない。村娘という人質がいても、勝てないという実力の差を見せつけるしかない。

「ならば、お前のすることは何だ?」

「無礼者どもを斬ることです。」

「お前は私の代理だ。最後までやれ。」

 シークがベイルの目を見て頷くと、ベイルも頷き返した。

「分かりました。」

 さっとベイルは振り返り、隊員達に指示を出す。

「お前達、殿下を護衛せよ…!私はこの無礼者共を斬る。」

 ざっと部下達が動いて、若様を囲んで守りの体勢に入る。当然、フォーリも解放されて若様の隣に立った。さっきから既に、あってないような押さえだったが。

 シークが現れてからの急展開に若様がいつもの若様に戻り、おろおろしていた。

「…待って。」

 言いかけて、少し考え言い直す。

「待て、ヴァドサ。」

 村娘達がいる手前、“セルゲス公”の方がいいと判断したようだ。若様に呼ばれたので、シークは静かに囲いの中に入り、若様の前にひざまずいた。

「お呼びでしょうか、殿下。」

 人は見かけも大事だ。時にこういう時は特に。

「この…者達は…村人をみんな抹殺すると言った。だから、言うことを聞けと。そうでないと、皆殺しにすると言っていた。」

 不安そうな若様の前で、シークはきっぱり明言した。

「殿下、ご安心下さい。そのようなことには、なりません。」

 それを言うだけの自信はある。確かに前より体力は落ちたかもしれないが、今はもっと部下達が鍛錬(たんれん)を重ねて努力している。シークの足りない分を補おうとしている。それだけ、全体は前より強くなっているのだ。

「…でも、フォーリがざっと数えただけで、領主兵は百人以上は来ているだろうって。」

 若様も親衛隊が二十人しかいないことは分かっている。でも、今はその実力についても、少しは前より信用してくれている。一緒に訓練してきた意味がここにあった。いざという時の信頼。これが絶対的に必要だ。そして、信じてくれたその信頼に必ず答えて、助けることだ。

「殿下。ご安心を。大丈夫です。たかだか百人程度、それくらい一人当たり五人ほど斬れば済む話です。」

 じっとシークの目を見た若様は、さらに心配事があるらしく口を開いた。

「でも、もっといるかもしれないって。フォーリが言ってた。だから、私はみんなを守らなきゃって思って、その人が宴会を開いて(しゃく)をしろって言ったから、その酌とかいうのをするぐらい、してあげようかと思った。でも、フォーリもベイルも絶対ダメって。」

 シークは耳を疑った。当たり前だ。セルゲス公である若様に酌をさせるだと?なんという無礼だ。若様はまだ酌が何か分かっていない。この優しい気性を利用して、どこまでつけあがってくる気だ。絶対に許せない。

 それで、フォーリをベイル達が押さえていた理由が分かった。暴走したフォーリが殺してしまえば斬り合いになり、村娘達が巻き込まれて死人が出てはいけないと思ったのだろう。

 シークはいつもは押さえるようにしている感情を抑えきれないくらい、怒りが噴出しているのを感じた。

「誤解だ…!」

 その時、使いの方が大声で叫んだ。さすがにシークから怒りの気配を感じ取り、危険を感じたらしい。すると、若様が反論した。

「誤解じゃない。だって、夜まで行くって言ってた。夜って何?普通の夜じゃないんでしょ?夜の相手をして貰うって言ったよ。」

 何だと?夜の相手をして貰う?よく、フォーリ、耐えたな、お前。内心でシークは思った。あまりの怒りに全身が震えた。よくもまあ、そんなことを言ったものだ。そして、その場に自分がいなかったことを猛烈に反省した。もし、いたらすぐにその場で処断したものを。ここまで長引かせずにすんだはずだ。

 それもこれも、自分がふがいないせいだ。だから、こういうことになった。

 シークが怒りに拳を握った時、若様の隣のフォーリから殺気が吹き出してきた。思い出して許せなくなっているらしい。

「殿下。分かりました。申し訳ありません。」

 シークはなんとか怒りを抑えて立ち上がった。なんて不愉快な思いをさせてしまったことだろう。普通、王族の中でも最高位にあるセルゲス公が、一介の領主に雇われている下っ端の執事なんかに、こんなことを言われる筋合いはない。それなのに、こんなことになってしまっている。

「どうして、謝るの?やっぱり、夜って悪いことだったの?」

 夜の意味を不安そうに尋ねてくる若様が、とても不憫(ふびん)だ。そして自分に対する怒りが沸いた。さらに、そのことを言った目の前の執事達に対して、それ以上の怒りが吹き出す。

「若様、それは後で私が教えてあげますからね。」

 ベリー医師がそっときて、若様の耳元で(ささや)いた。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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