教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 7
こんばんは。昨日、投稿し忘れてしまいました。申し訳ありません。それで、今日は二話投稿しようと思います。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「…く、ふふふ。」
突然、執事が笑い出し、セリナがはっとして気味が悪そうに執事を振り返った。
「貴様らは私が誰か、忘れているようだな。何も問題はない。ここは小さな村だ。お前達が大切にしている若様に夜の相手をして貰っても、何も問題はない。」
とうとう一線を越えた発言を始めた。フォーリを始め、ベイル達親衛隊員達は、一斉に身構えた。向こうがセルゲス公である若様をそこまで馬鹿にするとなれば、こっちも黙ってはいられないからだ。
だが、そんな親衛隊員とフォーリの変化に気づいたのか、気づいていないのか、執事はぎらりと目を光らせながらさらに付け加えた。
「村ごと全員、葬ってやる。」
村娘達がぽかんとしている。何を言われたのか、咄嗟に理解できなかったのだ。人はあまりに自分の常識を越えたことを言われると、すぐには何を言われたのか理解できないものだ。
そして、ベイル達もさすがにそこまでとは思っていなかったので、少し驚いた。ただ一人、フォーリだけが驚きもしなかった。それよりも、執事達の若様に対する態度に殺気を垂れ流し続けている。
「何を…言ってるの、あんた。」
さすがに気丈なセリナの声も震えている。それを見た執事は気をよくしたのか、ニヤリと口の端を上げた。
「まあ、お前もなかなかの器量よしだ。お前を二人で抱いてから、若様を楽しみ、その後で村人全員を抹殺することにしよう。そうすれば、証人は一人もいないな。」
「あんた、自分の欲望のために、村人全員を殺すって言ってんの!?」
セリナの声がひっくり返った。それに、自分の欲望のためにそう言っているのではない。だが、何も裏事情を知らなければ、そう思うのも無理はなかった。
さすがのセリナも震えている。まさか、殺すと言ってくるとは思いもしなかっただろう。村娘達も目を丸くして、呆然と執事達を見つめている。
その様子に満足したらしく、執事はセリナの方に歩を進めた。セリナが少し後ずさる。すると、村娘達にも一斉に恐怖が起きて、みんな怖がり始めた。
「どうした、さっきまでの勢いは。今さらになって私が恐いのか?だが、遅すぎたな。まずはお前を頂くとしよう。」
執事がセリナに手を伸ばそうとした時だった。
「やめろ。その娘に手を出すな。」
若様が制止した。その声はいつもの若様ではなく、“セルゲス公”の時の若様だった。今、必死にセリナを守ろうとしているのだ。硬い表情で震えている。
「…ほう。若様がこの娘の身代わりになると仰っているので?」
執事はグイニスがセルゲス公だと知っているが、一度も王族に対する礼でもって接していなかった。王妃が若様と呼べと言ったため、それに従っているのだ。
シーク達親衛隊は若様と呼ばないと、若様が叔母上にみんなが害されると心配するので、そう呼んでいるが、本当は殿下と呼ぶのが正式な呼び方だ。ただの一度も、この執事は殿下と言っていない。ラスーカでさえ、直接会う時は殿下と呼んでいることを知らないせいでもあった。
その執事は若様に近寄ると、ゆっくり手を伸ばした。そして、みんなびっくりして若様を見つめた。なぜなら、若様がパシッとその手を叩いて振り払ったのだ。
「誰にも手は出させない。村人を傷つけるのは許さない…!」
さらに若様はきっと顔を上げて、執事を睨みつけた。だが、その両目には涙が盛り上がっている。
「ははは、泣きながら随分と可愛らしい威嚇ですなあ。」
執事と使いの二人は吹き出し、さらに高笑いして若様を侮辱した。
フォーリは完全に二人を生かしておくつもりがなくなっていた。そして、親衛隊もそう思っていたが、ベイルとロモル、モナの三人はどうすべきか、悩んでいた。セルゲス公である若様に対して、はっきりした侮辱だ。だが、シークが不在のこの状況で、剣を抜いてもいいのかどうか。
剣を抜けば間違いなく斬り合いになる。領主兵達は精鋭らしく、親衛隊と斬り合うのは前提の様子だ。普通、国王の軍である、しかも親衛隊と斬り合うことになると考えれば、多少なりともためらうはずだが彼らにはそれがない。自信もある上に、主であるラスーカにそう言われているのだろう。何かあれば親衛隊を殺せと。
親衛隊とフォーリ、若様だけなら勝算はある。問題は村娘達だ。今さらながら、彼らが事前にやってきた時に、村娘達を雇っている以上、領主の使いが来た時には礼儀上、挨拶をさせよと言ったのは、彼女達を人質にするためだったと気がついて臍を噛む思いだった。
「無礼者、控えよ、と言っている!」
若様が怒鳴った。大抵の者なら、驚き、さらに若様の持つ空気の変化に急いで礼をただすだろう。だが、この二人にはほとんど意味が無かった。押し黙ったのも一瞬のことだけだった。
「いきなり、なんでしょう。偉ぶってみせても、お立場はなんら変わりませんよ。」
「本当にそうか?」
若様の声が冷たくなった。完全にセルゲス公の時の声だ。
「私を誰だと心得ている?」
若様に自分が誰か聞かれて、さすがに執事は若様の変化に顔を見直している。
「…セルゲス公でいらっしゃいますが。」
一体何が変わったのか、執事は若様を観察していたが、何なのか分からなかった。
「無礼である。態度を改めよ。まさか、セルゲス公という位が、王族が陛下から賜る位の中で最高位だということを、知らぬというわけではなかろうな?」
今の今までおろおろしていた少年の姿はなく、完全にセルゲス公の姿だった。凜とした施政者が持つ空気を纏ってそこに立っている。
「最後にもう一度言う。態度を改めよ。」
執事はじっとグイニスを観察していたが、手が小刻みに震えているのを見て、はったりだと判断した。執事が笑い出すと使いも釣られて一緒に笑い出した。
「いいのですか、私の言葉一つで、セルゲス公のお立場は大きく代わるのですよ。セルゲス公でいられなくなる可能性だってあるのですが。」
執事の脅しに案の定、王子は小さく震えていた。
星河語
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