教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 5
ベブフフ家の使者達が、宴会で若様に釈をさせると言い出し、フォーリがぶちキレる。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、うぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「たしかに国王軍の親衛隊ですから、そうでしょう。でも、そんな態度でいいのでしょうなあ?いいのですか、こんな報告を陛下にしても。セルゲス公はますます病が進み、もはやお一人では何もなさることがおできにならないと。
ですから、のんきに地方の屋敷で療養などと言わず、今すぐにお目の届く所で療養をなさった方がよろしい。もはや、セルゲス公としても、公務をなさる見込みは万の一つもございません、と、ご領主様にご報告致しましょう。ご領主様はすぐに陛下にご報告致しましょうな。」
執事の言葉の途中から、フォーリとベイルは顔に怒りを滲ませた。いや、フォーリなどは堂々と顔をしかめ、若様は困ったように表情を曇らせた。ベイルは怒りで拳を握って、何とか激情を宥めている。
「なんと卑怯な。」
ベイルがやっと絞り出した声が怒りで震えている。
「そう報告されるのが嫌でしたら、我々をきちんともてなした方がいいですぞ。そこ、ここにもてなす人材はおりましょう。」
フォーリの表情もベイルの表情も怒りでさらに固くなった。だが、どうすべきか考えている様子だ。そうだろう。大切なセルゲス公の立場が悪くなったら困るはずだ。親衛隊は職も失うかもしれないし、セルゲス公の位を失ったら、さらに刺客の数は増えることくらい考えがつくはずだ。
「何がなんでも宴会をしろということですか?」
固い声音のベイルは眉をしかめた。ベイルは宴会そのものよりも、その先のことが不安だった。若様は美しいのだ。大変可愛らしい容姿をしている。ずっとそれを狙った嫌な手を打ってきている黒帽子が、それを使わないはずがない。
ベブフフ家が黒帽子と関係あることは分かっていた。
「まあ、セルゲス公は愛らしくお育ちだ。」
ベイルもフォーリも、やっぱり来たか…!と警戒する。
「そんじょそこらの令嬢よりも、気品があって美しい。」
村娘達が若様の容姿を言い出した執事に対し、意味が分からずきょとんとして、お互いに顔を見合わせている。そうだろう。若様は少年だから、想像がつかないのだ。手が早いという村人だが、田舎でのんき者の集まりなのだから。
フォーリの全身から殺気がみなぎり始める。だが、執事は話を続ける。
「セルゲス公が酌をして下さるのであれば、貧相な田舎料理でも我慢致しましょう。なんせ、都の妓楼にもセルゲス公ほどの器量の娘はおりませんからな。」
ベイル他、親衛隊の面々からも怒りで殺気が溢れ始める。中には隠そうともしない者もいた。ベイルはウィット辺りを一瞬振り返って、めったなことをしないように急いで手信号で注意した。
「なんだったら…。」
執事の声がいっそう嫌らしく熱を帯びた。
「夜のお相手もして頂いて構いませんぞ。」
ベイルは殴りかかりたい衝動を抑えた。だが、その衝動を堪えきれなくなったフォーリが、殺気丸出しで怒鳴った。
「おのれ、貴様、黙っていれば!」
ああ、虎が牙をむき出しで唸っている。そんなことをベイルは思ったが、のんきにそんなことを考えている暇はなかった。今、フォーリが怒りのままに執事達に襲いかかれば、村娘達も巻き込んで、血みどろの一戦が始まってしまうに違いない。控えている領主兵達が、反撃に出てくるのは間違いないだろう。
今、彼らは屋敷の中に四十人はいるのだ。外にはもっとたくさんいる。ざっと合わせて二百人はいるだろうか。一戦が始まったら、中にもなだれ込んでくるはずだ。
ベイルは慌ててフォーリを押さえにかかった。ロモルの他、気づいた数名も一緒になってフォーリを押さえ込む。
「フォーリ、落ち着け。みんな怒りを堪えられないのは同じだ…!だが、ここで剣を抜けば、最悪の事態になってしまう…!」
必死でベイルは、フォーリを小声で諭した。
「頼む…!私達だって、悔しい…!」
「放せ!」
「放せない!今、こいつを殺せば、若様のお立場がますます悪くなる!」
フォーリが怒鳴ったので、とうとうベイルも怒鳴り返した。
「許さん!若様を、若様を!」
フォーリが吠えた。まさに猛獣の咆哮だ。思わず聞いた者達の背筋がぞわっと粟立つ。
「落ち着いてくれ!フォーリ!」
ベイルは必死になってフォーリを宥めようとしている。
ベリー医師はこういう状況でも、廊下の向こう側を見つめていた。呼びに行くか行くまいか、考えていたのだ。少し考えてから、ベリー医師は結局小走りでその場を立ち去った。早くシークを呼びに行った方がいいと判断したのだ。
だが、若様を補佐する人達が怒りを抑えていたり、その場を去ってしまったので、若様は今、みんなの近くにいるものの一人だった。青ざめた顔で必死に、どうすべきか考えていたが、そっと怒り狂っているフォーリに近寄った。「フォーリ、そう怒るな。」
右手を握って、じっとフォーリを見上げた。とても不安だが、自分が何とかするしかない。今、グイニスはそう決心して心を奮い立たせていた。セリナ達もいる。村娘達の安全が最優先だ。
「若様、なりません、あんな男の言いなりになってはいけません!」
まだ、グイニスが何も言っていないのに、フォーリは心を見透かしたように叫んだ。でも、グイニスが何か…その酌とやらをしなければ、この場が収まりそうにない。
「フォーリ、私なら大丈夫だ。別に命が惜しいわけではないが、みんなに迷惑をかけたくない。何も取って食いはしないだろう。酌くらいしてやる。」
何も分かっていないグイニスはそう言った。が、フォーリもベイルも、血が凍りそうなほど青ざめた。いや、取って食われるのだ…!そう怒鳴りたい衝動に駆られたが、二人はさすがに堪えて代わりに叫ぶ。
「だめです!なりません!」
「そうです、それはいけません!」
「どうか、お考え直しを!」
変なところでグイニスが頑固だと知っているロモルも同調して、三人でグイニスを引き止めにかかる。今、ベリー医師はいなかったが、シークを呼びに行ったのは慧眼だった。
「でも、そうしないと、みんなに迷惑がかかってしまう。」
このやり取りに、村娘達の間にも動揺が広がり始めた。何となく事情を察し始めたようだ。
「…よく、お分かりではないですか、ねえ、“若様”。本当にお美しいですよ?」
執事はグイニスに近づくと、頬を撫でた。グイニスはびっくりして、思わずビクッと体を縮こませた。
「ぐおぉぉ、貴様ぁ!ぶっ殺す!」
とうとうフォーリが切れて、猛獣のように殺気丸出しで唸った。本当の肉食獣が目の前にいて唸っているようだ。執事でさえも背中がぞっとして鳥肌が立ったが、やるしかなかった。ニピ族の逆鱗に触れたのは間違いない。
星河語
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