教訓、四十七。毒を食らわば皿まで、の敵に注意せよ。 4
その頃、広間ではひと悶着が起こっていた。ベブフフ家の使者達が、宴を催せと言ってきたのだ。しかし、食料が足りないので、そんなことをする余裕はない。隊長代理のベイルが断りを入れると、使者は嫌らしくニタリと笑い……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
さて、その頃、広間では一騒動が起こっていた。
やってきたベブフフ家の使者達は、一人はラスーカ・ベブフフの別荘を管理している執事、もう一人はその下で働いている者だった。一応、執事は地方の貴族出身であるが、田舎なのでこの辺の一番の有力者であるベブフフ家に仕えている。
執事と使いは宴を催すように要求した。だが、それだけではない。村娘達を侍らせろと言った。
もちろん、フォーリもベリー医師も、さらに隊長代理のベイルも反対した。
すると、二人は部屋の外と屋敷の外に控えている領主兵の戦力をちらつかせて脅してきた。若様は治っていないが着替えてその場にいた。困ったようにフォーリやベリー医師達を見上げる。
「どんなに脅されても、できないものはできません。なんせ、食料が足りませんので。」
ベイルがきっぱり断った。
「はあ、何を言っておる!何が食料が足りないだと!?」
使いが嫌らしく怒鳴ったが、執事の方は少し考え込んだ。彼は主である領主が、セルゲス公である若様に支給するはずの資金を横領していることを知っている。
「……なるほど。ならば致し方あるまい。」
確かに足りないだろう。ぎりぎりで何とかしているはずだ。そう考えた執事は応接間の椅子から立ち上がった。本来、セルゲス公であるグイニス王子が、こんなに貧しい生活を強いられること事態が異常なのだ。そこで、作戦を変えることにした。
そのグイニス王子自身は、青ざめた顔色でじっと黙ってニピ族の護衛によりかかっている。本当に具合が悪そうだ。
執事は執事といっても、本家にいる執事ではなかった。ヒーズの屋敷の管理を任されている執事である。
彼らには主であるラスーカから、こんな任務を言い渡されていた。
『とにかくセルゲス公の病篤く、何も一人でできないと報告できるように、上手く誘導するのだ。
もし、それが上手く出来なかったら、宴を開かせてセルゲス公に酌をさせよ。領主兵を二百人連れて行け。全員、手練れだ。しかも、訓練を重ねて行わせている。嫌がったらそれで脅すのだ。村人全員葬られるのと、セルゲス公が酌をするのとどっちがいいか、選ばせればよい。
もちろん、“酌をする”のがどういう意味かは分かるな?命がけだ。分かるな?』
分かっている。ニピ族の護衛に手を出させないようにしつつ酌をさせて、その後、“夜のお相手”もさせよというものだ。それをすれば、完全にグイニス王子はセルゲス公としての立場を保つことができなくなる。
と同時にニピ族の護衛を怒り狂わせることにもなる。どうにかして、そこから生還しなければならないのだ。
『親衛隊はおそらく、雑用のために疲れ果てており、セルゲス公に味方したくないだろう。それでも体面上は守らなくてはならないだろうから、反対するはずだ。
そうなった時には、村人の命を盾にして脅しをかけるのだ。また、セルゲス公の命や、これからの待遇を盾にして脅すのだ。
とにかく、セルゲス公がその位を保てないような問題を起こせ。』
そんな任務を与えられていた。おそらく、もう少し頭の回る者なら、この任務は断っただろう。何かしら主人のラスーカがなるほどと納得せざるを得ない理由をつけて、逃げただろう。だが、その点、この二人はその辺が少し足りなかった。というか、出世欲が強かったと言う方が正しいかもしれない。
だから、平気でこの任務を引き受けた。
「大体、ご領主様が若様に善意でこのお屋敷をお貸ししておりますのに、様子を見に来た我らにもてなしの料理の一つも出さないとは。」
応接間を出て広間に出てから、使いが先に口火を切った。わざと応接間では引く様子を見せて、見送るために集まっている村娘達の前に出てから言ったのだ。
事前に来た際に、村娘達の礼儀作法についてとやかく言っておいた。もし、きちんと見送りさえもしないのなら、この屋敷に侍女を送ると言ったのだ。侍女という名の間者を送られたくなかったら、村娘達を広間に並べておく必要がある。
作戦が上手くいっているので、執事と使いは内心ほくそ笑んだ。
「お言葉ですが、それは違います。」
隊長代理のベイルが口を開いた。だが、ベブフフ家の二人は隊長代理だと知らない。
「陛下のご命令です。それにあなたの仕えているご領主が、お答えしただけです。私共は陛下のご命令で殿下をお守り致しておりますが、その親衛隊の食料もぎりぎりだというのは、ご領主殿の命令ではないだろうと考えを巡らせております。」
かなり痛烈な皮肉をベイルは返した。
シークだったら言わなかっただろうな、とフォーリもベリー医師も思う。ベリー医師は一番後ろの方にいて、広間に出てきてからこっそり村娘達に混じって広間の端に行った。さらにシークが気がついたらやってくる通路の方を確認した。
(まだ来ないな。まあ、想像以上に早く応接室から出て来ることになったから、仕方ないか。)
そんなことをベリー医師は考える。
「お前にそんなことを詮索する権限はない。」
執事はかなり不機嫌になってベイルに返した。執事だって今のベイルの言葉が皮肉だということくらい分かっている。
(親衛隊だからと偉そうに。私は貴族なのだぞ。ベブフフ家に仕えているだけだ。お前なんぞよりも身分は上なのだ。)
内心執事はかなり不満だった。先祖はそれなりに裕福でサプリュにも屋敷を構えていたが、今は落ちぶれてそれすらも手放した。
「お言葉ですが、あなたは一領主の執事の一人に過ぎず、私は国王陛下の直接のご命令で動く国王軍の親衛隊の兵士です。陛下より特別な命を受けており、直接の陛下の命がなくとも、己の判断で裁量してよい権限を頂いております。まあ、執事殿は百も承知でしょうけれども。」
執事はベイルを睨みつけた。本当に腹立たしい。地方貴族とはいえ、貴族なのだ。剣術の腕が立つとはいえ、平民なのだ。それが、こんなに皮肉を言ってくるとは。主のラスーカが言っていた状況と少し違うようだ。
(こんなに皮肉を言ってくるとは、ご領主様が仰っていた状況とはだいぶ違うようだ。腹が立つから皮肉を言うのだろう。ならば、セルゲス公に同情したか……。)
そう考えた執事は、グイニス王子に目を向けた。ずっと青ざめた血の気の薄い顔で、護衛のニピ族によりかかるようにして立っている。
こうなれば、やはりあの手しかあるまい。そう考えた執事は思わずニタリと笑う。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
今回のシーンは、『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』と重なります。ただ、視点が違います。『命を狙われてばかり……』の方は、セリナの視点で話が進み、こちらは親衛隊の方の視点でおおよそ進みます。




