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教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 28

 フォーリはジリナに話を聞きに行くと言って出て行った。やがて、戻って来たフォーリはジリナについて、彼女の秘密を聞いて戻って来た。彼女は意外な人物とつながりがあった。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 その後のことだ。フォーリは調べたいことがあると言って、シーク達に若様の護衛を任せると、ジリナとセリナの後を追っていった。

 若様は薬が効いている間にいろんな話をしていたが、話が終わってセリナ達が帰った途端、眠ってしまった。当然だろう。本当ならかなり具合が悪いはずだからだ。

 その寝顔を見ながら、本当に今回は失敗したと痛感する。

「……そう、落ち込んだ顔をしなくても。私も同罪ですけどね。」

 ベリー医師に話しかけられ、シークは苦笑した。

「しかし、先生は最後まで反対していたでしょう?」

「でも、結構、()きつけましたよ。それに、若様はこれからは無理をしないでしょう。そのためにはいい経験でした。」

「……。そうですか。」

「私はそう思いますよ。それに、敵はこんな田舎でもことを起こしてくる。それだけの人員を備えているという証明にもなりました。はっきりしたじゃないですか。」

「確かにはっきりしましたが…。」

 そう言いながらシークはもう一度、若様の寝顔を見つめた。今は先ほどまでよりは、すやすやと眠っている。薬が効いて苦しさが軽減したようだ。

「…命がけの経験をさせてしまうことに。護衛として失格です。」

「でも、何度も命がけの経験をしていますよ。これからです。これから気をつけて下さい。情に流されないように。」

「はい。その通りです。あんなにたくさんパンを焼いてきて、重くて大変だろうと思ったので。かなり、悩みました。厨房(ちゅうぼう)に置いておくわけにもいかないと思ったので。考えてみれば、先生のところに置いておけば良かったのか。」

「えぇ?うっかり、何も考えずに食べて、私が毒に当たっていたらどうするんですか?」

「でも、先生は匂いで分かったんでしょう?だったら、問題ないはずです。」

 シークが思わず言うと、ベリー医師が小さく笑った。

「ようやく戻ってきた。どっちに転んでも正解はなかったと思いますよ?だってね、今日でなくても散歩する道を知っていれば、行動できるんですからね。」

 確かにそれはそうだ。これに落ち込んでいる(ひま)はない。ずっと気は抜けない。向こうも、これだけのことをしてきた。何か手がかりを掴まれたと感じているだろう。時間も無いから、早々に手を打ってきてもおかしくない。

「その通りです、先生。しかし、こっちは地理に疎いし。屋敷の中だって完全に把握できたとは言いがたい。もっと、かくれんぼ鬼をしないといけないかもしれません。」

「でも、かくれんぼ鬼ではごまかせないよ。若様はまだ当分走れないからね。」

 ベリー医師の言葉でシークはひらめいた。

「そうだ…!思い付きました。」

「何を?」

 ベリー医師との会話を聞いている部下達が、不安そうな表情を浮かべている。

「半分は当然、ここら辺で護衛しますが、もう半分は何かあった時に駆けつけれるようにという理由で、屋敷内で訓練をすることにします。」

「はあ、なるほどね。具体的には?」

「二、三刻(この当時のサリカタ王国の時間区分。一刻は約二分。)おきぐらいに、順番に屋敷内を小走りで巡る訓練です。もちろん、時間内に走って来れないと、腕立て伏せとか、そんな罰則(ばっそく)をつける。」

 ベリー医師はなるほど、と納得した表情を浮かべた。

「いいね。きっと、みんな大反対だと思うよ?」

「たとえ、反対されてもします。そうでないと、自分達の安全領域を作っておけませんから。何度も通ることによって、自分達の場所だという感じもしてくるものです。」

「早い話が、縄張りの主張だけどね。でも、まあ人間も動物だから。案外、向こうはやりにくくなると思うよ。一定の人間が一定の間隔でずっと通るんだから。そもそも、警備の人間を一兵たりとも送ってこない、その方がおかしいんだよ。領主が文句言っても逆手に取ればいいし。」

 シークは(うなず)いた。

「先生の仰る通り、多少はやっぱり遠慮していました。若様がさらに何か言いがかりをつけらてもいけませんし。でも、もういいです。向こうはこれだけのことをしても、開き直るのでしょうから。」

「ま、そうだろうね。ところで、そろそろベブフフ家の領主の方から、何か音信があるかもしれないよ。そろそろ若様の報告を陛下に出さないといけないはずだからね。」

 シークは思わず、(ひたい)(こぶし)を当てた。

「実に嫌な時に来ますね。これも、計算の上なんでしょうね。」

「うん。だろうね。」

 そんなことを話しているうちに、フォーリが戻ってきた。

 若様の寝台から少し離れて、部屋の隅に三人は集まった。

「それで、フォーリ。君の推測通り、ジリナさんはこの地方の人ではなかった?」

 ベリー医師が尋ねると、フォーリは頷いた。

「このパルゼ地方出身ではない。若い頃、サプリュにいたそうだ。しかも、王宮で侍女をしていたと。」

 やっぱりそうだった。どうも、ジリナの様子からしてただの貴族の侍女ではなさそうだと思っていた。

「さらに。」

 とフォーリはいっそう声を落とした。

「かつての故リセーナ王妃の侍女をしていたと。」

「!」

 さすがにそこまでは思っていなかったので、シークとベリー医師は思わず顔を見合わせた。つまり、若様の母の侍女だったということだ。

「だが、若様がお生まれになる前に、王宮を出たらしい。だから、本人も若様がここに来ると分かって、相当、びっくりしたようだ。

様子を見ていても、若様に敵意は抱いていない。むしろ、同情的に感じた。

 その後、ベブフフ家の使用人をしていたそうだ。いろいろいざこざがあって、ここに来たらしい。」

 その時、若様が向こうで寝返りを打ったようだ。フォーリはそこで話を終わり、戻って行った。

「……。」

 ベリー医師もシークも何も言わなかった。でも、考えていることはきっと同じだった。

 ニピ族は人の感情もできるだけ、正確に読み取る訓練を受けるらしい。ちらっとベリー医師にそんなことを聞いたことがあった。つまり、今の話からいけばジリナは犯人ではない。それに、彼女が娘達のためにとった行動からいっても、犯人ではないだろう。

(……残る可能性は一人か。)

 このパンの事件で、犯人に急浮上した人物が一人だけいた。でも、それはその犯人が娘の命も、一緒に奪おうとした事実でもあった。

(…オルさんが犯人か?でも、証拠は何一つない。それしか考えられないという状況証拠しかない。決定的なものが何一つない。)

 でも、それ以外考えられない。村の森を管理しているのがオルだ。誰よりも村中の森を知り尽くしている。森の散歩道の上に、丸太や岩を置いて仕掛けを作れる人間であること。それに、村人なので怪しまれない。

 しかし、犯人はニピ族の可能性がある。ただ、叔父のエンス達から、昔から潜入している密偵がいるらしく、彼らはニピ族だと話を聞いていた。セグが明らかにしようとした一件の事件だ。ここでも同じ可能性がある。

 シークは考えた。そうなれば、大昔からいる可能性が高くなった。もしかしたら、セリナ達は実は人質なのか?もし、すぐに実行しなかった罰で、娘の命さえ奪えと命じられているのだとしたら、相当冷酷な組織だと考えられる。

(……情報が足りない。今、判断するにはあまりにも情報が無い。)

 これ以上、考えても答えは出ない。ジリナはなぜ、オルと一緒にいるのだろう。それも含めて、後でもう一度、フォーリに話を聞く必要があった。

 さっきは、それ以上の話はできないということだ。シークの部下に密偵がいるかもしれないからである。密偵というか、共犯というべきか。用心に越したことはない、というのがフォーリの見解だ。

 シークも複雑な気持ちだが、一度あったので反対もできない。疑いたくないのに疑う必要があるというのは、本当に苦しいものだとシークは思った。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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