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教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 26

 今日は早めにできました❗

 シークが若様の部屋で話をしていると、ジリナとセリナがやってきた。ジリナは床に平伏して娘達の不始末を謝罪し始め、全ての責任は自分にあるから、娘達の命は助けて欲しいといい始めた。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 その時、フォーリが振り返った。ニピ族は他の人よりも気配の察知に敏感だ。やや遅れて二人の足音が聞こえてきた。

「遅かったな。」

 入ってきたのは、ジリナとセリナの親子だった。足早に入ってきたジリナは、フォーリの言葉が終わるか終わらないかのうちに、その場に土下座して平伏した。

「うちの娘がたいそう、ご迷惑をおかけ致しました。娘が若様にパンを作って差し上げ、その結果、毒を口にしてしまったとたった今、娘から聞きました。シルネとエルナにつきましても、言い訳のしようがございません。わたしの監督不行き届きでございます。

 ですが、娘もシルネとエルナにしても、田舎の娘で深く考えたわけではありません。どうか、罰するならばわたしを罰し、娘達の命だけはどうかご容赦(ようしゃ)下さい。」

 ジリナはことの次第を聞いて、慌てて謝罪に来たのだ。母親の行動にセリナは呆然として、目を丸くして呆然と見つめている。

「あなただけのせいではありません。立って下さい。ちょうど話があります。」

 シークはいつまでも平伏したままのジリナを立たせた。

「責任の重さで言うならば、私の方が(はる)かに重い。毒味をさせたため、すっかり安心してしまった。もっと用心すべきでした。まさか、若様のパンに毒の粉を振ってあったとは。

 あの時、みんな食べていた。セリナが一番、あの毒入りのパンを食べてしまう可能性が高かった。ですから、セリナが犯人だとは考えていません。」

「一番、悪いのは私だ。」

 その時、ずっと静かに話を聞いていた若様が発言した。声が(かす)れてしまっている。

「若様、ご無理はなさらず。」

 フォーリが起き上がろうとする若様の背を支える。その時、呆然と母の行動を見つめていたセリナの表情が動き、叫んだ。

「若様、よかったああ!」

 それと同時に腰が抜けて、床に座り込む。セリナの真っ赤に泣きはらした両目にさらに涙が盛り上がった。

 若様の方もセリナを見て、安堵(あんど)のため息を漏らした。

「良かった、セリナが無事で。巻き込んでしまったから。」

 少し改まった様子で若様は口を開いた。セリナの前では、格好つけている所がかわいい。

「フォーリを休ませて、その間に真犯人をあぶり出そうとしたら、相手の方が一枚も二枚も上手だった。ベリー先生の心配が的中してしまって…。」

「若様。どっちみち、手段を問わずいつか実行するつもりだったのでしょう。村のむすめ達を使い、罪をなすりつけて逃げるつもりだった。しかし、計画は途中で失敗したので、今後、どう出て来るかが問題です。」

 フォーリも若様に付き合って、少し改まった口調で話してあげている。

「ジリナさん、シルネとエルナから話を聞きましたか?」

 ベリー医師が尋ねた。エルナだけからではなく、シルネからもどういうことだったのか、話を聞いたはずだからだ。

「はい、聞いたんですが。それが、いつも来る商人とたまに来る商人がいるんですが、それが今回は、一緒に初めて来た商人もいたと言うんですよ。

 その初めて来た商人が、顔なじみの商人達に内緒で二人に絹のリボンを見せて、これが欲しかったら若様用の厨房(ちゅうぼう)と親衛隊の厨房に忍び込み、水瓶に粉薬を入れた上、油壺を壊すように言ったそうなんです。」

 体を起こしているのがきつくなったのか、若様はまた横になる。当たり前だ。まだ熱も出ている。

「叔母上かな。」

 若様がぽつんと言う。めったに若様はそんなことを言わない。それなのに、今回ははっきり明言した。推測でものを言うことが危険なことを、若様はよく分かっている。それなのに今回は口にした。それだけ、苦しいのかもしれないとシークは思う。

「ジリナさん、ごめんなさい。娘さんを危険に巻き込んでしまいました。危険な目に()わせてしまい、申し訳ありません。」

 若様は泣きそうになりながら、息も絶え絶えにジリナに謝罪した。ジリナが慌てて敬礼して頭を下げた。

「いいえ、謝って頂くのはもったいのうございます。謝るべきはわたし共です。」

 やはり、ジリナはただの領主の侍女ではない。明らかに、もっと上の方のはずだ。もっと上と言ったら、王宮しかないが。あまりにも、礼儀が叩き込まれている。

「ジリナさん、もう、謝らないで。あなたのせいじゃない。」

 若様は必死にジリナに伝える。そして、シークに死なないで欲しいと言った時とは、全く違う顔つきではっきり明言した。

「セリナにも罪を問うつもりはない。今回の件で誰にも罪を問うつもりはない。」

 若様は今、セルゲス公に切り替わっている。必死になって、さっきベリー医師が言っていた責務を果たそうとしているのだ。

「村の娘達にも口止めをして。じきに話は伝わるとは思うけど、それでも、落石事故だったと通して欲しい。村の人達に余計な不安は与えたくない。ジリナさん、あなたならできると思う。やってくれますか?」

「承知致しました。必ずその通りに致しますので、ご安心下さい。」

 ジリナの返事を聞いて、若様は深く頷いた。そして、シークの方に顔を巡らせた。

「それから、ヴァドサ隊長。もう一度言うけど、絶対に自害しないで。私が命じた。だから、責任を感じて絶対に自害しないで。護衛はヴァドサ隊長でないと嫌だ。命がけで私を助けてくれたのは分かってる。ヴァドサ隊長でなかったら、丸太が転がってきた時点で死んでいたと思う。」

 若様は意識が朦朧(もうろう)としながらも、丸太が転がってきたのは分かっていたようだ。それを聞いて、胸の中が熱くなると同時に、申し訳なくなった。幼いのに、いや、傷ついている少年であるのに、セルゲス公としての立場で発言している。

「……若様。先にお約束しました。ですから、ご安心下さい。」

 シークが答えると、若様はようやく暗視したように息を吐いた。そして、さらにジリナとセリナがいる前で、もう一度、さっきの話をするように頼んだ。

 若様もジリナとセリナに疑いがかかっているのは分かっている。自分でもジリナを疑っていたのだから。でも、ジリナの嘆願によって、彼女の疑いは若様の中では晴れたのだろう。確かに、自分の責任だから娘達の命ばかりは助けて欲しい、という彼女の嘆願は、嘘偽りではなかった。

 本当に娘のことを心配して、顔色が青ざめていた。肝の据わった人だが、今日のことばかりは肝が冷えたに違いない。

 ベリー医師の説明で、ジリナも事の経緯が分かったはずだ。



 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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