教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 21
シークはベイルと二人で、誰が若様のパンに毒を持った犯人か考える。だが、セリナにしてはあまりにも無造作だった。一体、誰が犯人なのか。そして、背中に刺さった矢を抜いたが、そこから謎の組織『黒帽子』の危険性が明らかに。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
それを見送ってから、ベイルが聞いてきた。
「隊長、背中の矢、抜きましょうか?」
「いや。ここでは目立つ。向こうのスーガ達の方へ行ってから抜く。何本か貫通している。」
「分かりました。」
「それより、何か分かったか?」
「男のマントを回収しましたが、ぎりぎりの所で逃げられてしまいました。でも、マントが取れたおかげで、なんとなく風貌を掴みました。村に来ている商人ではないかと思います。」
シークは頷いた。自分の手落ちだ。かなりの責任を感じたが、不思議とそこまで取り乱さなかった。できることはしておく。
「それより、どいういうことになっているんですか?」
「若様が食べたパンに毒が入っていた。」
ベイルが弾かれたように振り返った。
「若様が食べたパンにですか?」
「それ以外に考えられない。それに、フォーリも置いていったパンを調べて、毒が入っていると分かったようだ。だから、水ではなくパンに入っていたと考えるべきだろう。」
ベイルは考え込んだ。
「…もし、そうなら事前にどのパンを若様に渡すか、どのパンを若様が食べるか知っている者が犯人ということになりますが……。」
シークは頷いた。そう考えざるを得ない。そうなると、セリナが一番犯人だという可能性が高くなる。
「だが、それだけではない。犯人がセリナを利用しているという可能性もある。セリナの思考を熟知している人間も、犯人とまではいかずとも、共犯、もしくは何も知らされずに利用されたと考えられる。」
「それは隊長、どうしてですか?なぜ、セリナが犯人ではないと?」
「セリナはあまりに無造作に、パンをちぎって食べていた。もし、犯人で毒を盛っているのなら、自分も食べてしまう可能性があるのに、平常心でそれをできるかということだ。若様が食べていたパンの布包みのパンを、無造作に取っていた。
本当に、他の人が食べたパンに毒が付着していなかったのが幸いだ。セリナが取っているから、指に毒がついてもおかしくない。どこについているか分からないからな。」
「混ぜ込んであるということはありませんか?」
「私もそれは考えたが、混ぜるにはパンを作っている最中にしかできない。しかも、こんなに大量にあるのに、どれが毒入りのパンか、きちんと見分けられると思うか?万一、間違って混ざってしまった場合、どうなる?」
シークの指摘にベイルは頷いた。
「確かにそれはそうですね。見分けがつかなくなります。それに、セリナが犯人だった場合、先ほどのように取り乱しはしないでしょう。知らなかったとしか考えられません。セリナがパンを配っていた時も、何かを知っているなどの様子は見受けられませんでした。」
「仮に第三者が毒を染みこませても変色したり、柔らかくなったりするだろうから、セリナが異変に気が付く。いつも、調理中の様子を見ていても、そういうことは気をつけている様子だった。中に注入するにしても、パンを切るとかしないといけない。セリナがその異変に気が付かないわけがない。セリナが避けてしまえばおしまいだ。
それに、セリナは若様のことが好きだ。好きな相手にそんなことをできるか?特に、あの年頃の女の子が。」
「そうなると、一体、誰が?セリナの家族以外に考えられないのでは?若様用のパンがどれなのか、セリナから直接聞かないとできない芸当だと思うのですが。」
「その可能性は高い。だが、何とは知らされずに、パンに付着させるように命じられたかもしれない。お前が見たという男は、商人のようだったと言ったな?もしかしたら、何か取引を持ちかけられているのかもしれない。
おそらく私達よりも商人の方が、村人にしてみれば、なじみがあるだろう。つまり、商人よりも私達の方が、村人にしてみれば信用ならない人間だということだ。きっと、何か知っていても教えてくれないだろうな。聞いて回ったら、かえって警戒されるだけだ。」
ベイルはため息をついた。
「そうですね。ようやく親しみを持って貰えるようになってきた所ですが、それとこれとは別でしょうし。何か事件があったことは隠しても分かるでしょうから。」
ベイルはそっと辺りを見回した。もう、ジラー達も合流していた。みんな、山道を塞ぐ丸太やら大岩やらに気を取られている。その隙にさらに小声で尋ねた。
「それよりも隊長。フォーリはどうでしたか?」
シークはため息をついた。
「かなり怒ってるな。」
そう言って、ベイルと正面から向き合う。
「もし、万一の時にはよろしく頼む。今夜でお前達と今生の別れをすることになるかもしれない。」
ぎょっとしてシークを見つめたベイルだったが、はい、と頷いた。フォーリのこともある程度分かってきたし、シークが決めたことは譲らないことも分かっている。
「すまんな。」
「分かってます。」
もうすでに、みんなで倒れた四人を助け出した所だった。
「怪我人の容態はどうだ?」
「フェリムが一番ひどくて。まだ、意識がありません。頭の出血がひどいです。」
ロモルが固い声で答えた。
「そうか…。セリナを助けてくれた。そうでなかったら、セリナが死んだかもしれない。そうならなくて、本当に良かった。フェリム、お前のおかげだ。私は若様にかかりっきりだったから。」
みんなで臨時にその辺の木を切り倒して、担架を作っている。その担架に一番最初に乗せられたダロスに、シークは声をかけた。
「絶対に、目を覚ませよ、フェリム。」
さらに肩をぽんぽんと叩く。その動きで、背中に痛みが走った。しばらく我慢していたが、だんだんひどくなってきた。
「大丈夫ですか?その矢を抜いた方がいいのでは?」
ロモルが心配した。
「そうだな。みんなに声をかけてからと思ったが、先に抜くか。」
「隊長、自分達は大丈夫なので、先に矢を抜いて下さい。隊長だって満身創痍じゃないですか。」
モナが言い出し、ラオとオスクも頷いた。
「分かった。すまないが、先にそうさせて貰う。」
星河語
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