教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 18
さて、別動隊として怪しい人物を追っていたベイル達。追い詰めた所で、逃げられたものの誰かは目星はついた。
一方、勝手に走って行ってしまった組は、ほとんどが隊長命令を正しく伝えようと、突っ走った二人を追いかけていた状態だった……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その頃、ベイル達は妙な者達を追いかけ、一人を捕まえようとしていた。少なくともマントは掴んだが、捕まえる寸前に逃げられた。というか、相手が足を滑らせて転び、斜面を滑っていったのだ。
捕まえようとしたビルク・ザンが一緒に滑っていきそうになり、慌ててアトー・バルクスが腕を捕らえてそれを阻止した。
「……。」
滑り落ちていった人物を見て、一同は考え込んでいた。
「今のは、村に来ている商人の一人か…仲間ではないですか?はっきりとは見えませんでしたか、おそらくそうかと。」
ロモルが言って、みんな頷いた。
「確かにそのように見えた。だが、決めつけは禁物だ。決めつけると視野が狭くなる。」
ベイルが注意して、みんな頷き合う。その時、テルク・ドンカが周りを考え込みながら、眺めていた。
「どうした、ドンカ?」
「あの、副隊長。この辺、以外にさっきの道から奥に来てしまっているように思います。なんだか、私達を隊長達から引き離すためのような気がして…。」
テルクは地図や地形図を作るのが得意だ。
「そうだな。相手が何者か、一応、手がかりは掴んだ。このマントを持って帰ろう。長居は禁物だし、私もドンカと同じ意見だ。」
ベイルはマントを回収させると、戻ることにした。
さて、ベイル達が行ってしまった後、シークが呼び止めたのにも関わらず、つい、走って行ってしまった四人、ディルグ・アビング、ミブス・ノーク、ジェルミ・カンバ、ロル・オスターを追いかけて、テレム・ピンヴァーとイワナプ・ジラーは走った。
ところが、この四人、興奮しているせいかいつも以上に山道を上手く走り、不審者を長く追いかけてしまった。
「おい、馬鹿……野郎…隊長が、行くなって、叫んだ……だろうが!!」
ジラーは息も絶え絶えに、ようやく捕まえた一人、ジェルミ・カンバに怒鳴った。
「……わ…分かってる……あいつらを、呼び戻そうと……走って追いかけてたら……全然……捕まらなくて……。」
ジェルミも息も絶え絶えに答えた。テレムがもう一人、ミブスを捕まえてきた。
「なんで、隊長の言うこと聞かないんだよ、馬鹿野郎!」
息を整えたジラーはミブスにも怒鳴った。
「早く戻らないと、若様の様子がおかしかった。」
ようやく息をついたテレムが言う。
「…ったく、誰が率先して走って行ってんだよ!」
「オスターとアビング。」
息を整えたミブスが答える。
「…ごめん。なんか捕まらなくて、あいつら。何回か怒鳴ったんだけど。」
ミブスの声は確かに掠れている。誰かが何か叫んでいる声は、ジラーもテレムも確かに聞いていた。ミブスが時々、行くなと叫んでいたのだろう。
「置いて帰りたいくらいだよ…!」
言いながら、ジラーはもう一度、向こうを見やった。すると、ようやくみんなが来ていないと気づいたディルグが振り返って、なんとかロルを呼び戻そうと大声を張り上げていた。
しばらくして、ロルが姿を現した。ディルグが何か言ったらしく、それでもロルは何か言っていたが、ようやくみんなの姿を見つけて、急いで走って戻ってきた。だが、見当違いの大声を張り上げる。
「みんな、早くしないと、あの男を逃がしてしまう…!早く行って捕まえないと!」
戻れと言いに走って追いかけていたみんなは、じろりとロルを睨みつけた。
「馬鹿野郎!隊長は戻れと言っただろうが!何、勘違いして一人突っ走って行ってんだよ!」
ジラーが怒鳴る。だが、ロルはきょとんとした。
「え、だって、みんなついてきたじゃん。ついて来たから、てっきりそれでいいと思った。だから、余計に早くみんなとあいつを捕まえないとって。」
「違う!」
ジェルミが怒鳴った。
「お前に隊長が戻れって言ってると、言いに行ったんだよ!」
「…ごめん、私もつい、何も考えずに行ってしまった。男の姿が見えたから、つい。」
ディルグがみんなの剣幕に謝った。
「仕方ない。やっちまったことは取り返しつかないしな。」
そして、みんなの視線が一斉にきょとんとしているロルを見やる。
「…え、おれが悪いの?」
「当たり前だろ…!お前を捕まえるために、どれだけ走ってきたと思ってんだよ!しかも、考えてもみろ!ここに六人もいるんだぞ!隊長達、今は八人しかいない!もし、何かあったら、まずいだろうが!」
ミブスも怒鳴る。喉がかれているのに怒鳴ったので、ますますかれる。怒鳴った後に咳き込んだ。
「だって、副隊長達も六人で走って行ったから、おれ達も捕まえないとって思った。」
「馬鹿!副隊長達は、最初から別動隊の役割で動いてんだよ!私達は別!何も指示されていないだろ!」
「……あ。そっか。」
ようやくロルは、自分の過ちに納得した。
「みんな、ごめん。でも、あいつ、捕まえられそう。」
「陽動作戦だよ!」
「え、でも、あそこにいるのに?」
ロルが向こうの小山を指さした。確かに、ロルの言うとおり何者かが、向こうの斜面からこっちの様子を覗っている。非常に腹立たしい。馬鹿にされているようだ。
シャッ、ギューッと音がして隣を見れば、テレムが弓を引き絞っている。彼はなかなか弓矢の腕がいい。
「ちょっと、風があるな。届かんかなー?」
言いながら、矢を放った。バシュッ、と勢いよく矢が飛んで行く。弧を描くようにして、まるで大外れかのように飛んでいくが、計算の上でのことだ。風に流されてちょうどよく、しかも、男が矢に気がついて逃げようとし、斜面を登ることも計算に入っている。
男の肩甲骨の下辺りに矢が命中した。だが、男は少しだけ動きを止めたものの、そのまま斜面を登り今度こそ去って行った。
「怒ってもしょうがない。それより、隊長の命令は四人を連れ戻して来いだった。戻ろう。一応、敵に矢は命中したし。言い訳の一つできるだろう。みんなに少しは面子が立つさ。」
テレムはジラーの肩をぽんぽんと叩く。
「そうだな。早く戻るぞ。」
言いながら、ジラーは肝心なことに気がついた。
「なあ。私達、どうやって戻るか、道、分かるか?まさか、道に迷ってないよな?」
星河語
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