教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 17
丸太が転がった後は、怪我人が複数出てしまった。だが、まごついている暇はない。残った人数で進むが、休閑地に差し掛かった時、新たな攻撃が……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その時、近くでモナが呻いた。足が丸太の下敷きになっている。気がついたようだ。
「スーガ、よく聞け。」
シークが声をかけるとモナは首を巡らし、上を見上げた。
「スーガ、すまない。今は緊急事態だ。お前達を助けている時間がない。敵を呼び寄せる危険もあるが、緊急事態の笛を鳴らす。」
シークが頷いたので、トゥインがすぐに笛を吹いた。これで、ベイル達に緊急事態が起きたことを知らせる。
「私達は先に行く。若様に毒を盛られたようだ。屋敷に先に戻る。後で必ず来るから、それまで持ちこたえろ。分かったな?」
「…はい。私達は大丈夫です。早く、若様を屋敷に。」
モナは青い顔で答えた。大丈夫ではないことは明白だったが、シークは頷いた。
「行くぞ。」
シークは他の三人を連れて歩き出した。前にジルムとトゥインが出て、後ろにウィットという隊形だ。
「ほ、他の人は…?」
セリナが震える声で聞いてきた。全身小刻みに震えている。かなり、恐いはずだ。でも、今はゆっくりしている暇がない。
「今は、若様を守る事の方が先決だ。早くしないとお命が危ない。」
シークは足首を少し捻っていたが、今はそれどころではないし、走れないわけでもなかった。
「あし、大丈夫ですか?」
セリナが聞いてきた。よく気が利く子だ。
「大丈夫だ。セリナ、私の隣にいるように。急ぐぞ。気をつけろ。」
一番安全な自分の左側をセリナに歩かせる。右はいざという時、剣を抜く。剣を右手で振るため、その時、間違って斬ったら大変なので、右側は歩かせない。
普段ならとっくに抜けている山道をようやく抜けた。おそらくセリナの足でも、百歩も歩くか歩かないかの距離だった。
だが、次はもっと難関だった。山が近くにあって、道は開けている。放牧地で隠れる所がない。草原のようになっている。今は休閑地になっているので、草原も同じだ。隠れる所がない。
「気をつけろ。行くぞ。」
きりきりするような緊張の中、五人は放牧地が広がっている草原を小走りで進み始めた。セリナは何に気をつけるのか、よく分かっていないようだった。だが、説明する時間もない。
ヒュン、と空を切る音がした。すぐさま、ウィットが剣を抜いて叩き落とした。
矢だ。次々に射ってくる。トゥインとジルムもウィットに続いた。隣を見ると、セリナが呆然として飛んでくる矢を見つめている。
「セリナ!」
シークが大声で呼ぶと、ウィットが走ってセリナの襟首を掴み、シークの隣に押しやってくれた。
「しゃがめ…!」
だが、セリナはがくがくしていて、すぐに座れないようだ。このままではいい標的だ。シークは若様を抱きかかえたまま体当たりして、セリナを地面に転がした。革の胴着を着ているので、自分の背中を盾にして若様とセリナを守る。
「隊長、大丈夫ですか!?」
トゥインが聞いてきた。
「大丈夫だ!」
大声で返す。ここで慌てたら一環の終わりだ。震えてすくんでいるセリナに、シークはできるだけよく聞こえるように、大きな声ではっきりと告げる。
「大丈夫か、セリナ。動けるか?しゃがんだまま、こっちに来られるか?」
少し離れてしまったので、セリナに尋ねると、彼女は震えながらシークを見つめた。目が恐怖に駆られている。このままでは立ってしまいそうだ。立てばすぐに矢が突き刺さってハリネズミのようになってしまうだろう。
「セリナ、大丈夫だ。言うことを聞けば助かる。いいな?」
シークは繰り返しセリナに言い聞かせた。すると、ようやくセリナの恐怖が少し取れて、ぎこちなく頷いた。妹達がいて良かったと思う。そうでないと、対応の仕方を間違えて怖がらせ、不用意に立たせてしまったかもしれなかった。
ようやく、セリナはしゃがんだまま側に寄ってきた。歩けばたった三、四歩の距離だが異常に長く感じた。
その間にも、シークの背中に矢が数本突き刺さる。
「!」
何本か貫通した。背中に痛みが走ったが、そっと深呼吸して痛みに耐えた。今はそれどころではない。生きていなければ、痛みを感じることさえできないのだ。
「よし、よくやった。いいか、よく話を聞け。いいな?私の言うことを聞くんだぞ?分かったな?」
セリナが頷いたので、話を続ける。
「いいか、セリナ、一、二、三で、向こうの放牧地の方に走るぞ。距離を稼げば、矢も飛んでこないはずだ。」
もう一度繰り返すと、セリナが頷いた。
「!」
さらに貫通した矢がある。シークはセリナに気づかれないように痛みに耐えた。そのため、数を数えるのが遅れた。しかし、それが良かった。
少し離れた所から、走ってくる足音の振動を感じた。間違いなく走ってくる。
星河語
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