教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 13
若様とセリナは楽しくお喋りを続けている。セリナが森の子族を恐れているので、若様は噂みたいにリタ族は怖くないと力説する。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
若様はセリナに、サリカタ山脈やリタの森にいた時の話をしている。セリナは色々と興味を持って話を聞くので、若様も話すのが楽しいようだ。男女の差はあるが、同年代と話す貴重な時間だ。
「…リタって、リタ族っていう恐い人達の住んでる森ですか?」
セリナが本当に恐そうに言った。パルゼ王国出身の人々が多く住んでいるこの地域では、排他的なのもあって森の子族との交流などまずない。それで、余計に怖さが増しているようだった。
恐い噂というのは、一人歩きするものでもある。
(……まあ、実際にリタ族は激しい人が多いが。)
シークは内心はそう思う。その上、討ち取った敵将をバラバラにするというのだから、余計に恐ろしさが増すだろう。
「君が思ってるほど、恐ろしくないよ。」
若様が説明を始めた。きっと、若様も村娘達がロモルやウィットの洗濯物を洗いたくないと、言い合っているのを聞いたことがあるのだろう。それだけでなく、あまり話しかけないようにしているのも分かっているはずだ。
「森に迷い込んだからってすぐに殺されるわけじゃないし。客人として扱って貰ったし、同年代の子達と遊んで楽しかった。それに、セリナ、君もリタ族と接しているよ。」
「え?ほんとですか?どこで?」
セリナは目を丸くして聞き返していたが、すぐにピンときたようだ。おずおずと二人の側に立っているシークを見上げてきた。
「もしかして、隊長さんの隊にいるんですか?」
セリナは恐る恐る尋ねてきた。その様子があまりにも『しまったなぁ、どうしよう……。口を滑らしちゃった。』と顔に書いてあるようで、思わずシークは苦笑して頷いた。
「私の隊には森の子族が二人いて、そのうちの一人がリタ族だ。」
シークの説明にセリナは思い至ったようだ。
「セリナ、大丈夫だよ。悪い人達じゃないよ。悪かったら親衛隊には、なれないんだから。」
若様が賢明にセリナの恐怖心を取ろうと説明を行う。その様子に若様は本当に成長していると思う一方で、本来の性格が出てきたのかもしれないとも思うのだった。
「そ、そうですよね、すみません。」
セリナは恐怖を感じたことを恥じるように、シークに謝ってきた。あまり、森の子族と接しない地域に住んでいる。ほとんど話題にすら上らないだろう。実際には割と近くに住んでいたりするのだが。
「いいや、仕方ないことだ。あまり、お互いに接触することがない。だから、どうしても噂なんかが信憑性を増してしまう。ただ、病気か何かのように思わないで欲しい。彼らも人だから、傷ついてしまう。」
シークが説明すると、セリナはドキッとしたような表情を浮かべ、その後に気まずそうな顔になった。おそらく洗濯物の件を、シーク達が知っていると勘づいたのだろう。
「…ごめんなさい。」
結局、セリナは言い訳の一つもせずに、謝った。ただ、セリナ一人が悪いわけではない。
「いいや、誤解しないでくれ。何もお前一人が悪いと言ったわけではない。」
あまりにもセリナが神妙になっているので、シークは補足した。
「分かってます。ただ、わたしも、シルネとエルナが嫌いなのに、おんなじような考えも少しあったなぁって、思ったので。反省したんです。」
セリナはいい子だ。きちんと自分の至らない所も、正面から見て受け止めることができる。案外、自分の至らなさは見つめることが難しいものだ。
「セリナは立派だよ。」
若様も同じ思いになったらしい。
「だって、ちゃんと自分の悪いところも認められるもん。ね、そうでしょ、ヴァドサ隊長。」
急いでシークに聞いてくる。シークはそんな若様に頷いた。
「はい、若様、そうですね。仰るとおりです。」
シークの返事を聞いて、若様は嬉しそうに笑い、セリナもどことなくほっとしたような表情を浮かべている。
ラオとテルクがパンとお菓子を食べきった。しかし、すぐに毒の有無は判断できないので、しばらく待つ。
「あの、若様。」
セリナが何かに気がついて言い出した。
「そうしたら勉強とかどうしてたんですか?わたし、てっきりここにいる時みたいに、お屋敷にいての生活だとばかり思ってました。だから、どこかの先生に習ってたのかな、とか思ってたんですけど、よく考えたらここにも、勉強の先生っていないよなあって思ってですね。」
セリナの疑問ももっともだ。勉強どころではなかっただろうとも、想像できるが…。
「うん、フォーリが教えてくれるよ。でも、昔は…王宮にいた頃は先生に習っていたし、ここに来る前のノンプディの屋敷には先生がいたよ。」
若様はにっこりして答えた。
「でも、本とか必要でしょう?そりゃ、前のお屋敷で先生がいる時や、ここのお屋敷にいる時は図書室がありますから、そこで勉強できるでしょうけど、森や山ではどうしてたんですか?」
セリナの質問も最もだった。シークは若様の上手く話せない状況を見ているものだから、勉強なんかは後回しで、とにかく若様が安心して暮らせるようにしていたのだろう、というくらいにしか考えていなかった。思わず「確かに。」と呟いた。
「ずっと森や山にいたわけではないから、拾ってきた本や新聞なんかで教わったよ。それにフォーリは暗記しているから。」
ニピ族の暗記力は凄まじい。地図やなんかも頭に叩き込む。ただ、舞や踊りができればそれでいいというわけではない。
「あんきって?」
まさか、本一冊の暗記だと思わなかったらしく、セリナがぽかんとして聞き返した。
「頭に記憶しておくことだよ。」
若様はそんなことも分からないのか、ということは言わず丁寧に説明した。
「森の子族もそうだけど、昔からの言い伝えなんかは口伝で伝えられる。だから、見たこと聞いたことを、正確に覚えて伝える能力に長けているんだ。子どもの頃から訓練しているから。
街に出てきた森の子族は、もちろん字も使うよ。だから、字も使える森の子族が一番、暗記力は高いと思う。ニピ族も彼らと似たようなものだから。」
「じゃ、じゃあ、本がない時は、フォーリさんが覚えている本の中から教えて貰うってこと?」
「そうだね。だけど、さすがに難しいこととなるとそうもいかないよ。だから、本を持ってきてくれた。」
星河語
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