教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 12
シークは悩みながらも、セリナが作ってきた大量のパンを食べることを承諾した。毒味はさせたが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは不安を隠しながら、若様の護衛をしていた。セリナは気が利く子で、彼女自身が不安なせいか、実にいい場所に案内してくれた。若様も少し気晴らしができるし、森に狩りに行くより格段に近い。
村の放牧地の一つで、あまり使われない場所だ。ただ、それでもいくつか危険だと思われる箇所はあった。切り通しのようになっている場所があるのだ。
少し出発が遅れてしまったので、ぶらぶら歩いていたら丁度良かった。もし、昼に戻ろうと思えば戻れる距離だ。
だが、今、シークはどうしようかと悩んでいた。昼に屋敷に戻るかどうか。何事もないのが一番だが、敵が絶好の機会に動いてこないのも不気味だった。
さらに、不安材料がもう一つ。セリナが家でパンを作ってきたのだ。事前に若様にお出かけ情報を聞いていたため、家で焼いてきたという。フォーリを休ませるなら、お昼が必要だろうと考えたのだ。
もちろん若様の分はあるが、フォーリやシーク達親衛隊の分まで焼いて来たのだ。母のジリナが屋敷に泊まりだったので、これ幸いと焼いたらしい。
本当なら危険だが、セリナはフォーリが料理の手伝いに任命している。その上、毒味などの手順も覚えている。さらに、こんなに大量に焼いたのに、むげにダメだとも言えないということだ。
小麦粉は貴重だ。貴重な小麦粉を大量に使って、二十人分のパンを焼いてきたのだ。若様とフォーリだけならいざ知らず、それだけの量を焼くのは大変な作業だっただろう。
シークは家事の大変さを知っているので、これは安全上食べられないと言えば、セリナの気持ちも労力も全て無駄にしてしまい、気の毒だった。
(毒味もするし、大丈夫なはずだ。)
シークは考えた。ラオ・ヒルメとテルク・ドンカの二人に毒味役をして貰っている。本当は二人も恐いはずだ。この屋敷に来てからも、女性が死んでいるし、シーク自身も毒を盛られた。
(それに、こんなに大量のパンがあるのに、どうやって若様のパンにだけ毒を入れる?)
そう、セリナは背負い籠一杯にパンを焼いてきたのだ。それはとても大変でかなり重たいだろう。さらに言うならば、若様のことを好きなセリナが、何か入れるとは考えにくいということだ。
とりあえず持ってきて貰ったが、屋敷に置いて来ても良かっただろうか。いや、置いている間に何者かが毒を入れる可能性もある。誰も厨房で見張っていない。
運んでいる間は、少なくとも誰も毒を入れていないことは明白なのだから。
そんなことを考えていると、セリナが若様をからかいはじめた。
「そういえば、若様、あの時、分からなかった“あそこ”の意味は聞きましたか?」
セリナが言った途端、若様はしどろもどろになって、慌てだした。
「え、あ、えーと、何を言ってるの、セリナ…!」
若様は顔を赤くして怒っている。
「つまり、聞いたんですね?」
「だ、だめだよ、まだ、年若い女の子がそんなことを言ったら、良くないと思う…!」
「え、わたし、何も言ってませんよー。」
「もう、セリナ!」
珍しく若様がセリナの前でぷんぷん怒っている。でも、セリナは若様の怒っている姿が可愛いものだから、もっとからかいたい様子だ。これ以上はよくないので、シークは咳払いをしてそれを止めた。
「分かりました、すみません、若様。それよりも、ほら、ここら辺でご飯にしませんか?見晴らしもいいし、ちょうどいいですよ。ここの岩が座るのにちょうどいいんです。」
セリナは正しくシークの咳払いの意味を捉え、若様に謝罪してご飯を持ちだして機嫌を取っている。若様は今まで怒っていたのが嘘のように、にこにこしてセリナに聞き返した。
「草の上には座らないの?でも、おしりが濡れちゃうか。」
案外草地の上は濡れていることがある。草の汁がついたりするし、虫もいるので意外に草地の上に直接座るのは快適ではない。何か敷物があった方がいい。ない場合は岩の上に座った方が無難だろう。
「そうですよ。それに、放牧地だから、時々、家畜の糞が落ちていますからね。」
さらに「糞の上に座ったら最悪。」という小声が続いた。セリナは言いながら背負い籠を岩の上に下ろした。平らな岩がいくつかあるので、ちょうどいい。
セリナは布に包んだパンを取り出した。その包みは、来る前に若様用の厨房に二つずつ置いてきた物の残りだ。フォーリも食べるだろうからというのと、何かあった時に調べる用のパンと二つずつだ。
「ちゃんと全て同じ材料からできてます。」
セリナは手に持った布のパンと籠のパンと両方、指さしながら言った。布にいくつかずつまとめてくるんである。適当に取った布包みの中から、別々の布包みを選び、ラオとテルクがそれぞれパンとお菓子を取り出し、それらと水の毒味を行った。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




