教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 11
エルナから話を聞いたベリー医師は、確実に何者かの罠だと確信する。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「あたしは…恐かったんです。だって、油壺を壊して油を撒けなんて、怪しいです。それに、粉を入れるのだって恐かったんです。最初に来た頃に、若様の毒味係だという女性が死にました。粉は若様の水瓶だけでなく…えーと、こ……国王軍の水瓶にも入れるようにって、言われたんです。」
エルナは両手を握っていたが、その手は細かく震え続けていた。何度も服を掴み両手をこすりつけている。
フォーリとベリー医師は顔を見合わせた。間違いない。標的は若様、フォーリ、親衛隊の三者だ。
「それで、その粉はある?」
エルナは少し固まったが、少ししてから服のポケットに手を差し入れ、小さな紙包みを差し出した。全部で四包みある。しかも、中身は入ったままだ。
「君、入れなかったの?」
するとエルナは頷いた。
「あたしは国王軍の方に入れるように、シルネに言われました。でも、あたしは入れたくなかった。だから……入れなかったんです。シルネは若様用の方に入れるって言いました。」
エルナは乾いた声で答えた。さすがに恐くなったのだろう。それが普通だ。いかにも怪しい。
「それで、どうして入れたくなかったの?」
すると、エルナは頬を赤らめた。
「……その…国王軍の人の中に…かっこいいなって思う人がいて…それで、入れたくなかったから……。」
「分かった。」
ベリー医師は言って、その薬をしっかり受け取った。
「中身を小麦粉に変えたりしてないだろうね?」
その時、ずっと黙っていたジリナが詰問した。すると、エルナは慌てて首を振った。
「そ、そんなこと、してません…!」
「本当だろうね。嘘をついたら、シルネと一緒にお尻じゃなく、ご自慢のおっぱいをひん剥いて叩くよ?」
「本当です、嘘じゃない…!」
その必死の形相からして、嘘ではなさそうだ。エルナは今から服を剥がされるかのように、慌てて胸の前をかき合わせている。すっかり、エルナの顔は青ざめて血の気がなかった。
「シルネにはやめようって言いました。でも、あの綺麗なリボンが欲しかったら、やれって言われて。あたしはいつも、シルネより立場が下だから、言うことを聞くしかなくて。それで…」
ベリー医師は、まだ続きそうな話を遮った。時間が無い。
「分かった。ありがとう。約束通りあげるよ。だけど、これはシルネには内緒だ。言ったらだめだよ。もちろん、家の人にも内緒。ここにいる私達意外に決して話すんじゃない。」
エルナに念を押してジリナと一緒に戻した。
「ベリー先生、その毒は、普通に手に入りますか?」
「まさか、手に入るわけがない。カートン家でも厳重に管理しているからね。この毒薬の原料になる薬草も厳しい管理の薬草園で栽培し、薬として精製する時も厳しい管理の下で為される。」
それを聞くや否や、フォーリは走って出て行った。ベリー医師も追いかけたかったが、まずはエルナが差し出した粉の確認が先だ。
紙包みを一つ解いて開き、確認する。結晶をすりつぶしたような感じがする。他に眠り薬なる薬を煮出したものを、もう一度乾燥させて粉にしたようなものも入っているようだ。
ベリー医師は作っていた薬の内の一つを瓶に詰めた。なぜか胸騒ぎがしていて作っていた内の一つだ。普通なら作らない毒の解毒薬だ。でも、親衛隊全員となると足りないかもしれない。
ただ、エルナの話を聞く限りは入れていないだろうと、入れてない方に賭けることにした。時間がないのだ。一刻(この当時のサリカタ王国の時間区分。一刻は約二分。半刻が約一分に当たる。)を争う。
他にも大急ぎで薬を用意すると、ジリナにセリナがどこへ行くかを聞き、さらに誰かを寄越して医務室を見張って欲しいと伝え、大急ぎで走って出た。
とっくにフォーリの姿がない。ジリナは何も聞かなかった。だが、分かっているだろう。何か緊急事態が起きていることくらい。
(もし、これでエルナの命が無事で、さらに医務室も無事だったら、何も薬をいじられなかったとすれば、ジリナさんが犯人ではないということだ。)
ベリー医師はそう考えながら走った。
星河語
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