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教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 10

 ベリー医師は、厨房から持ってきたパンの匂いをなんとなく嗅いで異変に気づく。そして、パンに毒が振りかけられていることを見抜いたが……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 とりあえず、二人はセリナが置いていったパンには手をつけていないようだ。しかも、あの様子からしてパンには何もしていないだろう。その上、二人がいたならかえって、くせ者も侵入できなかったはずだ。

 ベリー医師はそう考えて、かえってパンは安全だろうと結論づけ、フォーリに食べさせるべく持って医務室に帰った。

「こんな物があった。セリナが作ったようだ。ヴァドサ隊長の指示で置いていったようですな。食べますか?」

 若様の書き置きを見せながらフォーリに確認した。ベリー医師はなんとなく、一つのパンを手に取り匂いを()いだ。それは、ベリー医師に身についているカートン家の医師としての本能のような、自然な流れのものだった。だが、それはカートン家の教えが正しかったことを証明することでもあった。

「!」

 妙な苦みのあるような臭い。重曹に近いが少し違う気がする。急いで別のパンを手に取り、それから、最初のパンの臭いを嗅ぐ。後のパンからは発酵させた匂いがした。

 ベリー医師の背中につっと冷や汗が伝った。

(これは……。もし、私の勘が伝える通りだったら……かなりの猛毒だ。試してみるしかない。)

 ベリー医師は、指先についた粉を()めた。強烈な苦みに急いで流しに行って吐き出し、急いで口をゆすいだ。

「まさか、毒ですか?」

 ベリー医師の行動に確信したフォーリが、勢いよく立ち上がった。

「間違いなく。最初は重曹の匂いだと思ったが、もしやと思って舐めてみたら間違いなく毒だ。しかも、珍しい毒で、銀にも反応しない。高純度に精製されている。少量を飲み込んでも、嘔吐(おうと)や呼吸不全に陥り、心拍異常や体温低下を引き起こし、最終的に死に至る。」

 ベリー医師の説明にフォーリの顔がすっかり青ざめた。セリナが犯人かどうかは別として、もし、親衛隊の全員にも同じものを食べさせ、全員が毒を食してしまった場合も想定される。おそらく、セリナのことだから親衛隊の分も作ってきたはずだ。

 そう、前日からセリナは、フォーリに休ませてお散歩に行く計画を知っている。ベリー医師は知っていた。だが、本当にセリナが犯人なのか。少し考えて何かが引っかかった。

(落ち着け。何かが引っかかる。)

 そして、さっきいた謎の人物、シルネとエルナの行動、そして、パンを順番に思い浮かべ、これは念入りに立てられた計画の罠だと直感した。

「ベリー先生…。」

「ちょっと待て、フォーリ…!実は若様用の厨房(ちゅうぼう)にシルネとエルナがいて、油壺を壊してあった。でも、二人ともさすがに若様用のパンには手を出していないと言った。そして、君を起こす直前に見かけた怪しげな人物。君はどう思う?」

「完全に怪しいです。何かを企んでいる。私は繋がっていると思います。」

「フォーリ、ちょっとジリナさんとエルナだけを連れてきて。シルネがいたら、あの子、喋らない。シルネはリカンナ達に見張らせよう。あの子達はシルネと対立しているから。」

 フォーリはすぐに出て行った。じきに二人を連れて戻ってくる。その間に少しでも時間が惜しくて、ベリー医師は薬を用意していた。思った通りだった。この辺で生えている珍しい毒草を使って毒を作っている。ただ、この毒の知識はフォーリ達ニピ族も知っているものだ。

「エルナ。すぐに答えて。そうしたら、これをあげるよ。」

 そう言って、絹の手巾を取り出した。美しい花模様の刺繍(ししゅう)が入っている。田舎の村娘の懐柔用に、妻に送って貰った数枚の内の一枚だ。意外なことにベリー医師の妻の趣味は刺繍である。多くの人にとても以外だと言われる趣味だった。

 エルナはごくりと唾を飲み込んだ。目が立体的な花の刺繍に釘付けだ。

「君はいつもシルネといるから、何でも綺麗な物は彼女の物になるはずだ。だけど、私の聞いたことに答えるなら、彼女には内緒でこれをあげよう。」

「……ほんとですか?」

 一応、遠慮して聞いてくる辺り、シルネより素直な一面がある。

「もちろん、本当だ。さあ、答えて。誰に油壺を壊すように言われたの?怒らないから、全部答えてくれるかな?」

 エルナはベリー医師の顔を見上げて、おずおずと(うなず)いた。

 そして、この間やってきた商人に絹製のリボンを手渡されて、もっと欲しかったら屋敷の油壺を壊し、粉を(かめ)に入れるように言われたと答えた。そのリボンは他の娘達にも売っている物とは質が違い、本当に手触りも滑らかで、きれいだったと答えた。

 シルネはそれですっかりやる気になり、一も二もなくやると答えたという。でも、エルナはさすがに油壺を壊して油を()き、その上、甕に粉を入れるように指示されたのは、恐ろしく感じたという。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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