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教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 9

 ベリー医師は、フォーリの昼食を得るため、厨房に向かったが……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 そうして、ベリー医師は厨房(ちゅうぼう)に向かった。親衛隊員用の厨房に行く前に、何気なしに若様専用の厨房を(のぞ)いた。今日はフォーリがいないし、食事は親衛隊員用の料理から分けて貰おうと思ったのだ。おそらく昼時には戻るだろうから。

 だから、本当に何気なしの行動だったが人影を見つけた。隠れているつもりなのか、いや、隠れるつもりもないのか、考え込むような妙な中腰で、かえって目立つ体勢で誰もいない厨房を歩いている、二つの人影。

「シルネ、エルナ、君達、ここで何をしているんだい?」

 ベリー医師の声に二人は飛び上がるように(おどろ)き、逃走しようとまっすぐ出入り口に向かってきた。いや、普通、まっすぐ突っ込んでくる?ベリー医師は軍人ではなく医者だから、横をすり抜ければ大丈夫だと思ったらしい。

 そうは行くかい。ベリー医師は素早く二人の首根っこを捕まえた。

「悪いけどね、君達。逃がすわけにはいかないな。」

 二人を(つか)んだまま歩き出そうとすると、シルネが文句を言った。

「ちょっと、何をするのよ、この変態!!」

 さすがのベリー医師も二の句を継げない。この開き直り方は素晴らしい。

「…そ、そうよ!何をするつもりなのよ!変なことでもするつもり!?」

 驚いていたエルナも慌ててシルネに続いた。

「やめてよ、あたし達に手を出すつもりなの!?あたしの父親は村長なのよ!」

 子猫のように首根っこを押さえられたまま、シルネは大声を出して、きゃあきゃあ騒いだ。それで、少し離れた隣の親衛隊用の厨房から、ジリナが気がついて出てきた。

「何をやって……。ベリー先生。どうかなさいましたか?この子達が何か?」

 ベリー医師が口を開く前に、シルネが騒いだ。

「おばさん、ちょっと助けて!変なことをされそうなの!!」

「…へえ、変なことねぇ。」

 ジリナの目が細くなる。

「何をされたって?」

「……そ、それは…その、だから、お尻と胸を触ったのよ!」

 どういうことを言い出すかと思えば、そんなことを言い出したのでジリナは吹き出した。そして、直後に真顔になり怒鳴りつける。

「馬鹿なことを言ってんじゃないよ!仕事をさぼっておいて、何をほざいてんだい!?」

 二人に怒鳴った後、もう一度ジリナはベリー医師に尋ねた。

「申し訳ありませんねぇ。それで、先生、この子達が何をしでかしてたんですか?」

「若様用の厨房に入り、中腰でうろついていたんですよ。それで、声をかけたら逃げようとしたので捕まえました。」

 ジリナの目が恐いほどに(きび)しくなった。

「お前達、入ってはいけない場所に入っておきながら、先生のせいにするとはいい度胸だね。」

「…な、何よ、セリナはいいのに、あたし達だけなんでいけないのよ…!」

 エルナの方はジリナの剣幕にすっかり大人しくなってしまったが、シルネはさらに言いつのった。

「そもそも、あの若様を毎日見ても欲情しない先生が、お前達なんかに誘惑される訳ないだろ。」

 随分(ずいぶん)な言われ用の様な気がするが、ベリー医師は厨房内の異変に気が付いた。厨房の奥の(かめ)を並べてある辺りの床が黒くなっている気がした。

「…ふ…普通の顔が好みかもしれないでしょ。」

「言っちゃ悪いけど、お前達じゃ、普通以下だね。」

 随分な言いようの様な気がするが、それを横に鼻をくんくんさせてみる。

「何よ、ひどい、おばさん!あたしは村中で一番、おっぱいが大きいんだから!」

「…油の臭いがする。」

 ベリー医師はシルネが言い訳している間に、厨房から漂う臭いに気がついた。

 ジリナに二人を任せ、急いで中に入ってしっかり確認する。油壺を壊してその辺に()いてあるようだ。

「油壺を壊して油を撒いてある。君達が壊したの?」

 ベリー医師の厳しい声に、シルネが黙りこくった。エルナも当然、黙っている。返事がないので振り返ると、二人は蒼白になっていた。

「ほう、お前達、随分、大胆なことをしたんだねえ。甕代と油代は村長にきっちり請求しようかねえ。」

「何よ、どうせ、父さんは払わないもん…!」

 ジリナはシルネをひっぱたいた。

「何を馬鹿なこと、言ってんだい…!ここにある物はみんなご領主様の物だよ!それを壊しておいて、弁償しないだって!?」

「…あ。」

 さすがのシルネも、自分達がしたことの重大さに気がついたようだった。

「先生、他に何かおかしな所はないですか?」

 ジリナの声にベリー医師は振り返った。シルネとエルナに尋ねる。

「君達、このパンだけど。君達が置いたの?」

 書き置きがあったが、念のために尋ねる。

「…違うわよ。どうせ、セリナが置いて行ったんでしょ。」

「何かした?」

「何もしてない。」

「食べてない?」

 するとシルネとエルナが鼻で笑った。

「食べないわよ。どうせ、セリナが作ったんだから、固くてまずいわよ。」

「本当に何も口にしてないね?」

「だから、何も食べてないって。」

 再三のベリー医師の確認に、二人はうるさそうに答えた。

「君達に教えておこう。なぜ、若様用の厨房が専用にあるのか。分かるかい?」

「ごちそうを作るためじゃないの?」

「そうじゃない。若様はいつ毒を盛られるか分からない。もし、親衛隊と同じ厨房で作った物を食べるようにしていたら、全員、若様に盛られた毒で、一緒にあの世に行くかもしれないからだ。だから、別に作ってある。

 もし、君達がそれを口にしていたら、若様の代わりに死んでもおかしくないから。だから、しつこく確認したんだよ。水も飲んでないね?」

 ベリー医師の説明に、二人は青ざめた顔でぎこちなく(うなず)いた。

「ジリナさん、その二人が他に何もしていないかどうか、聞いておいて下さい。さっき、見慣れない者が様子を(うかが)っていたので。」

 ベリー医師の説明を聞いて、さすがのジリナの顔にも少し緊張が走った。

「分かりました。」

 ジリナは言うと、シルネとエルナの首根っこを(つか)んで戻っていった。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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