教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 8
ベリー医師は若様たちを見送ったものの、非常に不安になる。とりあえず、薬類を作っておこうと思い作っていたが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ベリー医師は若様達を見送ったものの、心配だった。
実際問題、若様の言うとおり敵がニピ族ならば、危険な状況である。放っておいても危ないし、若様の囮作戦を行うのも危険だ。しかも、シークが引き受けてしまった。
胸騒ぎがする。確かにフォーリが寝ている間、今日しか機会はない。そう簡単に手を下すことはできないはずだ。しかも、田舎の村にいて、よそ者が来ただけで警戒されるのだ。
そんな中で本当に、若様を害する事件を引き起こせるのか、というのはある。だが、実際に若様を崖に連れて行った。つまり、黒帽子は田舎であっても、ことを十分に起こせるだけの人材を揃えているということだ。
ベリー医師は不安を打ち消すために、解毒薬を作っておくことにした。シークのことを考えると、毒にこだわっている可能性がある。いや、その可能性はおおいにある。
しかも、毒の種類が珍しく正確に量ってあった。その上、若様の診療記録を盗んでいる可能性が高い。それを考えれば、この辺で栽培できる、危険な猛毒の解毒薬を作っておくことにした。さらによく使われる毒も。
ベリー医師はせっせと解毒薬を作った。あまりに集中して作っていたため、気がついたらお昼時になっていた。
まだ、フォーリは眠っている。相当疲れていたらしい。そうだろう。一時も気を抜けないのだから。シーク達が来て負担はある程度減ったが、それでも大変だ。
ベリー医師は隣の部屋においてある薬草を取りに、少しの間、フォーリが寝ている医務室を後にした。
(…ああ、そうだ。これももう少し、干し方変えておこう。これも使えるくらいにカンカンに乾いたな。)
などと思って少し、やることが増えた。持っていった籠一杯に持って戻った。その時、ふと奥の方に人影が差した。
(!しまった、フォーリを狙いにきたか!?)
籠をそこの台に置くと、素早く鉄扇を抜いて何食わぬ顔でフォーリが寝ている方に向かった。
ベリー医師の気配に、何者かが気がついた。そして、素早く窓から逃走した。追いかける間もない。見たことのないマントを頭から被っていた。顔は見えなかった。
「……。」
急いでフォーリを確認すると息はある。まだ、何もされていないようだ。毒を嗅がされたとか、吸わされたとかはないようだ。部屋の中に匂いもしない。様子を伺っていただけらしい。それでも、念入りに調べてから、ベリー医師は急いでフォーリを起こす準備を始めた。
ついたてを大きく動かし、フォーリが起きざまにかかってきても、怪我をしないようにした。さらに、フォーリが起きてすぐ飲めるように、薬の準備もした。さっき、フォーリ用の薬は煮出しておいた。
そろそろ冷めているだろう。ベリー医師は今日の昼食を食べ損ねる可能性も考え、一粒食べると一日は元気に動ける滋養強壮の補薬も食べた。一粒と言っても、けっこう大きな一粒だ。親指と人差し指を輪っかにした内側くらいの大きさはある。
さらに、別の補薬を飲み、自分の用意を調えた所で、鍼と精油を出してフォーリに打ったり嗅がせたりして起こした。
「……う…。」
さすがに寝ぼけているようだったが、目が覚めた途端にフォーリは、鉄扇を抜きながら上半身を起こす。急いで後ろに下がり、ベリー医師は待ったをかける。
「待った!」
フォーリは一度、頭を振った。
「待てとはどういうつもりだ?私に鍼を打ち、気絶させたのはどういうことだ?」
「若様の頼みだ。仕方ないじゃないか。君を休ませたいと強く言われてね。」
「それでは、先生が私の代わりに護衛に行くべきでした。私の他には、先生しかニピの踊りができる者はいません。」
フォーリは怒ってはいるものの、口調が少しいつもに戻った。
「私もそうすると言ったけど、若様がフォーリが眠っている間に寝込みを襲われたら困るから、側についていて欲しいと言われた。確かに一理あると私も思ってね。君と親衛隊の精鋭を出し抜いて、若様を拉致したから。あきらめるよう、説得を試みたけど無理でした。この機会に犯人を誘き出すと。」
「なんということを!危険です。」
ベリー医師は頷いた。
「私も言ったよ。でも、若様は言い出したら頑固だしね。ヴァドサ隊長も考え込んで、別の機会にできないかと提案してた。君に寝たふりさせてね。でも、私がそれは無理だと言った。私が側にいても、敵を誘き出すのは無理だと言った。
そしたら、ヴァドサ隊長は、今日の機会にやるしかないと思っちゃって。まあ、私も敵のしっぽをやるからには、掴めって言っちゃったし。
それで、今度はわざとヴァドサ隊長の覚悟のほどを聞いて、どうせ何かあったら死罪になる覚悟でやるって言うに決まってるけど、そう聞いたら、やっぱり死罪になる覚悟でやるって言うんですな。
若様がそれを聞いて考え直すかと思ったけど、彼の命がかかると分かっても、若様はやると言って聞かなかった。
それどころか、セルゲス公の命令だと言って、ヴァドサ隊長を従わせちゃって。彼は真面目だから、そう言われたらやるからね。もし何かあったら、若様には内緒で死罪を申し出るつもりかも。」
ベリー医師が説明している間に、フォーリの顔色はどんどん青ざめた。
「それだけ分かっているなら、もっと早くに起こしてくれれば良かったのに!」
「…いや、実の所、もっと早くに自然に目覚めるかと思ったけど、目覚めなかった。それに胸騒ぎがするし薬の準備に没頭していたら、時間が過ぎていたんだよ。気がついたら昼前で、これは起きたらお腹も空いてるだろうし、まずいなと思ってね。」
フォーリは急いで寝台から下り、ふらついてよろめいた。
「…おや、珍しい光景を見た。やはり、超人のフォーリ殿も人でしたな。」
ベリー医師はフォーリの気持ちをほぐすため、わざとからかいながら用意しておいた薬の器にかけた布を取って差し出した。
「はい、体と頭が目覚める薬。効果は絶大だけど猛烈にまずい。」
ベリー医師が言い終わった時には、薬は全部飲み干されていた。実に素晴らしい飲みっぷりだ。だが、眉間に皺を寄せ物凄く顔をしかめている。そうだろう。かなりまずい。このまずさでも目覚めるだろう。
「これは一粒で一日動ける栄養価の高い薬。念のために食べておくといい。私もさっき食べたから。」
フォーリが食べ始めたのを見て、ベリー医師は口を開いた。
「実は君を起こす前に何者かが、この部屋を覗っていた。若様の読みは当たっていた。もし、私が君を置いて出て行ったら、殺されてたかもね。なぜなら、あの動きはニピ族の可能性がある。」
フォーリがはっとして、ベリー医師を凝視する。
「まあ、ヴァドサ隊長を置いていっても大丈夫だとは思ったけど、どうせここにいるなら、私がいた方が薬を作れて効率もいいしね。やっぱり、ニピ族かな、あれは。」
フォーリの眉間に皺が入る。
「私もまさかとは思った。若様がもし、そうだったら危険だと危惧しておられた。それを食べてて。ちょっと厨房をのぞいてくる。その薬だけより、食事ができたら食べた方がいいからね。」
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
エブリスタの方では、一旦、終わらさせて頂きました。長すぎるので仕切り直しといきます。昨日、エピローグを投稿させていただいたのです。
こちらではまだ、続きます。




