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教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 5

 シークは若様の作戦について考えていた。若様の言うことも一理はある。だが、若様自身が囮になるなど、やはり危険だ。考えていると、ベリー医師が敵にニピ族がいる可能性を告げる。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シークが若様を見ると、顔に分かりやすいほど『どうしよう。怒ってるみたい。』と書いてある。思わずよしよし、としたくなるのを我慢して、そっとしゃがんで耳打ちした。

「謝った方がいいですよ。それと、強力してくれるのだったら、お礼も必要です。」

 シークの助言に若様は頷いた。急いでベリー医師を見上げる。

「…あの、ベリー先生、無理を言ってごめんなさい。それと、助けてくれてありがとうございます。」

 後ろを向いて薬草を量ったりしていたベリー医師は、若様を振り返った。

「いいですか、若様。これは、命がけのことなのですよ。フォーリを休ませたいというお気持ちは分かります。私がその間、若様と一緒にいるつもりでした。

 ですが、若様の仰ることも一理ある。だから、若様の言われるとおり、私はフォーリの側にいましょう。ですが、油断は禁物です。

 セリナを巻き込むのですよ。若様にはそんなつもりがないことは分かっていますが、これはセリナを利用しているのです。セリナを巻き込みたくなければ、おやめなさい。」

 ベリー医師の判断は全うだ。全くもって正しい。だが、若様の言うことも一理あるのが現状だ。若様の言うことは無謀に聞こえるが、実際問題、そうでもしないと犯人は捕らえられないだろう。敵を(だま)すには味方から、を実行しているのだ。フォーリでさえ慌てることをすれば、敵は動いてくるだろう。

 若様はうつむいて震えた。

「私は犯人も見つけて、セリナも守る。」

 ようやく声を絞り出した若様に、ベリー医師は(きび)しく告げる。

「若様、世間では二兎を追う者は一兎をも得ずと言います。二つのものを同時に追いかけても、結局、二つとも得ることはできない、ということです。」

「…でも、このままじわじわと追い詰められるのは、嫌だ。セリナとも仲良く友達でいたい。私はただ生きたいだけなのに。他の少年達みたいに生きたいだけなのに、私にはそれが許されないの?」

「…残念ながら若様には、許されておりません。ですから、護衛が必要で用心が必要なのです。」

 大変、残酷な現実をベリー医師は突きつける。とても可哀想で気の毒だ。うつむいて震えている若様を見ていると、なんとかしてやりたくなった。

「ですから、若様、今日の所は考え直しませんか?」

「でも、フォーリの負担も減らしたい。」

 若様の声は消え入りそうだ。とうとうシークは口を挟んだ。

「ベリー先生。一つお尋ねしますが、フォーリに寝たふりをさせて、若様の言われるように囮作戦をした場合、上手くいくと思いますか?」

 シークの質問にベリー医師は少し考えていたが首を振った。

「おそらく、無理でしょう。相手もニピ族の可能性があります。」

 敵がニピ族の可能性があるとまでは思っていなかったので、本当にシークはぎょっとした。でも、確かにニピ族のフォーリを出し抜き、若様をあの現場から(さら)い、崖の方に連れて行ったのだ。武術の大家だとは思っていたが、ニピ族そのものとは思っていなかった。

 でも、その可能性はある。そもそも、シェリアの領地にいた時、屋敷が襲撃(しゅうげき)されたが、バムスのニピ族を二人も拘束した手練れが黒帽子という謎の組織にはいる。その可能性を考えていないこと自体が間違いだった。

 もしかしたら、この田舎の村にもニピ族の工作員がいるのかもしれない。その黒帽子は謎に満ちている。

「…ニピ族の可能性ですか?つまり…フォーリをこの間、出し抜けたからですか?」

 若様がびっくりしたようにシークを見上げている。そうびっくりしなくても、少し考えれば分かるよ…と言いたくなったが、黙っていた。ニピ族の可能性があるなら、寝たふりなんて速攻で見抜かれる可能性が高い。代わりにこう聞いてみる。

「では、先生、先生の代わりに私がフォーリの側にいたらどうですか?」

「ニピの踊りができるカートン家の医師が側にいて、敵が油断すると思いますか?」

 当然、シークがフォーリの側にいるなら、誰かが若様の側にいなくてはならない。その役割をベリー医師がした場合のことだ。

「…やはり、油断しないでしょうね。特に先生は切れ者ですから。」

 シークは考えながら、本心を述べた。

「お褒め頂いて光栄ですが、この作戦はフォーリも私もいないことが成功の前提だと思いますよ。」

 やっぱりそうでしょうね。シークは思いながら、とりあえず「そうですか。」と言っておいた。ベリー医師もニピ族の可能性があると踏んだから、警戒(けいかい)しているのだ。そうでなければ、ここまで警戒しないだろう。

 シーク達は少なくとも、それくらいの信用は得ている。

 そして、同時に若様の言うとおりの作戦くらいでないと、敵が引っかからないというのも分かっているので、余計に苛立っているようだ。

「やはり、ニピ族の可能性があるということを、先生も疑われているということですね。」

 シークが確認すると、ベリー医師は(うなず)いた。

「その通りです。フォーリを出し抜くのは、非常に(むずか)しいはずです。剣術でヴァドサ隊長がフォーリに勝てる可能性があるのは分かっていますが、気配を消すことや逆に察知するなどの芸当は、ニピ族が天下一です。

 そのフォーリを出し抜くことがいかに大変か、そして、それがどれほど危険で深刻な状況かヴァドサ隊長なら十分に、お分かりでしょう。」

 確かに危険だ。それは分かっている。ベリー医師は、危険なニピ族を放ってもおきたくないし、だからといって、若様がこの作戦を遂行するのも不安なのだ。

 確かに、敵はいつもシーク達の想像を超えて動いてくる。だから、確かに不安はある。

 だが、ベリー医師と同じで、危険なニピ族を放っておきたくない。かなり危ない。今ここにニピ族はフォーリ一人しかいないのだ。

 フォーリのいない間に、そして、ベリー医師が何か手を取られている間に、ニピ族に襲撃(しゅうげき)されたらと考えると、ぞっとする。考えるだけで恐ろしい話だ。

 だが、若様に万一のことがあった時のことも考えるとぞっとする。敵の襲撃が成功してしまったら、と思うとそれはそれで恐い。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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