教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 4
シークは立ち聞きしていたが、ベリー医師が適当な話をして若様を脅すので、仕方なく出て行った。そして、若様は意外に頑固である。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「…犯人は一人ではないと思う。でも、一人は…。」
若様が声を震わせた。シークも一家族だけ心当たりがある。おそらく若様も同じだろう。賢い子だから、勘づいているのだろう。
「一人しか思い付かないんだ。こんなに周到に事を起こせそうな人。ここに来て、私は一人しか思いつかない。」
「若様、誰ですか?お聞きした以上、私もお手伝いします。若様が死にかけてから助けるのは、けっこう大変ですから。」
さすが、ベリー医師。若様相手にも容赦ない。もし、フォーリが起きていたら、睨みつけていただろう。でも、今の若様にはちょうど良かったようだ。思わずふふと笑っている。
「…確かにそうだね。ジリナさんだよ。セリナのお母さんだから恐いんだ。でも、ジリナさんくらいしか思い付かない。」
やはりか、とシークは思う。同じだ。シークもフォーリも気をつけている所は。若様はジリナだけを注意しているようだが、シークとフォーリは、その家族全体に気をつけている。
ジリナの夫のオルも含め注視しているので、何かあるたびにオルを呼んで手伝って貰ったりしている。でも、今の所は何もなさそうだし、姿を見かけることもほとんどない。用事で来て貰った時だけだ。
「…そうですか。確かに気に入っている女の子のお母さんでは、はっきりさせたいし、はっきりさせるのは恐いですね。」
ベリー医師はそんなことを言って、若様を慌てさせている。
「な、何を言っているんだよ、セリナは友達だよ。」
思わず声がひっくり返りかけていて、シークは笑いそうになるのを堪えた。
「はあ、友達でしたか。まあ、どちらにせよ、ゆゆしき事態ですな。」
ベリー医師にかかれば、誰も太刀打ちできない。
「私も気をつけましょう。しかし、フォーリは何と言っていましたか?」
ベリー医師は何食わぬ顔で若様に尋ねる。
「フォーリは兵士の中にいないか、疑っている様子だった。」
本当はベリー医師も知っている。だが、若様が気に入っている女の子の家族を疑っているので、彼を傷つけないようにするため、フォーリとシークも加えて三人で知らないフリをして、シークの部下達だけを疑っているフリをすることになっていた。
実際にシークの部下にいてもおかしくない。本当は部下達を疑いたくないが、考えておくしかない。再三、何かあるたびにフォーリに指摘されるのだ。
それで、そういうことにした。そうすれば、若様もそれとなく気がついて、気をつけるだろう。ダロスの時の二の舞にしてはいけないからだ。
「分かりました。そうしたら、ヴァドサ隊長やベイル副隊長をはじめ、兵士達にも今はフォーリを休ませているから、代わりに護衛してくれと頼まないといけません。私はここで若様が暗殺されそうになった時に備え、止血薬とか解毒薬とか想定される準備をしておきますから。」
手伝ってやると言いながら、ベリー医師は妙に怒っている様子だ。本当は危険だからだ。
それに、お知らせしなくても、もう知ってますけど。
「…ベリー先生、何を言ってるの?」
若様が不思議そうな声になる。
「何って、若様が言われたことじゃありませんか。自分が囮になって、犯人を誘き出すと。フォーリがいない機会を狙うに違いないと。犯人を誘き出すにはフォーリがいない、と伝達しなくてはなりませんからな。
親衛隊に行っておけば、自然と屋敷中に伝わっていきますよ。心配無用です。後は若様が危機をご自分で脱しないといけません。なんせフォーリは寝てますから。」
どうやら、若様はぽかんとしている様子だ。
「何をぼんやりしてるんですか。まさか、今さら恐いとか怖じ気づいているんですか。ああ、そうだ、セリナと二人っきりになってはいけませんよ。二人だけの時に何かあった場合、セリナが犯人にされてしまい、確実に殺されてしまいます。
若様に頼まれてフォーリが助けようとしても、ヴァドサ隊長に殺されますよ。若様もご存じの通り彼はとても真面目な人ですから、セリナが若様を害したとなったら心を鬼にして、すまないって言いながらでも任務を全うするでしょう。
まあ、犯人にしてみれば、一度、セリナ辺りに濡れ衣を着せて犯人を捕らえさせたつもりにさせ、安心した所でゆっくり殺す。その方が確実にいけますから。」
(ちょっと、ベリー先生、何を言ってるんですか!?)
心の中でシークは叫んだ。いきなり、その場で犯人だろうと処断して殺すわけないでしょうが!!しかし、若様はその脅しが効いたらしく、黙り込んだ。
(困ったな、全く…!素直な子にそんな脅しをかけて…!)
しかし、実際問題、ここら辺で出て行くのが妥当だろう。きっと、ベリー医師もシークの存在に気づいているはずだ。だから、余計にそんなことを言っている。これ以上、嘘八百言われたくなかったら出て来い、と言っているのだ。
「一体、何の話ですか?ベリー先生?」
シークの声で若様はぎょっとしたように振り返り、気まずそうになった。だが、ベリー医師は飄々としている。やっぱり気づいていたのだ。まったく食えない医師だ。
「ちょうど良かった。今の話、ある程度、聞いていたでしょう。若様の提案で、フォーリを休ませています。」
「それは、分かっています。フォーリを休ませたいから、今日は特に念を入れて護衛して欲しいと、若様が仰ったのでお待ちしておりました。散歩をされるというお話でしたが、遅いのでお迎えに参ったのです。」
本当に自分達だけにならない限り、村娘達がいる時間は、こんな風に馬鹿丁寧に話している。何者が聞いているか分からないからだ。
「ですが、若様が囮になって犯人を誘き出すとかなんとか、どういうことですか?」
「私は反対しましたが、若様のご決心が固いのでお手伝いすることにしました。どっちみち、何か結果を出さないと、命がけでフォーリを眠らせた意味がありません。
私は寝込みのフォーリが襲われたら困るから、フォーリを守れという若様のご指示で、ここにいます。よって、何かあってもニピの踊りができる者はいませんので。」
なんか、ベリー医師は怒っている。当たられているような気がするのは、間違いだろうか。
「……。怒っていますか、ベリー先生?」
「怒る?私がどうして怒る必要が?」
いや、確実に怒っているだろう。自分の方が嘘八百言うなと言いたい所だったのに、言えないではないか。
「それより、時間を無駄にしない方がいいと思いますよ。ニピ族は寝だめをしますが、フォーリが後どれくらい眠っているか分かりませんし。それに私は若様に何かあったときのために、いろいろと薬を用意しないといけませんからな。」
やはり、完全にお冠だ。危ないと分かっているのに、若様が頑固に譲らないからだ。若様は頑固な所がある。この間もそうだった。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




