教訓、四十五。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 1
シークは若様と関係を修復できてほっとした。そして、今後のことを考え……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
若様は一時の疑心暗鬼に捕らわれたのが嘘のように、次の日からいつものように接してきた。
約束通り次の日には、剣術の練習前にベイルや部下達に謝罪した。みんな姉姫のリイカ姫が死んだという噂を立てられた直後のことだったので、若様が悪いとは思っていなかったが、若様がいつものように戻っていたので、ほっとした様子だった。
若様は、意地悪で冷たい若様ではなく、素直で純粋で優しい若様でいて貰いたい。時々、おっとりしていて遅かったり、意味が通じてなかったり、幼かったりすることはあるが、そんなことより、彼の性格が変わることの方をみんなは怖れていた。
きっと、村娘達は若様が疑心暗鬼にかられて、騒動になったとは思いもしていないに違いない。これが長く続かなくて、シークは心底ほっとした。
若様の不安が何なのか、一体、なんで急にあんなことを言い出したのか、分からなかったので、その方がシークには不安だった。
まさか、シークに子供が生まれると聞いて、自分は捨てられると思うとは考えなかった。だから、そのことにびっくりして、それと同時に若様のことが不憫になった。胸に深く剣を突き刺されたように感じた。
そして、それだけシークを慕ってくれている。捨てられると思うほどに、慕ってくれているのだ。捨てられたくないと強く思っている。誰でも捨てられたくない。でも、嫌いな人間相手にはそうは思わない。
だから、覚悟を決めた。若様のためにできることはしようと。そのために、自分の子供か若様か、究極の選択をしなくてはならなくなった時、若様を選ぶことを決めた。自分の子供は、アミラや他の家族に任せる。家族の力を信じて彼らに託すことを決断した。
後でフォーリに、あまりに驚かれてしまったが。そうだ。重要な決断をアミラにも、誰にも相談せずに決めてしまった。でも、後悔はしていないし、彼女なら分かってくれる。
若様を助けるためだ。身体に迫る危機からも守らなくてはいけないが、昨日のような疑心暗鬼や心の状態の悪化からも守る必要がある。
信頼関係が崩れ、闇に落ちていく人は後を絶たない。国王軍に入隊していれば、親衛隊になったはいいが…というその後譚を聞くことはいくらでもあった。
昔から、信頼関係が壊れて危機に陥ることはいくらでもあった。政治が不安定になっている時代は尚更だ。親衛隊の方が護衛する王族を裏切ることもあったし、王族の方が護衛する親衛隊の方を信頼できず、全員を抹殺した話もある。
だが、平和に安定してくると、悪い話よりも、出世街道の方が表に出てきやすい。
しかし、若様の場合は、そういう以前の悪い話を思い出さざるを得ないような、危ない状況になっていた。もしかしたら、後世になれば自分が生きている時代が、大変、混乱に満ちた戦国の世なのかもしれない。
とにかく、若様の護衛をするには、信頼関係を修復しておく必要があった。それには、何をおいても若様に信頼して貰わないといけないので、たとえ自分の子供が危機に陥っていても、若様を優先させるという約束をした。
それに、アミラを信じている。アミラも相当の猛者だ。サプリュ一女流剣士決定戦で、十位入賞を果たしたこともある。この剣術試合は、十五位から六位までが入賞だ。四位と五位は場合によっては、引き分けなどもあるので、割と高額な報奨金を貰えるようになっている。
さらに、家族の腕前も信用している。若様に言ったように、ヴァドサ家の家族もセグのことで相当落ち込み、さらに精進に励んでいるはずだ。諍いもあったりするが、そこは家族だ。それくらいは分かる。
シークも少し、家族に裏切られたような気分になったから分かるが、疑いだしたらきりがない。そして、後で山のような謝罪の手紙が届いて、家族がみんな心苦しく思っていることも分かった。
ベリー医師の推測通り、気を使いすぎたようだ。誤解なんて本当に小さなことが原因のことが多い。なんで、そんなことで大喧嘩をしたのか、ということは多い。
それで、感じた。疑心暗鬼とは結局、自分が作り出しているのではないかと。回りはそう思っていないのに、勝手に思い込むことによって、悪い方向に向き始め、人生まで失うことに繋がってしまう。それくらい、危ないものなのだと。
だから、若様が戻ってきてくれて、心底嬉しかった。そして、若様の要求には、できるだけ添うことができるようにしてやりたい、とも思った。いつもできるとは限らない。それは、若様も百も承知だ。それでも、言ってくるということは、どうしてもして欲しいからだ。
そもそも、若様はあまり何かを要求しない。確かに薪割りをしてみたいとか、そんなことはあるし、魚釣りで鮭を続けて釣った時、いくらを食べたいがために、次の日も魚釣りに行きたい、とか言ったことはあるが、どちらにしろ可愛いものだ。
星河語
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