教訓、四十四。時に言葉は、剣のように心を傷つける。 8
グイニスのグダグダ視点。姉のリイカが死んだと思い込んでいます。しかし、フォーリの言葉を聞いて、ようやく嘘だと分かりますが、シークに対して言った言葉を取り消すつもりがなく……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
でも、シーク達とは目を合わせられなかった。セリナが行ってしまって、フォーリも料理に戻ってしまって。とても気まずくて。でも、訂正はしたくなかった。
シークはいつでも、グイニスを殺そうと思えばできるのだ。殺した後で、王である叔父には内戦を起こす兆候があったと言えばいい話だ。そうすれば、許される。彼には何の問題もない。
なんで、彼はグイニスに親切にするのか。
急にそんなことも腹立たしく思えた。どうせなら、グイニスに儀礼的に義務で接してくれれば良かったのに。二人が困っている様子がうかがえた。窓を確認してから、出て行ってくれたので助かった。
そんなことを考えて、グイニスはフォーリにどう説明するか考えていた。
「若様。答えて下さい。」
今日、フォーリは何がなんでも、グイニスから答えを聞き出すつもりのようだ。でも、答えたくなかった。どうやって、説明すればいいかも分からなかった。
「若様、こっちを見て下さい。」
珍しくフォーリが厳しい声で、グイニスの顔を覗き込んできた。思わずグイニスは、その腕を払った。
「もう、放っておいて…!うるさい…!」
一瞬、フォーリも言葉を失った。びっくりしてグイニスを見つめている。
「だめです、若様。」
フォーリは気を取り直して、さらに言った。
「いやだ、どうして言わないといけないの!」
「若様を守るためです…!」
とうとうフォーリの声も大きくなった。
「そんなこと、どうでもいいよ…!姉上が死んでしまったかもしれないのに…!」
「その話は嘘です、若様…!なぜ、私達の言うことを信じて下さらないのですか!」
フォーリの言葉に、グイニスはようやく顔を上げた。フォーリが泣きそうな顔をしている。
「……本当に?」
「本当です。リイカ姫が死んだ話は、突然、この村に来て話されたことです。今日、一日の間に、仲間に周辺の村でのことを調べて貰いました。すると、この村だけで話されたと分かったのです。夕飯前に、仲間が来て教えてくれました。」
フォーリの話を聞いて、ようやくグイニスは安心した。姉は死んでない。つまり、生きて再会できる可能性が出てきた。
「……よ、良かった。」
息を吐くと、なんだかふらついてフォーリが支えてくれた。
「それで、若様。ヴァドサに何と言ったんですか?」
今日はどうしても聞くらしい。でも、そのことは別だった。そのことを言われると、急に腹が立ってくる。
「…別に、何でもないよ。」
「いいえ。若様。そんなことはありません。大事なことです。」
「…大事なこと?」
「はい。」
フォーリが頷いて、余計にグイニスは腹が立った。唯一の味方のフォーリでさえシークの方に行ってしまう。グイニスはフォーリの腕を振り払って叫んだ。
「大事なことなんかじゃないよ…!だって、どうせヴァドサ隊長は、叔父上の命令で私を見張ってて、殺したかったらいつでも、殺せるんだから!」
フォーリの顔が強ばった。フォーリも目を見開いて、グイニスを見つめた。
「なんで、驚くの!?だって、本当のことなのに!叔父上はヴァドサ隊長に、私を殺せって言ってた!いつでも、殺せるけど殺さないだけだ!」
フォーリは若様の言葉に驚愕していた。本当にそれを言ったのだとしたら、シークの心を切り裂いただろう。本当に若様のことを慈しみ、弟のように思い、心から心配し、家族のように愛しているのだから。
「本当に、それをヴァドサに言ったのですか?」
フォーリが確認すると、ますます若様は荒れて言い放った。
「だって、本当のことだもん!」
フォーリには分かっていた。若様の中にある闇が、今、出てきていることを。何が出て来るきっかけになっているか、何となくは分かっていた。シークに子供が生まれるからだ。彼の子供が生まれれば、所詮、赤の他人の若様は、自分が将来的に捨てられると思うから、だから、そう言っている。
それで、前にフォーリはシークに、若様を慈しむなと言ったのだ。でも、シークには相手にされなかった。それはそれで良かった。若様の心が安定したから。でも、今、隠しきれない若様の心の傷が、そこにある痛みが噴出していた。
隣の部屋の扉が開いて、ベリー医師が出てきた。
「若様。ご自分が何を言っているのか、分かっていますか?」
妙に丁寧に言っているが、目が据わっている。とても恐い。若様はベリー医師の登場に少しだけばつが悪そうだったが、開き直った。
「……分かってるもん。」
「では、聞きますが、いつでも殺せるなら、なんで、ヴァドサ隊長はあなたを抱きかかえて一晩中、森を走り回り、敵を斬り続けたんでしょうな?」
すると、若様はふふん、と鼻で笑った。今までそんなことは、一度もしたことがない。
「そんなこと、分かりきってる。私の信用を得るためだ。そして、見張って叔父上に報告するためだ。」
ベリー医師の眉間の皺が深くなった。
「そうですか。ならば、彼が毒だと分かっていて、毒をあなたの代わりに食べたのは?殺せばいいなら、あの時、あなたに食べさせれば万事早く片付いたはずですな。」
「叔父上の信用を得るためだ。叔父上の命令を聞いているんだから、叔父上の信用を得ないといけない。」
今は何を言っても、若様はそんな答えしか言わなかった。
星河語
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