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教訓、四十四。時に言葉は、剣のように心を傷つける。 7

 言い訳ですが……パソコンの不調などで遅くなりました。すみません。


 グイニスは自分みたいな役立たずの護衛なんて、シークもしたくないだろうと思っていた。子供が生まれたら、自分ではなく子供を選ぶに決まっている、とも思って荒れていた。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 どうして、グイニスが急にそう思うようになったのか。

 それは、セリナが拾われっ子だという話を、村娘達がしているのを小耳に挟んだことがあった。それからだ。

 セリナは拾われっ子なので、ある意味、自由だというのだ。どうせ、家族と言っても血のつながりはない、ただの赤の他人同士なんだし、こんな辺鄙(へんぴ)な村に縛られていないで、出て行きたかったら自由に出て行けるという話をしていた。

 たまたま、小耳に挟んでその時は、ふーんと思っただけだった。しかし、部屋に戻ってから、グイニスは前に読んだ物語を思い出した。

 優しい木こりが、孤児を拾って息子として育てていたが、自分の子供が生まれると、そのうちに少しずつ邪険にするようになり、その子は決心して木こりの家を出て、成功するという物語だ。

 シークに子供が生まれると聞いて、最初はただ単純に喜んだだけだった。でも、じきにその話を思い出した。守ってくれると言ってくれた。でも、自分の子供が生まれたら、もし、その子が命の危険に(さら)されていたら、きっと、彼は自分を置いて、その子を助けに行ってしまうだろう。

 いつも、悪夢はなんとなくもやがかかっていて、思い出せないことが多い。でも、昨日見た夢は少しだけ、覚えているところがあった。

 姉のリイカが戦地に送られると聞いて、必死になって扉を叩き続けた。閉じ込められている扉を叩いて、叩いて、叩き続けて、どうか、姉のリイカを戦地に送らないで下さいと頼み続けた。

 両手にあざができて、とても痛かった。それでも、グイニスは叩き続けた。しかし、どんなに叫び続けても、誰も何も答えてくれないのだ。

 グイニスにも何となく分かっている。この夢は夢ではなくて、きっとグイニスが現実に起こした行動なのだろうと。本当のことだったのだろうと。でも、グイニスには分からなかった。監禁中のことは記憶が曖昧(あいまい)な所が多くて、何が本当で嘘なのか、分からないことが多すぎた。

 そんな夢を見た後、側にフォーリの代わりにシークとベイルがいてくれた。外の景色を眺めながら、ぼんやりと昨日の夢の事なんかを考えていた。

(姉上はお元気かな。私が剣術を習い始めたと言ったら、どんな顔をされるだろう。)

 昔は姉の剣術に付き合わされるのが、とても嫌だった。嫌だと泣き言を言うと、『この弱虫!弱虫のくせに、強くならないから、弱虫のままよ…!少しは強くなるように、精進しなさい…!』と(きび)しく叱られた。

 思わず昔のことを思い出して、一人で苦笑していると、シークが聞いてきたのだ。

「若様、どうかなさいましたか?」

 と。それで、姉との思い出を話した。リイカの話をたくさんした。リイカはニーリベル流を習っていたとか、乗馬したまま旗を取り合う、旗取り合戦が好きで、よくその戦術を考えていたとか、そんな話を日中は延々としていた。

 二人は適度に相づちを打ちながら、グイニスの話をずっと聞いてくれた。その後は、ただひたすら外を眺めていた。

 姉の話をした後に、ふと、シークに子供が生まれる話を思い出し、そして、木こりの話も思い出した。

 急に複雑な気持ちになった。シークとは出会った時から、妙に安心感があって、グイニスは勝手に彼に父親像を重ね合わせていた。こんな人が父親だったら良かったのに。そんな風に思っていたから、余計に彼に子供が生まれる話は、グイニスにとって、彼とは無縁の他人になる話のように感じられた。

 それでも、シークが側にいる間は彼に甘えていたい気もした。剣術を丁寧に教えてくれる時間は、きついけれど楽しくて。自分を見て貰えている気がした。

 だから、図書室に行ってみるかという提案を受けた時、彼らと行こうと思ったのだ。そうだ、叔父の目の届かない所にいる間は、少しくらいシークに甘えていても、大丈夫だろう。

 それで、彼に甘えてフォーリにするように、わざとマントの影に隠れて一緒に歩いた。シークは少し困った様子だったが、それでも、歩調を合わせて歩いてくれた。

 ベイルが扉を開けたとき、耳に飛び込んできた。

 姉のリイカが戦死したと。

 グイニスは現実を突きつけられた気がした。その時、ベイルもシークもぎょっとしたのが分かった。シークの背中に頭をくっつけていたから、一瞬(いっしゅん)、息を止めて緊張したのが分かった。

 もしかしたら、本当かもしれない。

 姉のリイカが戦死したことは。それが本当なのかもしれない。もしかしたら、グイニスには決して教えてはいけない話なのかもしれない。

 もしかしたら、シークには伝えられている話なのかもしれない。それでいて、口止めされている話なのかもしれない。

 だから、その話が聞こえて、二人はぎょっとしたのかもしれない。シークは叔父ボルピス王に忠実だ。

 そうだ、シェリアの領地にいた時、彼は叔父に反抗したが、殺されはしなかった。きっと、忠実だからだ。

 シークはもしかしたら、叔父のボルピスに言われて、グイニスを見張っているのかもしれない。姉と連絡を取り合って、連携しないように監視しろと命じられているのかもしれない。

 いつでも殺せるように、見張っているのかもしれない。

 いや、きっと、かもしれないではなく、そうなんだ。

 急にそう思った。そう思った途端、グイニスは何もかもおかしくなった。それは、目的のために為されたことだ。それなのに、自分は浅はかにもそれを優しさだと思って、彼を慕った。彼に甘えたりした。

 なぜ、親衛隊のシークに、父親像を重ねていたのだろう。シークは国王軍。その中の精鋭中の精鋭の親衛隊だ。つまり、“権力の犬”の中の“権力の犬”なのだ。王である叔父ボルピスの忠実な僕なのだ。

 自分の馬鹿さ加減に呆れた。

 自分達は叔父に利用されるだけ利用され、用済みになれば葬られるのだ。いや、姉のリイカは丁重に葬られるだろう。なんせ、国を守り続けている国の英雄なのだから。それに比べて自分は?剣を握ることも許されてはおらず、姉のように国のために何かすることはできない。

 ただひたすら、愚かな人形のような王子でいる以外に道がない。“気が狂っている”王子でなくてはならないのだ。“気が狂っている王子”の間は利用価値があるが、“まとも”になった途端、捨てられるのだ。

 シークはグイニスが“まとも”になった途端に、捨てられるよう見張っているのだ。だから、早く“まとも”になるように、剣術指導まで許されているのだろう。そうでないと、叔父が、グイニスがこっそり剣術を習っても黙認する理由がない。

 早くグイニスが“まとも”になるのを、シークは望んでいるはずだ。だって、こんな“気が狂っている王子”の護衛なんて、“昇進という名の左遷”意外にないのだ。早く家に帰りたいはずだ。子供が生まれるのだから。こんな王子の元になんていたくないはずだ。

 グイニスか、王か。グイニスか、子供か。その究極の選択が迫られた時、きっとシークはいずれも後者を選ぶ。選ぶに決まっている。

 フォーリもベリー医師も、こんなグイニスに付き合わされて死ぬだろう。ベリー医師はカートン家の医者だから、なんとか生き延びるかもしれない。性格も少し悪いし、毒舌だから。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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