教訓、四十四。時に言葉は、剣のように心を傷つける。 6
フォーリは若様がシークとベイルに何を言ったのかが気になった。そして、二人に何を言ったのか、若様から聞き出そうとし……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
フォーリは若様がシークとベイルの二人に言ったことが気になった。一体、何を言ったのか二人の顔は強ばっていた。
セリナのおかげで、ことは一件落着したようだったが、二人共とても気まずそうだった。
一応、後で話は聞いた。シークの部下達がうっかり、若様の部屋の下の廊下で、リイカ姫が戦死したという商人の噂話について話してしまったのだ。それをたまたま、図書室に行こうとしていた若様も聞いてしまった。
それを聞いた直後から、若様は急に荒れ出したという。普段、思っていても言えないことを二人の前では言ったのだ。それだけ、若様は二人に対して、特にシークに対して心を許している証拠なのだが、フォーリには言わないことを二人には言ったようだ。
どういうことを言ったのか聞いてみたが、なんだか軍の報告書のように上手くまとめられてしまい、具体的には分からなかった。結構、シークは曖昧に誤魔化すことが上手いのかもしれない。
そんなことをフォーリは思ったが、そんなことをのんきに思っている場合ではなかった。フォーリは危機感を抱いていた。今まで上手く危機を乗り越えられてきたのは、親衛隊と上手くやってこれたからだ。シークが隊長だから、上手くやれている。
このまま、シーク達が若様と微妙な関係になってしまうと、フォーリ一人で戦わないといけない場面が出て来るかもしれない。それはまずい。二十人の加勢があるかないかは全く違う。
敵は上手く若様の気持ちを攪乱させ、さらに若様と親衛隊と…特にシークとの間を離間させる手を打ってきたのだ。もしかしたら考えすぎかもしれないが、このままでは敵の思うつぼだ。
まずフォーリはベリー医師に相談した。ベリー医師はずっと、診療室にこもって薬作りなどをしていたので、騒動を知らなかった。
「私が聞いてみようか?」
ベリー医師は言ってくれたが、フォーリは首を振った。
「いいえ。最近、忙しいことにかまけて、若様とじっくり話していませんでした。これを機会に、少しゆっくり話してみようと思います。」
ベリー医師は頷き、隣室で様子を見守っていることになった。
「先に行ってて。ちょっとまだ、残りの作業を終わらせてしまうから。」
ベリー医師の言葉に頷いて、フォーリは先に部屋を出た。しばらくして、やってきたベリー医師は普段の若様が寝る前の診察をした。それから、素知らぬ顔をして診療室に戻らずに、隣の部屋に留まった。
若様を寝台の上に座らせ、お腹の辺りまで布団をかける。肩から上には大きな毛織りの肩掛けを羽織らせて冷えないようにした。
「…どうしたの?」
「若様、話があります。」
フォーリは寝台の側に置いてある椅子に腰掛ける。
「…うん。」
若様は何を聞かれるのか察したようで、返事をしながら目をそらした。
「若様、夕方、私が呼ばれる前に、ヴァドサとベイルに何を言ったんですか?二人とも顔が強ばっていました。」
「……。」
若様は布団の上を見つめるばかりで、答えようとしない。
「若様。教えて下さい。何を言ったんですか?」
「……どうせ、ヴァドサ隊長達に聞いたんでしょ?だったら、それでいいのに。」
妙にふてくされたように答えた。確かにシークが言っていたように、若様は微妙に反抗期に入ったようだ。
「確かにヴァドサにも聞きましたが、簡潔にまとめられていたので詳細が分かりません。それに、私は若様から話を聞きたいのです。」
フォーリがしつこく食い下がると、ようやく若様は顔を上げてくれた。フォーリを見つめる。
「……私から?」
「はい。若様から話を聞きたいのです。そうでないと、この先、若様を護衛していけるかという問題が生じます。」
フォーリの言葉が意外だったのか、若様はフォーリをさらに見つめた。
「そもそも、ヴァドサ達は親衛隊です。しかも、彼ほど信頼できる護衛はそうはいません。彼との信頼関係が崩れ、仮に他の護衛が来たとしても、以前ほどの強固な守りを固めることが出来ず、早々に私は若様をお守りすることができなくなると思われます。」
それは、つまり二人の死を意味する。若様とフォーリの死。若様は右手で布団を握りしめ、もう一度うつむいた。
「ですから、彼との信頼関係の修復は早々にしておきたいのです。そのために、若様が彼らに何を言われたのか、教えて頂きたいのです。」
若様の両目が揺らいだ。
言われているグイニス自身も分かっていた。フォーリが言う言葉の意味は。分かっている。でも、昼間言ったことを取り消すつもりはなかった。だって、本当のことだから。
だって、彼らは見張りでもあるのだから。
今まで、グイニスは安穏と考えすぎたのだ。だから、彼らを信頼してきた。でも、よく考えれば彼らはみんな赤の他人だ。家族じゃない。フォーリしか信用できない。フォーリはニピ族だから信用できるし、一番最初からいてくれる。
そう、グイニスが何も覚えていない、ただ、苦しくて恐くて震えて泣いていた、そんな時から一緒にいてくれる。もしかしたら、たぶん、ベリー先生も大丈夫だ。だって、カートン家で治療をしてくれる先生の中に、最初からいたような気がするから。
でも、どんなにシーク達は信用できると言っても、きっと、信用できない時がくるに違いない。
叔父はグイニスに、シークを慕うなと厳しく言った。シークはグイニスに親しく話している所を見られた。王である叔父は、にべもなくシークに死ねと言った。そして、シークはそれに反論するでもなく、それに従おうとした。
しばらく前まで、それくらいグイニス自身を守ろうとしてくれていると思っていたが、逆に考えると、そうではなくて王である叔父に忠実に従っているだけではないか。
星河語
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