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教訓、四十四。時に言葉は、剣のように心を傷つける。 4

 若様がわめいていると、突然、セリナがやって来て……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 振り返る間もなかった。

 いきなり、やってきたセリナが若様の(ほお)を平手打ちした。若様がびっくりしてセリナを見つめた。シーク達も同じだ。なぜ、セリナが入って来れたのか、いや、誰も気づかなかったことにも(おどろ)きだった。

「馬鹿じゃない…!姉が、弟に死んで貰いたいわけ、ないじゃないの!」

 セリナが若様に怒鳴った。ベイルが止めようとしたが、シークはそれを止めた。同年代の言葉の方が、今の若様にはいいかもしれない。

 その時、セリナが若様が握っている短刀に気がついた。さっと近寄ると、若様の手から短刀をもぎ取り床に捨てた。なかなか気が利く子だ。シークは急いで短刀を回収した。

「こんな物を握ったりして!なんで、お姉さんが、頑張るのか分からないの!必死になって勝って、自分と弟の命を守っているのに、勝手に弟に死なれたら、たまったもんじゃない!頑張ったことが、全部無駄になるじゃない!

 わたしだって妹がいて、喧嘩(けんか)もするけど、死んで欲しいなんて思ったこと、一度もないよ!」

 セリナが怒鳴ると、若様も怒鳴り返した。

「セリナは分からないんだよ!役に立たないことがどんなに辛いことか!もう、もう姉上に迷惑をかけたくない!命がけで戦場に出て貰いたくない!」

 若様の言い分にセリナはどん、と右足で地団駄を踏むと、さらに言い返した。

「それは、分かるけどね、でも、馬鹿ね、あんたは!迷惑だって思わないから、弟を守りたいんでしょうが!」

「姉上の役に立ちたいんだ!それには、方法は一つしかない!」

 若様は意外に頑固だ。セリナの額に青筋が浮かんだ。彼女の気分的にも、たぶん弟のような感覚だろうとシークは思った。

 セリナが若様の胸ぐらをつかんだ。ベイルが思わず動きかけたが、それでもシークは止めなかった。まだ、フォーリは来ていないようだし、もう少しだけ様子を見守った方がいい。若様が改心するまで。

「あのねえ、あんた、本当に馬鹿よ!馬鹿なことを言ってると、もう一回、叩くわよ!」

 ぐっと若様の服をつかんだままセリナは続けた。

「分かんないの!生きてるだけでいいの!それで、いいんだってば!」

 セリナが若様の目の前で、仲良くなりたい女の子にそんなことを言われて、心に届かないはずがない。若様の双眸(そうぼう)が揺らいだ。

「生きてる…だけで?」

 若様のぽつんとした言葉に、セリナは勢いよく頷いた。

「そうよ!」

 セリナはそこで、ようやく若様の胸ぐらから手を放した。放していれば安心だ。フォーリが来ても、なんとか言い訳は立つだろう。そろそろフォーリが来るだろう。

 若様の表情から考え直したことが分かったので、セリナを引き離そうと思ったが、セリナの勢いはそこで止まらなかった。

「大体ねえ、勝手に死なれたらわたしだって、嫌よ!あんなに必死になって助けたのに、本当に心配したんだからね!昨日のあの状態でいなくなるって言ったら、拉致(らち)しかないじゃないの!そんなことくらい、わたしとリカンナだって分かってる!

 何者かが若様を拉致して、あの(がけ)に突き落としたか何かしか考えられないから、崖のとこにいたら、完全に誰か悪い奴がいるって、わたし達だって分かってる!それなのに、あんな嘘ついちゃって!心配かけまいとしたんでしょうけど、分かってんだから!

 せっかく助けたのに、勝手に死なないでよ!それに、フォーリさんやこの人達だってかわいそうだよ!」

 まずい、フォーリが来てしまう。いきなり殴り殺したりはしないだろうが、フォーリの殺気を食らったら、気の強いセリナでも相当の恐怖を感じるだろう。そうでなくてもフォーリと会う時は、ビビっているのが伝わってくるのに。

 セリナに叱られて、いつもの若様が戻った。彼の両目に涙が盛り上がり、ぽろぽろと(ほお)にこぼれ落ちていく。

 若様の涙を見て、ようやく頭に上っていた血が冷めたのか、セリナは自分がしたことを理解したらしく、急に慌てだした。今が潮時だ。そう思い、シークはセリナの肩に手をかけた。

「…おい、セリナ。」

 フォーリが来る前に下がらせようと声をかけようとした時、若様が慌てて口を挟んだ。

「…ま、待って!」

 若様は嗚咽(おえつ)(こら)えながら、さらに言った。

「ち…違うんだ。セリナは…叱ってくれた。…姉上みたいに、叱ってくれた…!それが…うれしくて…。」

 どうやら、セリナが若様を泣かせたので、シークが(きび)しくセリナに注意するとでも思ったらしい。いや、そんなつもりはなかったけど…。当然、少しは注意が必要だが……。

 泣いている若様を見て、セリナが慌てて手ぬぐいを渡してあげている。さらに、よしよしと頭まで()でている。完全に弟の扱いだ。しかし、若様はきょとんとしてセリナを見上げている。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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