教訓、四十四。時に言葉は、剣のように心を傷つける。 3
若様はシークとベイルに、感情を爆発させ、どうせ二人は自分の見張りだから、叔父上に言われた任務をすればいいとか言い出し……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「…フォーリに迷惑をかける。」
また、フォーリに遠慮をしている。シークは先日、若様に言い聞かせたように、ニピ族のフォーリにはそのことを気にしなくていいということを、分かって貰おうと言葉を重ねた。
「フォーリは若様の護衛です。そのような事は気になさらなくていいのです。もし、フォーリが今の言葉を聞いたら、フォーリは生きていられません。」
だが、先日のように若様は納得しなかった。やはり優しい子なので、フォーリを殺してしまう恐怖に震えている。今の若様には言うべきではなかった。シークがしまったと思った時、若様は拳をぎゅっと握り、横向きだった状態から二人を振り返った。
二人をまっすぐに見つめ、大声で怒鳴った。
「…他の人には分からない!私は姉上が戦地に行った時と同じ年になった!本来なら私が行くべき場所に姉上が赴き、私は剣を握ることすら許されない!私は何の役にも立たないし、役に立とうとしてはいけない!この気持ちが、この気持ちが分かるもんか!」
若様の両目は、怒りと悲しみと悔しさが入り交じっていた。
「二人は剣を握って強くなれる。人の役にも立てる。でも、私はただ、毎日、いつ殺されるのか、叔父上の気持ち一つの決定がいつ来るのか、毎日毎日、人形のようにそれだけを待たされる生活なんだ!」
今日の若様の言葉は剣のように鋭くて、深々と心の奥底に突き刺さって痛かった。確かに自分達には、若様の本当の気持ちは分からない。きっと、一生分からないだろう。
若様は自分の立場を十分すぎるほど、分かっている。なんと言えばいいのか、言葉を出せなかった。隣のベイルも言葉を失っていた。
「それなのに、姉上には弟が殺されたくなかったら、戦に勝てと言われる…!きっと、私が死んでも、姉上にはそれを隠して戦わせるおつもりだ!」
シークは顔から血の気が引いたのが分かった。もしかしたら、敵はこれを若様に言わせるために、わざと噂を流させたのかもしれない。密偵がいて話を持ち帰るのかもしれない。その前に自分達は親衛隊だ。親衛隊が、王に対して不敬なことを言っている王子に対して、何も言わない訳にもいかなかった。
何も言わなかったら、そのことで揚げ足を取って、若様を追い詰める手立てにするのかもしれない。ベイルも同様に顔色が青ざめていた。
「若様、私達の前でそれ以上、言ってはなりません…!」
つい、声が少し大きくなる。
「どうか、気をお鎮め下さい、お願いします!」
ベイルも言い添えた。だが、若様は冷たい声と態度で言い放った。
「そうだな、二人は私の見張りだから、私が叔父上を批判するような事を言ったら、すぐに処罰しなくてはならないのだろう。殺したかったら殺せばいい。そのために、叔父上から送られた見張りなんだから…!」
今日、一番痛い言葉だった。心の芯を貫き通し、切り裂かれた気がした。若様はいつも、こんなことを思っていたのだろうか。
シーク達がいつでも、若様を殺せるように見張っていると?
今まで若様と接してきて、心が通じ合ったように思えたのは、誤解だったと?シークが命がけで助け、若様はそれでシークが怪我なり、死にそうになったりするたびに、泣いてくれたのは何だったのか?すべて本当は、シーク達が見張っているから、見張りの気をひくためにしたことだったと?
呆然としてしまい、すぐにはどう答えたらいいのかさえ、分からなかった。一瞬、感情が消え去ったかのような感じがした。あまりに辛い言葉だった。
「殺したくないから、お願いするのです。」
若様の冷たい、怒りに満ちた目を見つめて、シークは固い声で答えた。目が合った若様は、シークの表情を見てはっとした。何か憑きものが落ちたように、ふっといつもの若様に戻り、ばつが悪そうに口を開いた。
「……どうして?どうして、殺したくないの?」
若様の様子にシークは少しだけ安心し、なんとか乾いた口を開く。
「私達も若様のご気性を存じております。とても優しいお方です。常に周りの仕える人の様子に目を配られています。私達も分かっています。ですから、たとえ任務でも全うしたくない任務もあるのです。」
若様の良い面に自分自身で気づいて欲しくて、言った言葉だった。でも、今日はそれが全て裏面に出た。
「……優しい?」
若様は呟くように言って、乾いた声で笑い出したのだ。若様の心の声が聞こえるような気がした。心の中で泣き叫んでいるように感じられる。
「叔父上だって、昔は優しかった。」
なぜ、自分にはあんなに厳しいのだろう。なぜ、こんなに厳しい道のりを歩ませるのだろう。なぜ、生半可に生かしているのだろう。そういう気持ちが凝縮されているように感じられた。
「二人は殺したくないかもしれないけど、私は死んだ方がましだ。」
シークもベイルも息を呑んだ。投げやりな若様の言い方にぎょっとした。
「私が死ねば、少なくとも姉上は解放される。もう、姉上に迷惑をかけないですむ。姉上に戦わせなくてすむんだ…!役に立たない人形でいなくてすむ!」
若様の大声にシークとベイルがどう言えば彼の心に声が届くのか、分からずにいた時、さっと誰かがやってきた。
星河語
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