教訓、四十三。忘れものはしないように。 2
ヴァドサ家の家族会議の模様、第二弾。女性陣は本当に強いですね。口には勝てない男性陣。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「分かった…!」
突然、大きな声が響き渡った。
「私が行く…!」
ギークがはっきり言った。すると、隣でナークがため息をつく。
「……ギーク兄さんが行ったらダメだ。」
「何で?」
「じゃあ、逆に聞くけど、なぜ、陛下がギーク兄さんに、うちにいるように言ったか分かってる?」
ナークに聞かれてギークは首を傾げた。
「…さあ?」
「…うちでレルスリ殿が療養されている。ギーク兄さんはレルスリ殿の護衛も兼ねて、家にいろって言われたんだよ。
イーグは教官だし、私も戦略部門にいるから、休ませられないと思われたんだろう。街の警備部隊だから、一番、融通が利くとお考えになったんだろうね。
だから、レルスリ殿はさすが陛下だと言われたんだよ。そう言ってただろ。そんな言ってたって。」
「そうだったのか。」
ナークに説明されて、ようやくどうして家にいるのか、本当に理解したギークだった。
「じゃあ、誰が知らせに行く?」
「手紙じゃダメなのか?」
ギークが言ったところで、いつもはシタレの道場で教えている、次男のジョレスが疑問を口にした。
「いいと思うよ。早くしないと、シーク兄さんの方がまた忙しくなる。」
ナークがうんざりした様子で言う。
「忙しくなるって、どうして?」
十九歳のシークの弟のティークが尋ねた。彼ももちろん国王軍に入隊している。任務が街の警備部隊配属なので、毎日家に帰るのだ。彼の母もカレンと同じオリディカである。
「ここだけの話だけど。おそらく、王太子殿下がセルゲス公の元に赴かれる。そのための警備や日程の調整を考えないといけない。」
つまり、ナークは仕事の関係で知っているのだ。
「じゃあ、生まれた場合も、それと重なってたら知らせにくいってこと?」
テラが尋ねた。
「うーん。まあ、大丈夫だと思うけど。」
「……ならば、こうしてしまうのはどうだ?生まれてから手紙を送ることにすれば。」
ビレスが言い出し、一拍の空白の後、一斉に女性陣からダメ出しが出される。
「ダメに決まってます!」
猛反対され、完全にビレスはへそを曲げた。へそを曲げて黙り込む。
「ほんと、アミラさんのこと、考えてないでしょ。」
ヤーナがきっと父を睨む。
「シークだって、可哀想です。さっさと手紙を送ってしまえばいい話です。なぜ、その話でこんなに喧々諤々しないといけないんですか…!」
とうとうガルシャが怒りだした。
「ほんとですよ…!」
「そうよ、子供を産むのがどれだけ大変か分からないから、そんなことを平気で言って…!」
「そもそも、せっかくシークと会ったのに、言い忘れてきたのが問題なのよ。自分のことと思ってないからよ。」
プリラが言い出し、アレスがさすがにムッとして言い返した。
「そんな言い方ないだろう。こっちだって悪気はなかった。それに、シークのことを考えたから、かえって言いにくかった。お前達は、シークがどれだけセグのことで悲しんでいたか、見ていないからそんなことが言える。
あんなに悲しんでいる様子を見たら、いつ言うか、計るのが難しかった。それに、セルゲス公もいらっしゃった。ベイルもいたし、シークの部下達もいる。どれだけ気を使ったことか。」
「確かに、そういうこともあるでしょう。でも、時間を見て、二人だけで話す時間が全くなかったわけじゃないはずよ。なぜ、その時に言わなかったの?」
「…それは。」
単純にその時になったら、忘れていたのだ。
「ほうら、答えられないじゃない。どうせ、忘れていたんでしょ?忘れていいこともあるけど、忘れたらダメなこともあるの。これはダメなことじゃないの。」
「プミラ、そうは言うがシークは忙しい。隊長で熱を出している間でさえも、仕事をしていた。」
アレスの代わりにエンスが答えた。
「だから、常に気がけて、時が来たらすぐに言えるようにしないとダメでしょう。はっきり言って、プミラさんじゃありませんが、わたしも驚きました。唖然としました。」
ガルシャが怒りの気を発しながら、プミラの代わりに言った。全身から黒い陽炎が上っているかもしれない。
「……みなさん。どうか、もう……。わたしのせいです。わたしが、変な時に身ごもったから、わたしのせいです。」
とうとうアミラが泣き出した。彼女の言葉にみんな、はっとした。
「アミラさん、あなたのせいじゃありません。」
「本当にごめんなさい。あなたが悪い事なんて、一つもないのに。」
「体に障ります。そんなに心配したら。」
「悪いのは、妙な気遣いをして箝口令をしいたり、言い忘れてきた人達です。」
「そうよ、そうよ。アミラ義姉さんのせいじゃないわ。」
「わたしたちだけは味方よ。心配しないで。言い忘れてきたのが悪いんだから。」
「ほんとよ、嘘の手紙を書いたりしなきゃいけなかったんだから。」
近距離から発射された強力な矢が、ぐさぐさぐさとビレス、エンス、アレスの三人に突き刺さる。
その時、勢いよく引き戸が開かれた。
「あ、あの!お話中失礼致します…!」
開けたのは新米女中のミモザだ。揉めている雇い主一家に一斉に見られ、ミモザは固まった。彼女の後ろの方からロナの声がした。
「…ですが、レルスリ殿、せっかく来られましたのに。」
ロナが引き止めようとしているが、「いいえ、お取り込み中のようなので、また後で伺います」とか聞こえたような気がした。
少しして、ロナがすすっとやってきて報告した。
「お分かりになったかもしれませんが、レルスリ殿が来られていました。」
「それで、ご用件は何と?」
気を取り直したケイレが尋ねた。
「シーク坊ちゃんの結婚式のことで、旦那様と奥様にお話があったとか。ですが、後でまた落ち着いてから伺いますと仰っていました。」
「……。」
一同は気まずかった。どうやらバムスに揉めている所を聞かれてしまったようだ。
星河語
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