教訓、四十三。忘れものはしないように。 1
ヴァドサ家の家族会議の模様。シークに婚約者のアミラのことについて、言い忘れた人たちの受難です。女性の方が強い模様。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
サプリュに帰ったエンスとアレスだったが、重要な任務を忘れたことに気がついた。
途中までは確かに覚えていたのだ。しかし、何かと大変で忘れてしまった。
シークの婚約者のアミラが身ごもったことを言い忘れた。
婚約時点で初夜まで済ませてしまうサリカタ王国では、別におかしくもなんともないし、婚約してから数年経っているので遅い方である。ようやくのおめでたい話なのだが、すっかり言うのを忘れてしまった。
なんせ、覚えていた時は、セグが亡くなった話もしないといけなかったし、それを言った後、シークやベイルの落ち込みようと悲しみようを見れば、うかうか話せもしなかった。いつ、言うかという頃合いを見計らっていた。
よし、言えそうだと思っていたその日の晩、間髪を入れず謎の組織の男がやってきて、バムスが行方不明になった話をした。
その後に話をしようにも、軍に提出する報告書などを大急ぎで書いたりしていたし、若様が療養地に向かうため、大急ぎで出発する準備などを整えたりしないといけなかった。
一緒について行って、その間に言えるだろうと思っていたのだが、今度はシークが体調を崩した。今、具合悪い時に無理して話す必要もないだろうと思い、回復してからと思っていたら、ずるずると話す機会を失い、そのまま、なんだかんだで言えずに終わってしまったのである。ベリー医師に風邪がうつると言われて、近づくことを許されなかったのもあった。
シークと別れてからしばらく経って気がついたが後の祭りで、慌てて後を追いかけてみた。一応、屋敷の方まで様子を覗ったのだ。だが、何だか役人達が出入りしており、これはまずそうだと判断して戻ってきた。
ちなみに村人達には、親衛隊やベブフフ家から来た領主兵がいたので、その中の一人か二人だろうと思われていた。
大事な話を忘れた二人は、気まずい思いのまま家路についた。途中で手紙を書くか、どうしようか。
そんなことを悩みながら進んでいるうちに、途中の街で、道場によって顔を覗かせることを忘れそうになったり、そんなんで割と忙しく、手紙を書く暇もなかった。
道場に寄ったのは二カ所だけだったが、サプリュに帰ってからシークに伝え損ねた話をすると、家族全員が唖然とした。
だが、理由を聞いて、みんな難しい表情になる。
「……あのう、本当にシークさんに本当のことを言わずに隠しておくんですか?さすがに傷つくと思うのですが。」
黙りこくってしまった家族の話し合いの場で、おそるおそる心配そうにアミラが発言した。それも、当然のことだ。ケイレはアミラの背中を安心させるように撫でた後、びしっと夫のビレスを見据えた。
「話すべきです。お前様。妙な気遣いをするからですよ。しかも、シークが屍になってサプリュに帰ってくるかもしれない、とか言って出て行ったからって、こんな大事な話まで黙っているなんて。」
珍しくケイレがビレスにかなり意見しているため、他の家族は目を丸くした。
「だが、そうは言っても、命がけの場面で妙な話で集中力が削がれても」
「何が妙な話ですか…!大事な話でしょう…!これでは、シークが自分をないがしろにされていると思って当然です。他の子達の時と比べて何ですか、この差は?もっと、公平に接してやって下さいと、何度もお話したはずです…!」
「だが、他の子達は、こんなに重要な局面に立っていない。命がけでことに当たらなくてはならないのに、集中力を乱しても良くない。」
ケイレはずいっと、座ったまま夫の前に出た。
「なぜ、アミラが身ごもっていると聞いたら集中力を乱すと思うのですか?それに、アミラの気持ちも考えてやって下さい…!夫に喜びを伝えられない、その気持ちを…!シークだって、可哀想ではありませんか!?」
「しかし、私だけが悪いのか?お前だって、安定するまでは待とうと言っただろう。」
ビレスもいささかムッとして言い返す。
「確かに言いました。でも、その後、伝えた方がいいと言いましたよ?そうしたら、お前様が、大街道で事件が起きたばかりだから、もう少し様子を見るとか言ったのです。でも、養生しているだけなら、伝えた方がいいとわたしは、言いました。」
ぴしゃりと言われて、しかし、ビレスだって息子のシークのことを考えてのことだったのだ。さも、それを全て悪かったというように言われたら心外だ。
「お前はそう言うが、私だってシークのことを考えていないわけではない。体を治すことに専念した方がいいと思った…!ただでさえ、敵を一晩中斬り続けたとか、そういう話だっただろう。」
「悪い話ならいざ知らず、なぜ、いいことなのに、妙に遠慮して言わないんですか?父上って、時々、妙に変な所で気を回して、話をややこしくするのよね。」
長女のヤーナが口を挟んだ。
「わたしも、治療中でも教えてくれた方が嬉しかったと思うわ。シークは子供が好きだもの。喜んだわよ。」
ヤーナの双子の妹のフーナも言った。双子の夫達は、じっと黙って義父の様子を見ながら座っていた。
「…そうは言っても、父上の心配も私は分かる。だって、シークは任務のことで、アミラが寡婦になるのではないかと心配し、婚約の破棄まで勝手にして行ったくらいだ。」
長男のアレスが二人を宥めるように発言した。
「だから、教えてこなかったの?」
「忘れたことにかこつけて?」
双子の姉妹に交互に聞かれて、アレスは慌てた。
「いや、そういう訳ではなく…!」
「そう勘ぐられてもしょうがないわね。大事なことだったのに、すっかり忘れて帰って来ちゃって。」
アレスの妻のプリラが言ったものだから、アレスも不機嫌に黙り込んでしまった。十五歳未満の子供達は、家族会議の間、使用人のおじさん、おばさん達が面倒を見ている。
「とにかく、シークに教えるべきです。お前様が時を待てと言ったので、子供達はみんな言うことを聞いて、シークに何もないという手紙を書いているのですよ?家族みんなでシークを裏切って、教えなかったという風に受け取られるでしょう?」
「わたし、シーク兄さんにそんな風に思われるの嫌だなあ。」
カレンが母のケイレの言葉に反応した。十五歳以上は参加することになっているので、カレンもその場にいる。一つ下のテラも同じだ。
「わたくしも、知らせるべきだと思いますわ。」
カレンの実母、元妓女であったオリディカがやんわりと口を挟む。
「分かった。ここは忘れてしまった私が悪い。私がもう一度、シークの所に行ってこよう。」
エンスが勢いよく、険悪になり始めた雰囲気を変えるべく発言した。
「何を言ってるんですか?」
エンスの妻、バルティーナが夫に現実を突きつける。
「あなたにそんな暇はないでしょう?明後日から、ティールに行くというのに。向こうの道場の方々を長くお待たせしているのに、これ以上、引き延ばすわけにはいきませんよ。忘れたのはこちらの事情なのですし。」
あまり発言しないが、バルティーナがものを言う時は、理屈が通っている。誰も反論できない。
「誰か他の人に頼むとして。」
「他のみなさんも忙しいのです。年末最後の交流試合です。」
「……。」
妻にダメだしされて、エンスは黙り込んだ。
星河語
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