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ヴァドサ家の客人 10

 バムスとうさぴょん質屋の店主の舌戦。どうやらバムスに軍配が上がる。鉱山の儲けを少し分けてやると言いつつ、面倒な仕事を割り振ったバムス。しかも、ミローもあずかっていることを考えると、どう考えても、うさぴょん質屋の店主の方が何やら条件を飲まされたような感じ……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「分かりました。そう来るのなら、うさぴょん質屋に公警を踏み込ませます。」

 しかし、店主は笑った。

「その程度で潰せるとお思いですか?」

「そうですか?お忘れですか?ここはヴァドサ家ですよ。国王軍の入隊率が非常に高い。そこに街の警備部隊の隊長がいます。」

 バムスが言ったので、自然と国王軍の制服を着ているギークに視線が集まった。

「それに、マウダの表の店の一つを勝手に潰したとなったら、あなたの方が困るでしょう?かなりの手落ちでは?」

「潰せないと言っているではありませんか。」

「しかし、公警に踏み込まれた時点で、どうしてそうなったかという問題になるでしょう。マウダの中で、あなたの地位が揺らぐことになると思いますよ。」

 見事に切り返され、質屋の店主はため息をついた。

「…それで、条件というのは何ですか?それを聞いてから出ないと、返事はできません。」

「それは、鉱山の(ふもと)の住民に迷惑をかけないよう、川の浚渫(しゅんせつ)をすることです。(すく)い上げた土砂は一旦木炭と混ぜた後、落ち葉や枯れ草を混ぜて発酵させてなじませ、その後に畑の土として農家に分けます。」

「川の浚渫ですか。それを六、四の四の割合でやれと言うんですか?」

「七、三ですよ。」

「……。考えさせて下さい。さすがに独断で決めるわけには。」

「そうですか。」

「もしかして、決められないというなら、この話は終わりということですか?」

 店主が確認するとバムスはにこやかに(うなず)いた。

「はい、そうです。」

 にこやかに(きび)しい条件を突きつける。バムスのことをよく知らない人達にとっては、彼が嫌われる理由が分かる気がした一場面だった。(うるわ)しい笑顔を浮かべながら、落差の(はげ)しい厳しい条件を出してくる。

「ああ。本当に頭が痛くなりますなあ。」

 眉間をもみながら店主は考えていたが、やがて頷いた。

「せめて、銀山の利益について教えて頂けませんか?」

「そうですね。年間三十万スクルほどでしょうか。もちろん、経費などの諸々を差し引いての利益です。」

 大抵の人は見たことも聞いたこともない額だ。店主は当然、やってもいいと思ったようだ。

「しかし、よくトユカが管理していない銀山を発見しましたな。」

 トユカとは鉱山王の名前である。ありとあらゆる鉱山には、トユカが一枚()んでいるとさえ言われている。彼らは元々森の子族の山師だった。それが、王国が建国された頃、資金源として鉱山を王家に教えて、それ以来トユカは繁栄を続けている。

「ええ。ライレ森の中にあります。トユカは森の子族に嫌われていますから、もう以前のように森に入れません。」

「ライレ森ですと!?」

 質屋の店主は(おどろ)きの声を上げる。

「どうやって、それを知ったんですか?森の子族の領域ですよ?」

「森の子族が助けを求めてきたからです。大雨で山崩れが起き、集落が埋まったので助けて欲しいと。それで、助けてあげました。それでも、多くの人が生き埋めになってしまいました。道も寸断され、田畑も埋まり、水路も壊れてしまったのです。

 それで、それらを全て直し、生活ができるように整えました。すると、お礼に聖なる山の下から取れる銀を採掘していいと言ってくれたのです。

 ただし、絶対にトユカに渡さないこと、自分達の生活をおびやかさないこと、何かあったら必ず助けてくれること、というのが条件です。」

 いいことはやっておくものだと思う一方で、それを守るのも結構大変だと思う。

「……なるほど。それで、私達に打診してきたんですか?トユカに渡すなというのが、最も(むずか)しい条件では?トユカに(おろ)さないと……。ああ、それで法律を作ったんですか?トユカ以外の者も鉱山を所有し、また、流通なども含めて加工なども行えるようにすると。」

「はい。独占できないようにしました。それで、トユカの当主には大変嫌われています。必ず殺してやると脅されました。しかし、そもそも、国の宝を独占するのがおかしいのです。」

 店主はしばらく考え込んでいたが、笑い出した。

「あぁ、もう、実にあなたには煮え湯を飲まされている気分だ。今日こそは、あなたにやり返してやるつもりだったのに、逆にやり返されてしまいましたよ。」

「そういえば、今回の事件、黒帽子を雇ったのはトユカだったのかもしれない。最初から私が標的だったので。」

「そういうことなら、そうでしょうな。私がトユカでもあなたに刺客を送るでしょう。実に腹立たしい。」

 店主は言った後、大きく頷いた。

「いいでしょう。やりましょうか。森の子族の村も守れということでしょう。早いほうがいい。レルスリ殿、実に難問をあなたは押しつけてきますな。書記官に書類を作らせましょう。」

「分かりました。それでは部屋に。」

 バムスは部屋に店主を案内しようとしたが、そこに急いでラクーサ医師がやってきて阻んだ。

「ちょっとお待ちを。この人、まだ半分病人なんですから。後にして下さい。それに昼食もまだ食べていません。」

「そういえば、お昼時に来てしまいましたなあ。」

 のんきに店主は述べた。

「ああ、やっぱり!手が氷のように冷たい。さっきから顔色が悪くなっているから、気になってた。全く。」

 ラクーサ医師はバムスの脈を確認し、体温も確認した。

「うーん。熱が上がったな。こんな冷える廊下にずっと立ってたからだ。早く寝なさい。」

 彼の額に手を当ててラクーサ医師は(うな)った。

「では、後で出直してくることにしましょう。明日は大丈夫ですか?」

 店主の言葉にバムスは、ラクーサ医師を見つめた。

「…バムスの体調しだいです。ですが、おそらく今日、この後、大人しく寝ていたら大丈夫でしょう。書類を交わすだけならば。」

「そういうことでお願いします。」

「そういえば、あの大きな預かり物は、しばらく預かっていなくてはならないということですか?」

「お願いします。」

 店主は頭を抱えたが、仕方なさそうに頷いた。

「分かりました。そうしましょうか。では、お騒がせしました。」

 そう言って、うさぴょん質屋の店主はようやく帰っていくことになった。この後、他に来ていた者達も帰って行き、ようやくヴァドサ家は静かになったのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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