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ヴァドサ家の客人 8

 バムスが若かりし頃の事件をほっくり返して金欠を解決しようとしているロロゼ王国。バムスはうさぴょん質屋の店主から手渡された冊子を分析して、ロロゼ王国からの挑戦状だと見抜く。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 バムスの言うことに呆然としていた質屋の店主は、はっとしたように声を上げた。

「レルスリ殿…!私にも多少の良心はあります!さっきのは冗談ですよ!あなたに売りつける話は!売りつけるなら、別の人間に売りつけます!」

「ええ、では、そうして下さい。」

 周りの慌てぶりなど意に介さず、落ち着いたバムスの返答に、今度は本当に質屋の主人は天を仰いで片手で顔を(おお)う。

「…あなたと話していると、調子が狂ってくる。」

 店主は(あきら)めたように頭を振ると、ため息をついて懐から何か本のような物を取り出した。

「あのですね、ロロゼ王国のカリス宰相は、本当になりふり構わず金集めをするつもりのようです。これですが、ナーメダス二世の手記です。詳細にあの事件について書いてあるそうで。これも出版したそうです。」

 店主は手に持った冊子を上下に振って説明した。

「一応、渡しておこうかと思いますが…さすがに確認はしにくいでしょうな。」

 バムスは黙って店主に近づくと、そのまま冊子を受け取りページをめくり始めた。その場にいる者達は驚愕(きょうがく)する。特にうさぴょん質屋の護衛達が、バムスの行動にびっくりしていた。もしかしたら、興味本位で中身を読んだのかもしれない。

 店主が心配そうにバムスを見つめている。おそらく普通の神経なら、冷静に読むなどできない内容なのだろう。すると、ふふ、とバムスが笑った。店主が目を丸くしてバムスを凝視(ぎょうし)する。

「…これは、ざっと見たところ、あの方の空想の物語です。事実も書いてありますが、さすがにあまりにあからさまに書いたら、自分の人気が下がると思ったのでしょう。それで、全てにおいて私に責任を押しつけて、自分は悪くないように書いています。」

 そう言ってから、バムスは少し考えるように(あご)に手を当てていたが、ふむ、と(うなず)いた。

「そもそも、これを本当にあの方…ナーメダス二世が書いたものかどうかが疑わしいです。こんなことを書くとは思えません。彼なら自分の思い通りに書くはず。自分が国民にどう思われるとか、そんなことはなりふり構わず、書きたいたいように書くでしょう。

 計算されたように、私に責任を押しつけているところを見ると、これはカリス宰相が王室の人気取りをしつつ、少しでも金欠を解消するために考え出したもの。つまり、作者はカリス宰相でしょう。」

「……。」

 バムスはみんなが呆然としているのをよそに、冊子をひっくり返した。

「なるほど。これはロロゼ王国でも中堅どころの印刷屋の出版です。これを出版するだけでも、結構お金がかかります。つまり、この謎の組織の黒帽子は、ロロゼ王国にも繋がりがあり、かつ、カリス宰相にも接触でき、さらには多額の資金を提供できるということ。相当のお金持ちです。

 ならば、事前に大がかりな準備が必要ということなので、仮に私がヴァドサ家と関わりなく、セルゲス公のことに関わっていなくても、最初から私を狙っていたということで、確実にこの事件を使うつもりだった。そういうことになりますね。」

 つまり、バムスはグイニスとは別件で、最初から黒帽子に標的にされていたのだ。

 たったそれだけで、そこまで見抜くバムスの洞察力に一同は(おどろ)いていた。ただ、ニピ族達だけは自慢そうだ。さすが、私達の旦那様だ…という幸せそうな表情でもある。

「これは私が借りてもいいのですか?」

 バムスが店主に尋ねると、彼は深いため息をついた。

「あげますよ。それよりも…。ちょっと、聞いていますか?」

 バムスは一カ所を開いて、そこだけ穴が開くように見つめている。そして、喉を鳴らして笑い始めた。最後には声に出して笑っているので、みんな訳が分からず、固唾(かたず)を呑んで見守った。

「……どうしたんですか?さすがのあなたも、嫌な場面はあるでしょう。無理はしない方がいいと思います。」

 うさぴょん質屋の店主が気の毒そうに言うと、護衛の一人がそうだな、というような表情を浮かべた。やはり、彼らも興味で読んでみたのだろう。

「……そうではありません。」

 バムスは店主の方を向いてにっこり微笑んだが、ぞっとするほど冷たい表情を浮かべている。

「これは、カリス宰相からの伝言であり、挑戦状です。暗号になっている。私にだけ分かる伝言です。早い話、この手記の版権を売ってやるから買いに来い、ということです。でたらめな内容で腹が立つなら、訂正して売り直せというもの。」

「暗号ですか!?どこに?」

 バムスは近寄った店主に字を指で追って説明した。理解した店主は、まじまじとバムスを見つめた。そして、バムスの手から冊子をもぎ取った。

「やはり、あげませんし、貸すのも辞めます。」

「……。」

「あなたがおおよそ分かりました。見せるんじゃなかった。普通に嫌がっているなら、押しつけていこうと思いましたがね。ここまで、完璧に嘘をつける人を初めて見ました。

 私にだって多少の愛国心はある。生まれ育った国です。あなたのおかげで、国の領土が広がったことくらい知っています。

 だから、本心から言わせてもらいます。絶対に、何があってもロロゼ王国に行ってはいけません。絶対に行かないで下さい。行くと言ったら止めに行きますよ。」

 うさぴょん質屋の店主は真面目な表情で言った。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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