ヴァドサ家の客人 7
今回の話は、少々、エロティックな場面?が出てきます。うーん……。バムスが若いころの話が出てくるのですが、隣国の王たちが迫って来たという話に触れます。事実は小説よりも奇なり。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その時、盛大な咳払いが聞こえた。
「話が終わった所でいいですかな?こんな話をすれば、まるで私が悪者みたいで嫌な気分ですが、仕方ありませんな。一応、伝えておきますよ、レルスリ殿。」
「お待たせしました。どうぞ。話の続きを。」
バムスはにっこり微笑んで質屋の店主に向き直る。
「こんな話が聞こえてきましてな。ロロゼ王国は金欠で、宰相カリスが一計を案じた。わざとナーメダス二世とレルスリ殿の事件を持ち出させ、問題となるように仕向けたのです。
そうして、国民の関心が向いた所で、王宮内に眠っていた大量のある物を高額で売りに出すことにした。それが見事に当たり、飛ぶように売れているそうです。」
バムスは淡々と話を聞いている。
「売っている物が何か、お分かりになりますか?」
「……。何ですか?」
「さすがのレルスリ殿も、予想はついても口に出して言いたくないでしょう。レルスリ殿の閨での絵だそうですよ。」
レルスリ家の使用人達はロロゼ王国での事件のことを、ほとんど知らない。ジョーだけは知っていたが、それ以外は知らないので、みんなびっくりしている。
そして、ヴァドサ家の人達も同様だった。ただ、ビレスが一人、眉間に皺を寄せてうさぴょん質屋の店主を睨みつけていた。なんとなく、風の噂で聞いたことがあったのである。公衆の面前でそういうことを言う、うさぴょん質屋の店主に対して反感を持っていた。
「あまりにも美しく色っぽいので、描かれているのが男性だと気づかずに買う人もいるんだとか。それが、なんということかサリカタ王国にも売るそうなんですな。
宰相カリスの算段としては、厳しく事件を封印しているサリカタ王国に少し売り、レルスリ殿に敵対している貴族などが高額で買う。その上、その話が王の耳に入れば、王は怒り、その絵を買い集めて処分するか、もしくはロロゼ王国に何か言ってくる。
その際に、絵とレルスリ殿を交渉材料として使いながら、サリカタ王国から金をせしめようという算段ですな。」
「な…なんということだ!許せん!」
「どこまで、旦那様を侮辱するつもりだ!」
「そんな話で、旦那様をロロゼ王国まで呼び寄せるつもりか!」
「旦那様、そんな話は交渉する必要すらありません!」
やはり、一番にニピ族達が怒りで全身を震わせている。
「お前達、落ち着きなさい。彼はロロゼ王国のカリス宰相ではない。彼を睨みつけてもしょうがない。」
今にもうさぴょん質屋の店主に飛びかかりそうな勢いのニピ族達を、バムスは宥める。
「まあ、そこでこれはどうでしょう?サリカタ王国に入ってきた絵を私共が買っておきましょうか。やはり、閨での絵が出回るなんて嫌でしょう。」
「そして、その絵の代金を私に請求するということですか?」
バムスの言葉に、うさぴょん質屋組以外、全員が驚いた。なんて悪どいのだろう。
「そういうことです。なんせ、ただ飯の大食らいがおりますからな。少しは回収させて頂きたいのです。なんせ、あの短刀一本の儲けでピド族を預かることになるとは、思いもしませんでした。百スクルやそこらでは、元など取れませんよ。」
「そうですか?聞いた話によると、二百八十スクルで売れたそうですが。」
すると、店主は大げさに頭を抱えた。
「ああ、これだから、レルスリ殿と話をするのは嫌になる。どうして、値段を知っているのかは聞かないことにします。」
「そんなに難しいことではありません。単純に買った人から値段を聞いただけです。前の持ち主が私だと知らないで、素晴らしい短刀を手に入れたと自慢してくれました。」
「ああ、そういうことでしたか。少し焦りましたよ。で、どうですか?絵のことですが。」
バムスはにっこり微笑んだ。しかし、その目が驚くほど冷たい。
「放っておいて下さい。どうせ、出回るのですから。買わせたい人には買わせて、私の絵を部屋に飾らせておけばいいのです。」
さすがに質屋の店主の目が点になった。
「……ですが、あまりにも…その場面ですよ。相当官能的で…私でも口に出しにくい場面の絵です。しかも、あなたを知っている人が見たら、すぐに分かってしまう。死を偽装したのはいいとして、今後、あなたが表舞台に戻る時、かなりの障害になるかと思いますが。」
よほどの絵なのだろう。質屋の店主の顔色が変わっている。
「正直なところ、確かに気分は良くありません。でも、せっかく死を偽装したのに、それをせっせと買い集めに走ったら、私が生きていることを敵に勘づかせてしまいます。敵はおそらく、それを狙っているのに。」
みんな開いた口が塞がらなかった。そのために、自分のそういう場面を描いた絵が出回ってもいいと!?
「…しかし…。本当にいいのですか?あれは、本当に嫌らしいというか、そもそも、本当にあんなことをさせられたんですか?」
質屋の店主は呆然として、バムスに尋ねた。
「あまりにたくさんあるので、いちいち覚えていません。しかし、言うことを聞かないと人質の首を斬られるので、どんな要求にも応えました。約三百人、全員で帰りたかったので。」
さすがの店主も、大きなため息をついた。
「本心から言いますが、同情します。」
「それよりも、そんなにミローの食費が大変なら、その絵を買い集めた後、ロロゼ王国に売り直しては?」
全員で驚愕してバムスを見つめた。質屋の護衛達も同様だ。本気で言ってんのか、という目だ。
「だ…旦那様!」
「な、なんてことを!」
「だめです、絶対に!」
ニピ族達から速攻で猛反対される。すると、バムスは不思議そうに彼らに尋ねる。
「なぜ、だめだと?裸になれば、みんな同じだとお前達も言っているだろう。仮にたとえ、裸で街を走ることになっても恥ずかしくないと。」
「旦那様!違います…!絶対に違います!」
「そうです、旦那様は普通の人と違います…!」
「私達は良くても、旦那様は絶対にいけません!」
いや、お前達だって良くないだろう。聞いている人達は心の中で突っ込む。
「旦那様の裸を世間に晒すことなんて、絶対にできません!」
「全くです、奥様方に殺されます、私達が…!!」
最後の一言が、全てを物語っている気がした。彼らが必死になる理由の全てが。そして、世間で生じるだろう騒動についても、一同はようやく想像がついた。買うのはきっと男性だけではない。ほとんどは彼のことが好きな女性達だ、おそらく……。
星河語
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