ヴァドサ家の客人 5
ヴァドサ家に逗留しているバムスを取り巻く騒動。今度は、彼が雇っていた使用人達がことの経過の報告に訪れた。元訳アリの使用人達なので、尾行は問題なし。そして、バムスの第三夫人が事件の裏にあるおかしな点を見抜いていると報告する。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「レルスリ殿。お屋敷の使用人が尋ねてきました。あの時、一緒にいて事件の裏を知っている人達だったので、私の独断で連れてきました。」
ビレスがやってきて、数名の使用人達を連れてきた。イールク、ジョー、エイド、ビオパの四人だ。誰が代表で行くかで揉めている内に、ヴァドサ家に到着してしまったので、四人でやってきた。
彼らがヴァドサ家にやってきても、不思議ではない。しばらく、事件前から交流があったし、働き口がなくなったので、働く場所を捜しているとか、言い訳はいくらでもたつ。それも見越して、バムスはヴァドサ家と交流していた。
「!旦那様、ご無事で!」
「お元気になられたようですね!」
「本当に良かった!」
みんなそれぞれ、口に出して喜びを表した。ジョーは涙をこっそり拭いている。四人とも心底心配していたのだろう。
「みんなには心配をかけた。他の人達は息災にしているか?」
「旦那様が死んだと思っている人達は、心底悲しんでいます。手形も受け取れないと言う人もいますし、逆に受け取って形見にすると言う人もいます。」
イールクが状況を説明した。
「みんなには苦労をかける。シャノン達の追求も厳しいだろう。」
「はい。特に第三夫人のルーナ様が、火事で焼け落ちた現場を丹念に調べられ、国王軍にも出向いて、遺体を検分されました。その時に、ピド族の遺体に不自然な所があると言われ、背骨に剣で切られた傷が残っているのではないかと指摘されまして。」
その場の人達は仰天した。その第三夫人はただ者ではない。遺体を検分だと!?貴族の夫人が?すると、バムスはくすりと笑った。
「さすがはルーナ。そういえば、屋敷はどれくらい残っている?」
問われたイールクは少し考えた。
「そうですね。旦那様の寝室辺りは燃え方がひどく、二階の床が抜け落ちています。ほとんどの部屋でそうでした。」
イールクの答えを聞いて、バムスは嬉しそうに頷いた。
「良かった。その分だとほとんど焼け落ちたようだ。」
普通、屋敷が焼け落ちて喜ぶ人はいない。
「激しく燃えていれば燃えているほど、私が死んだという話に信憑性が増す。」
バムスの満足げな表情を見て、ラクーサがため息をついた。
「もし、少しでも残っていれば、ルーナが私が生きている証拠をつかんでしまったかもしれない。」
「あのう。」
今まで黙っていた、エイドが口を開いた。
「もしかしたら、ルーナ様はお気づきになられたかもしれません。実は遺体の数に矛盾があると言われておりまして。まずは、エッタさんとミローの家の火事で、遺体がエッタさんの分しかなかったこと。もう一つが…。」
みんなびっくりした。エッタの話が出た途端、バムスが苦しそうに表情を歪め、堪えられずに涙を流し始めたからだ。
「……旦那様……。」
エイドが口を閉じる。サグが手巾を差し出し、バムスは涙を拭う。
「エッタさんには、悪いことを。今まで苦労に苦労を重ねた人生を歩いてきて……。助けたつもりが、最後に事件に巻き込んでしまった。」
すると、ガーディとヌイが進み出た。
「旦那様。どうか、お聞き下さい。私達はエッタさんを最後までお見送りしました。」
バムスがじっと二人を見つめる。
「旦那様。エッタさんは、幸せだったと言っていました。旦那様にお会いできて、本当に良かった。最後に楽しい思い出がたくさんできた。ミローの今後のことも心配しなくていい。自分はそれが一番心配だったから、安心だと。
そして、旦那様が贈られた絹地の襟巻きを巻いて、お亡くなりに。最後に自分の家で死ねる、それが本当に嬉しいと。しかも、看取ってくれる人もいる。ありがたいと私達にも礼を言ってくれました。
最後の言葉は『旦那様、ありがとうございます。』でした。」
この時、一番最後だけ、ガーディは嘘をついた。本当はそう言わなかった。彼女の心の奥に秘めた思いを、彼女は死の間際に呟いた。二人が聞き取るとは思わなかっただろう。本当は『旦那様、お慕いしているだよ。初めて恋しただよ。ありがとうだ、旦那様……。』だった。
エッタは恋をする間もなく、兄と結婚したのだ。生まれて初めての恋は、心に秘めていなくてはならなかった。だが、バムスにそれを伝えると、彼が困ってしまう。エッタは分かっていたので、伝えなかった。だから、ガーディもヌイもそのことを伝えなかった。
バムスは静かに涙を拭った。
「そうか。分かった。二人がいてくれて良かった。エッタさんに寂しい思いをさせずに済んで本当に良かった。そうでなければ、一人で旅立たなくてはならなかっただろう。」
そう言ってまだ、涙に濡れた目で使用人達に向き直った。
「お前達に頼みがある。エッタさんを葬って欲しい。」
「どこに埋葬しますか?」
「…レルスリ家の使用人用の共同墓地だ。そこなら、ずっと墓のことも気にかけられるし、ミローに墓はどういう場所かも教えられるだろう。そこに来れば、他に亡くなった人達も一緒に悼む場所だと分かるはずだ。」
使用人達は頷いた。
「承知致しました。」
「…ところで、エイド。ルーナは他に何に気づいたと?」
話を振られたエイドは、一瞬、間が開いたがすぐに気を取り直した。
「はい。ルーナ様はその、ピド族の遺体の数が一体足りないと。と言いますのも、お屋敷にあったピド族の遺体は、ミローではないのではないか、と気づかれまして。
詳しく身長を測り、焼ける前の身長を推測なさったのです。ミローより大きいのではないか。つまり、ミローは生きているのではないかと推測され、そのために、家にはエッタさんの遺体しかないのではないか。
そう気づかれましたが、夫人方と話し合われまして、ルピリーヤ様が今はまだ内密にした方がいいと提案され、そうなさることに。
そして、もう一点は使用人達の遺体の数と逃げ出した人達の数です。こちらは国王軍も気づいていまして…。」
なんて仕事が出来る夫人だろう。ギークは内心、その夫人がいたら大変だな、とこっそり思った。国王軍にいなくて良かった。いたら、もっと目を見開いて仕事しろ、と言われそうな気がする。
「さすが、元民警の警察官。第一線を離れて久しいのに、鈍っていないようだ。」
バムスは嬉しそうに笑う。笑っている場合ではないのでは……。周りの者はこっそり思う。
「そういえば、ティーマの行方は分かったか?」
バムスがふと思い出して尋ねる。
「いいえ。あれっきり、姿を見ていません。」
「お前達に頼みがある。彼女を見たら、すぐに助けて欲しい。必ず生かして連れてきてくれ。彼女は私が子供の頃からの使用人。何かのっぴきならない事情があるのだろう。話を聞きたい。」
「承知致しました。」
使用人達四人は頷いた。
「あのう、奥様方には何と伝えましょうか?生きているとはお伝えしなくてよろしいのですか?」
「言わなくていい。今のままの方がいい。その方が、敵に勘ぐられなくて済むだろう。知ってしまえば、隠さなくてはいけなくなる。そうなれば、賢い彼女達とはいえ、動きに綻びが生じる。」
賢いバムスが賢いという女性達は、一体どれほど賢いのだろう、とケイレは思った。
もうこれで、用事が終わるかと思った時だった。
星河語
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