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ヴァドサ家の客人 2

 ヴァドサ家に逗留しているバムスを中心に起きる騒動。まずは、彼の護衛のニピ族達から始まった。そう、ご主人様第一主義の彼らは、ご主人様がいなくなると大変なのだ。犬のように忠実で、猫のように心配性。(猫もこれと見込んだ人には忠実。)


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 その時だった。屋根から物音がしたかと思うと、部屋の前にどさっと音がして、落ちてきた。サグが止める間もなく、慌ててケイレが引き戸を開けた。

「何者だ!」

 という誰何(すいか)の声と共に、同じく屋根の上からと庭の方からもやってきた。後から来た人達はヴァドサ家の使用人達で、見回りをしていた者達だ。

 部屋の前には誰かがうずくまっている。ケイレとガルシャは緊張した。思わず身構える。声をかける前に、がばっとその人物が上半身を起こした。

「!旦那様!!やはり、こちらにおいでだったのですね!!!」

 いきなり大声で叫ぶと、()って部屋の中に入ろうとする。髪はもしゃもしゃ、(ひげ)も伸び放題になっている人物を見て、ケイレは誰なのか分からなかった。だが、この大仰な言い方はニピ族のような気がする。

「サミアス!?」

 やはり、食事をしようとしていたバムスが(おどろ)きの声を上げて、立ち上がってきた。ケイレ達があっと思った時には遅かった。バムスは使用人達の前に姿を現してしまった。

 使用人達の全員が、この奥から出てきた神秘的な美しい人は誰だろう、とびっくりして彼を見つめた。しかし、バムスは人に注目されることに慣れてしまっているため、全く気にしていない。

「サミアス、一体、どうしてここに?それに、その姿はどうした?」

「だ、旦那様ぁぁ!!」

 サミアスは怪我のため、廊下にうずくまったまま叫んだ。滝のように涙を流して喜びを表している。

「やはり、夢じゃなかった、幻覚でも幻聴でもなかった…!旦那様が生きておられると言っても、誰も信じてくれなかった!カートン家でずっと嘘つき扱いされたのです!!

 きっと、事件前に行き来があったヴァドサ家にいるに違いないと思って、抜け出して来ました!!やはり、思った通りでした!旦那様、ご無事で本当に良かったぁぁ!」

 サミアスはおいおい泣きながらバムスの方ににじり寄った。そんなサミアスの前にバムスはそっと座る。次の瞬間、その場にいた人は(おどろ)いて胸がドキドキした。

 なんと、バムスが慈愛に満ちた表情で優しく、サミアスを抱きしめて背中をさすり始めたのだ。

「すまない、サミアス。私は今、自分の死を偽装している。そのため、先生方に私が死んだことにしてもらっていた。カートン家にも謎の組織の密偵がいるかもしれないと思い、お前にすら私が生きていることを隠した。」

「だ……旦那様!そ、そうでしたか。」

 サミアスは子供のように泣いている。

「悪かった、サミアス。」

 バムスの説明の言葉だけを聞いていたら、何も誤解を受けそうにもないのだが、目の前の情景が何とも言えず、見てはいけないものを見ているような背徳感を、その場にいる人達は感じた。

 その時だった。屋根の上からダダダダッという物音と共に、勢いよく何かが二つ降ってきた。と同時に「侵入者だ!」「何者だ!」「くせ者だ!」などという使用人達の大声が飛び交った。

 バムスの前に着地した二つのもの…は人だった。こちらも(ひげ)ぼうぼうの怪しげな格好の二人だ。しかも、目が落ちくぼみ、大変怪しい雰囲気を醸し出している。

「ガーディ、ヌイ。お前達もいたのか?」

 だが、一目でバムスは誰なのか気がついた。ケイレは思わず凝視(ぎょうし)した。バムスが来ていた時に、サグ以外のニピ族を全員見ていたはずだが、全然分からなかった。サグが一番、まともに整った身なりをしている。

「旦那様!!!」

「ようやくお会いできました!!!」

「私達に、会ってはいけないという言づてだと思い、会うのを我慢していたのです!!!」

「それで、ずっとヴァドサ家の敷地内にこっそり潜んでいました!!」

 二人は代わる代わる説明を始め、おいおい泣き出した。涙が滝のように流れ落ち、子供のように泣いている。恥ずかしいとは思わないようだ。ケイレを始め、ヴァドサ家の使用人達は、珍獣でも見つめるように、最初の一人も含めて三人を見つめた。

「ねえ、ニピ族って頭がおかしいの?」

「おかしいっていうか、恥ずかしくないんじゃないの。」

 少女達の声がして、ケイレとガルシャは慌てて振り返った。すると、一番末娘のカレンとアレスの娘のテラがいた。叔母と姪だが一歳しか違わないので、姉妹のように仲がいい。なぜか、ギークも一緒にいた。

「母上と叔母上が、二人につけられていたんです。」

 ギークがため息交じりに説明した。

「あなた達、だめでしょ!」

 ケイレが叱ると、二人は顔を見合わせてふふふと笑う。

「だって、母上と叔母上が二人だけでいなくなって、戻ってきたら何か嬉しそうなんだもん。きっと何かあるって思うわよねー?」

「ねー。」

 反省の色もなく、二人はくすくすと笑っている。

「ねー、じゃありません。あなた達は戻りなさい。ここはお客様用の離れです。」

「ねえ、母上、あの美しい方はどなた?」

「ニピ族が四人もいるのよ?ってことは?」

「ねー?」

「ねー…!」

 二人はほんのり頬を染めて興奮している。

「あなた達、絶対に他言無用です。決して口に出してはいけません…!」

 ガルシャも(きび)しく叱る。でも、年頃の少女達はくすくすと楽しそうに笑い合っている。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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