教訓、四十二。気の使いすぎは良くない。 4
シークはベリー医師と話していた。その後、シークの怒りが解けたことをさっした部下達がやってきて、若様もやってきた。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「それで、レルスリ殿の話は聞いた?」
「……はい。」
「うん。それでね、君の家にランゲル先生のお兄さんが、レルスリ殿の診察に行っているからね。その関係で知っているんだよ。しばらく、私にも本当の情報は来なかった。来たのは最近になってからなんだけど。私も君に本当のことを言わないのは、どうかと思っていたんだ。」
「……。」
誰だってそう思うだろう。やっぱり、シークの思いは間違いではない。フォーリもそう思ったから教えてくれたのに、申し訳ないことをした。さっきより少し冷静になり、考える余裕ができていた。
「でね、君のご家族はきっと、君にあまりに多くの災難が降りかかっているから、心に負担をかけたくなかったんだと思う。
だから、内緒にしたんだと思うよ。そうでないと家族全員で君に、その重要な話を内緒にする意味がない。本当なら喜ばしい話のはずなんだから。」
確かにそうだろう。でも、という気持ちが拭えないのも事実だ。
「きっと、レルスリ殿もこれはどうかと思ったから、君の耳に入るようにサグに伝言したんだろうね。」
バムスには重ね重ね世話になっている。
「それからね、ベイル君の悩みが深かったんだが、その話が漏れて君以外、みんな知っているから。」
「え!?」
シークはぎょっとした。つまり、当事者の自分が一番、何も知らないのだ。
「でも、みんなを叱らないでやって。どうやって伝えるか、ベイル君は胃痛になるほど悩んだんだから。実はすぐに君に言うかとも思ったんだけど、若様がその話を聞いて、しばらく時を見計らってから言うことにしようと言われてね。」
シークはびっくりした。
「若様が…ですか?また、どうして……?」
若様がそんなことにも気を遣えるようになってきたようで、嬉しい反面、妙な気遣いだったような気がせんでもない。
「きっと、家族が内緒にしたのは、理由があるはずだから、その理由が明確にならないうちに、こっちから勝手に話しても良くないのではないかと。
そういうこともあってね、君に連絡もいくかもしれないし、ちょっと様子をみていたんだけど、全く知らせがきている様子がないから、これはまずいと思ったよ。」
「……。」
「これは私の推測だよ。カートン家からも心配して連絡が来ていたから、私に連絡が来たんだけど。彼らの観察によると、君のご家族は君が任務に集中できるよう、君の婚約者殿が安定するまでは内緒にしようとしたようだ。
ただ、その後、立て続けに事件が起き、君の元にその連絡をする機を逸してしまった。それが、本当のところではないかな?まったく、悪気はなかったと思うよ。君が従弟のことで悲しんでいたというのもあって、叔父さん達も言いにくかったんだろう。」
シークはため息をついた。かなり衝撃を受けたが……ベリー医師の話を聞いているうちに、何だかその様な気がしてきた。もしかしたら、そうかもしれない。
セグの話が落ち着いたと思ったら、世話になったバムスが行方不明になったという話を聞かされた。動揺する話ばかり続いていたので、話す機会を逸したというのが真相かも知れない。しかも、その後、シークは体調を崩した。
そうなると、シーク自身にも少しは責任があるようにも思える。それでも、なんで言ってくれなかったんだろう、という気持ちは完全には拭えないが!
その時、部屋の前の気配がいっそうゴソゴソ増した。さっきから、いるのは分かっていた。部下達みんなが、そこにいるのは分かっている。何やらみんなでやっている気配だったが、結局、ベイルが押し出されて部屋に入ってきた。
「……あの、隊長。」
ベイルは気まずそうに切り出した。
「その……。」
ベイルは胃痛を起こすくらい、悩んでいたのだ。そんな彼に怒ったりできないし、部下達が隠していた当事者でもない。家族の行動も、懇切丁寧にベリー医師に解説されれば、シークを思ってのことなので、いつまでも怒っている訳にもいかなかった。
シークは頭を掻き、ため息をついて立ち上がった。
「ベイル、気にするな。お前のせいじゃないだろう。それなのに、胃痛を起こすだけ悩んだって?ベリー先生から聞いた。」
ベイルは一瞬ベリー医師を見た後、はあとため息をついた。ほっとしたようでもある。
「でも、隊長、言い出せなくてすみません。私が勝手に言ってもいいものかどうか、凄く悩んだので。」
「分かってる。お前達みんなは悪くない。きっと、父上が何か妙に気を回したんだろうと思う。」
シークがもう怒ってないと分かった瞬間、大勢の部下達がなだれ込んできた。その間をフォーリがかき分け、若様が前にやってきた。
「……えーと……。」
若様はみんなと一緒に、何かやることに慣れていない。それに、今日は攫われかけたのだ。それなのに、こんなに落ち着いていられるくらいに、若様は成長している。それ自体が驚きだった。
ロモルが側にしゃがんで若様に耳打ちした。
「…せ、せーの…!あ。」
若様はせーのと言ってしまってから、何かに気づいたが遅かった。
「隊長、おめでとうございます!!」
もう、一斉にみんな言ってしまった。若様は何か手順を間違えてしまったのか、上手く出来なかったらしく泣きそうな表情を浮かべた。
「みんなありがとう。」
泣きべそをかき始めた若様に気づいて、フォーリとベイルが宥めるが、若様は首を振ってフォーリのマントに顔を埋めた。
シークはそんな若様の頭を撫でる。
「若様、ありがとうございます。わざわざ言いに来て下さり嬉しいです。」
若様は首を振った。
「でも、上手く言えなかった…!みんなとおめでとうって言いたかったのに、上手く言えなかった!」
「若様、十分な進歩です。前はみんなと一緒に、何かすることも難しかったでしょう?それが、ここまでできるようになったんです。若様が上手く言えなかったと思っていても、私はそれが嬉しいです。若様のお気持ちは十分に伝わりました。」
なんとか泣き止んで欲しくて、上手く出来たことを強調して伝えると、ようやく若様はフォーリのマントから顔を上げた。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




