教訓、四十二。気の使い過ぎは良くない。 3
この世界のサリカタ王国では、婚約後に子供が生まれてから結婚するのが習慣です。
さて、シークに子供が生まれたのですが、誰一人家族が教えてくれませんでした。怒り心頭達したシークは、思わずこのことを教えてくれたフォーリを激しく揺さぶっていましたが、フォーリが危ないと思ったシークの部下のフォングーが止めに入ります。しかし、居心地が悪く困り果てているとベリー医師という助け船が。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その頃、残されたフォングーは、フォーリの首がおかしくならないか、心配になった。めったにシークは怒って感情を露わにしないが、さすがに今回は怒っている。激怒している。
そうだろう。大事なことを、家族の誰一人シークに言わなかったのだから。そのため、フォーリが代わりに当たられているのだ。
シークが、誰か人に当たるところなど初めて見るが、それくらい怒っているのだろう。いや、衝撃を受けたのかもしれない。
だが、シークの本気の揺さぶりは、ニピ族のフォーリであっても、首に何か支障を来すかもしれない。
思い切ってフォングーは、部屋の扉を叩いた。一回目は気づかず、フォーリが手を上げて教えても、シークはまだフォーリを揺さぶっていた。仕方なく、今度はもう一度、大きな音で叩いた。ようやく、シークは振り返った。物凄く怒っている。モナだったら、逃げただろうほどの迫力で怒っている。扉を叩いたフォングーは少しだけ後悔した。でも、今更、後には引けない。
いや、フォングーの思った通り、シークは誰も教えてくれなかったことに衝撃を覚えていたのだ。その上、悲しかった。誰も教えてくれなかったことに。
家族みんなで隠したことに。その事実に衝撃を受けて、何をどうしたらいいのか分からないという状況だった。
「……ジルムか。どうした?」
とりあえず、シークはフォーリから手を放したので、ようやく可哀想なフォーリは解放された。やっぱり、首を回して頭を振っている。これ以上は危なかったかもしれないとフォングーは思った。
『……隊長、実は話が聞こえました。』
話せないフォングーは手信号で伝える。
「……。」
シークは何か、体全体から納得できないという気持ちが、黒いもやとなって全身を覆っているような感じだった。
『まずは、お子さんが生まれるそうで、おめでとうございます。』
「……。」
シークは必死になって、自分を宥めていた。確かに普通は祝うべきことだし、フォングーの言うとおりなのだ。フォーリやフォングーに当たってもしょうがない。頭では分かっている。
でも、なんだろう、この気持ちは。自分のことなのに、自分をないがしろにされるという、この状況はなんと理解したらいいのだろう。
父も母も、弟達も、兄も叔父も叔母も妹達も、そして、何より子を身ごもったアミラでさえも、シークには隠したのだ。シークは想像以上に自分でも衝撃を受けて、教えて貰えなかった事実に傷ついていた。
フォングーはいつもと違う隊長の様子に、危機感を覚えた。いつもだったら、ありがとうと言ってくれる。でも、今の隊長は衝撃を受けすぎて、黙ったままだった。
子どもの頃から、父のビレスはシークに対して、冷たいと思っていた。それが、今度は母や叔母、弟達や妹達、家族全員に裏切られたような気持ちになっていた。
おそらく、シークの任務に差し支えないようにしようと思い、家族は全員でその事実を隠したのだろう。従兄弟達がねつ造した事件に始まり、大街道での事件、毒を飲まされた事件などことかかない。
だから、それでシークに隠したのだろうとは、フォーリも思った。だが、そんなに大事なことを隠されたら、シークは自分をのけ者にされていると思うだろうと、フォーリにも想像がつく。
おそらく、バムスがサグに言づてさせたのは、シークに隠しているこの状況はまずいので、こっそり教えさせるためだろう。
「おーい。フォーリ、遅いね。」
そこにベリー医師が素知らぬ顔で入ってきた。
「遅いから見に来たよ。もう、話は終わったようだね。フォーリ、ほら、戻りなさい。フォングー君、君もね。」
ベリー医師はさっさと二人を帰した。
「ほら、座るんだ。」
ベリー医師は言って、シークを椅子に座らせた。シークが使っている部屋である。シークは呆然としながら、椅子に座った。
その様子を見て、ベリー医師もため息をついて、椅子に座る。
「あのね、二、三日前から、ベイル君が胃痛で食が進まないからと、胃薬を貰いに来たんだよ。」
そういえば、その様だった。ベイルの調子が悪そうだったので、心配だったのだ。
「大丈夫ですか?」
「…うん。悩んでいることがあってね、この原因を取り除かないと、治らない。」
「そうなんですか?一体、何を悩んでいるんでしょう?」
ベリー医師は頷いた。
「君のことだよ。」
シークは思わずベリー医師の顔を見返した。
「…どういう意味ですか?私は何か、ベイルに悪いことでも……。」
ベリー医師はシークの話を、手で遮って止めた。
「いいや。違う。この状況はね、お互いに気を使いすぎて起きたことだ。お互いにというか、君のことを考えて、よかれと思って起きたことだ。」
シークは考えこんだ。何か、さっきのことを言っているような……。
「実はベイル君は、君に子供ができたことを聞いた。だが、家族が誰一人、君に教えていないことを知り、言ってもいいものかどうか、それで悩んだんだ。でも、大事なことで言わない方も変だろう。悩みすぎて胃痛が起き、私に薬を貰いにきた。」
「……。」
ベイルらしい。それに申し訳ない。悩まなくていいことで悩ませてしまった。
「私はこれは、気を使いすぎたことが原因だと思い、何を悩んでいるのか、彼に聞いた。彼はしばらく口を閉ざしていたが、薬を飲んでも治らないと言ったら、ようやく話してくれて。
実は実家から手紙が来て、その中に君の婚約者に子供が出来て、もうじき生まれるということが書いてあったんだそうだ。それで、何気なく君に様子を聞いても、何も言われていないというので困り果て、どうしたらいいものかと悩んでしまった。
しかも、その話、ジラー君も知っていてね。実家の関係で知ったようだ。実家の誰かがたまたまヴァドサ家に行って話をしたら、君の婚約者が身ごもって、もうじき生まれるという話を聞いたと。それで、ジラー君はおやと思ったが、君が知らない様子なので、黙っていたと。
しかも、ちょうど従弟のセグ君が亡くなったりして、大変な時期だったので、それもあって話さなかったそうだ。」
「……。」
いい部下達だ。そのために悩み、また気を使って言わなかった。あのジラーでさえも気を使ってくれたのだ。シークは部下達に申し訳なく思った。
星河語
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