教訓、四十二。気の使い過ぎは良くない。 1
遅くなって申し訳ありません。
若様は誰かに攫われて意識を失い、崖の縁に気がつくといたという。それで、辺りを見回そうとした所、均衡を崩して崖の斜面を滑り落ち、マントが木の枝に絡んで落ちずにぶら下がることができたという。
その体勢でしばらくぶら下がっていたが、なんとセリナも滑り落ちてきた。無事だったセリナは手を握って引っ張ってくれたので、なんとか這い上がることができたという。
若様は怖いことが起きたのにも関わらず、落ち着いて説明してくれた。セリナの説明とも一致するので、その通りのようだ。
フォーリは若様が怖がって口を閉ざしたりせず、見たところは落ち着いているので、安心したようだった。しかも若様は、村人の中に協力者がいる可能性に気づき、働いている村娘達が怯えないよう、こっそり調べて欲しいとフォーリに頼んだらしい。
若様は本当に急激に成長している。それについてはほっとする。
「おい、ヴァドサ。」
フォーリは若様が寝ついた頃を見計らい、ベリー医師に頼んできてシークと話をしていた。
「お前、分かっているよな?協力者は村人だけじゃないかもしれない。」
フォーリはじっとシークを睨むように、眉間に皺を寄せて言ってきた。シークはため息を一つついてから、頷いた。
「分かっている。その可能性があることは。私の部下にいるかもしれないことだろう?」
フォーリは頷いた。
「私だって疑いたくない。私とお前の不仲なフリをしてしていて、向こうが動いてきたから、お前の隊にいる密偵の可能性は低い。お前達は仲がいいし、見ていてそのようには思えない。だが、だからといって無条件に信じていては危険だ。何が起きるか分からない。前の時みたいに。」
ダロスの時のことを言っている。
「そうだな。」
「分かっているなら、いい。ところで、お前。実家の方はどうなっている?結婚の準備をしないといけないだろう?でも、その準備を手伝って貰えるはずだった、レルスリ殿が行方不明だ。どうするつもりだ?」
どうするつもりだと聞かれても、こっちもどうしたらいいのか、全く分からない。
「さあ。どうしたらいいんだろう。手紙には書いて聞いてみたが、いっこうに返事が返ってこない。」
フォーリがじっとシークを見つめた。
「何も言ってこないのか?」
「何も言ってこない。ただ、私は任務に集中するように、とだけだ。父も母も、ギーク、イーグ、ナークまで似たようなことばかり書いていて、何かが変だ。
妹達からの手紙も、『シーク兄さんは元気にして、とにかく体を大切に、任務を頑張ってね』とかしか書いてこない。家族中で何かを隠しているのか、とにかく変だな。」
長老達からの手紙まで、体を大切にと、くどくど書いていたりして、みんなに自分が毒を飲まされたりした話が伝わったせいで、そうなっているのだろうか、とシークは首を捻った。
そんなシークを見つめて、フォーリは考え込んだ。
「他には?」
フォーリの言葉にシークはさらに首を捻った。
「…他にってなんだ?」
フォーリは腕組みして考え込んだ。何をそんなに深刻に考える必要が?
「……お前、婚約者について、何も言われないのか?」
「……アミラが何の関係が?」
フォーリは首を振った。
「婚約の破棄を破棄しただろう?それについても、何かあるのではないかと。」
「もう、連絡はしてある。一族の方で私が勝手に婚約の破棄をしたのは、任務の都合上、仕方なかったかもしれないとなって、結局、婚約はそのままになっていたそうだ。だから、婚約の破棄にはなっていないそうだ。
それについては、エンス叔父上に聞いていたし。」
「……。そうか。」
フォーリはさらに考え込んだ。
(……一体、何だ?なんだ、この妙な反応は?フォーリまで何か変だ。)
気持ちがすっきりしない。家族のみならず、なぜ、フォーリまで妙な態度を取るのだろうか?なぜだろう?
「……フォーリ。もし、何か知っているなら、話して欲しい。妙な態度を取られると、その方が気になる。家族の態度はずっと気にかかっているが、帰って確かめに行くこともできない。その上、お前にも妙な態度を取られたら、ますます気になる。」
シークが言うとフォーリはふむ、と頷いた。
「確かに、お前にしてみればそうだよな。」
フォーリはシークを手招いた。
「耳を貸せ。」
そうして何事か耳打ちしようとして、ふとやめた。
「その前に、これを口に入れろ。」
シークの服のポケットから手巾を勝手に取って、差し出した。一体、いつ抜いたのか、というほどの早業だ。きっと、ニピ族は“優秀な”泥棒になれるだろう。
「はあ?」
思わず言うと、フォーリは不機嫌になる。
「いいから、入れろ。万一、驚いて重要なことを叫んでも困る。」
仕方ないので、フォーリの言うことを聞いて口の中に手巾を入れたが、さらにフォーリに奥に突っ込まれた。
「うぐっ。」
奥に入りすぎて吐きそうになり、急いで堪えた。思わず涙目でフォーリを睨んだが、無視された。
「変な声を出すな。」
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




