教訓、四十一。吉凶は人によりて日によらず。 4
無事に見つかった若様。ついでにフォーリも見つかった。さすが、ニピ族。主をしっかり発見したようである。シークは嫌な可能性に頭を悩ませるのだった。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「フォーリ、良かった、無事だったんだな?」
「ああ。それにしても、遅いぞ!もっと早く見つけておかしくないのに!」
フォーリが文句を言い出した。自分だって見失ったくせに、何を言っているんだと思うが、とりあえず、若様が無事だったので一安心だ。
「分かった。今、縄を下ろしてやるから、ちょっと待ってくれ!」
シークがフォーリと大声でやり取りしているので、後から来た部下達もどこにいるか明確に分かり、すぐにやってきた。素早く縄をウィットが持ってきた。少し離れた大木にしっかり結びつけて、下に垂らす。
一時して、フォーリが若様を抱えて上ってきた。若様は疲れた様子だったが、怪我もしていなかった。
「若様、ご無事でしたか?」
シークが確認すると、若様は頷いた。心なしか嬉しそうだ。
「うん。怪我もしなかった。セリナが助けてくれたよ。」
「セリナも無事ですか?」
「うん。怪我してない。」
そう言って、少し表情が曇った。怪我はしていないが、何か危ない状況が起きたのだろう。
「それは良かった。とにかく、若様がご無事で何よりです。申し訳ありません。若様をお守りできず、危険にさらしてしまいました。」
シークが謝ると、若様は弾かれたようにシークを見上げ、困ったように眉尻を下げた。
「ヴァドサ隊長のせいじゃないよ。」
若様はそう言って、フォーリの方を見た。フォーリは崖下を覗いて、セリナが上ってこれるか見ていたが、結局、下にもう一度下りていった。彼女を引き上げるためだ。
やがて、フォーリに抱えられたセリナが戻ってきた。
「セリナー!良かったよう!」
リカンナが安全な場所に戻ったセリナに抱きついて泣いた。
「ごめん、リカンナ!心配をかけちゃった。」
「とにかく、怪我はないの?」
「うん。奇跡的に怪我してない。落ち葉のおかげだよ。」
「そっか、良かったー。」
二人の話が一段落した所で、シークは二人に近づいた。
「セリナ、無事で良かった。屋敷に戻ったら話を聞きたい。何があったか、後で教えてくれないか。」
セリナは頷いた。
「分かりました。」
「それと、今は無事に山を下りることが先決だ。もう、暗くなってしまったから、気をつけて下りるんだぞ。特に生還した後は、足に力が入らないから。」
シークが最後に付け加えると、そんなこと分かってるのに、という雰囲気だったセリナがはっとした。確かに、とリカンナも頷く。
シークは少女達が無事に山を下りられるように、部下達に前後を挟ませた。若様はフォーリが背負っている。しばらく、放さないだろう。
山を下りながらシークは考えていた。これは、まだシェリアの所領にいた頃、バムスと話した嫌な可能性の一つが、現実のものとなろうとしている前兆のような気がした。
どんな田舎にでも、組織の一員を送れるということは、大きくて古い可能性があると。知らないだけで、大昔から存在する組織なのではないかと。そんな予想をした。
そういえば、バムスはどうなったのだろう。シークは思った。彼は行方不明のままだ。見つかったという話は聞かない。強力な手助けがなくなってしまった。
バムスは黒帽子を調べるための全権を与えられていたのだ。そのバムスを亡き者にすれば、当然、捜査は送れる。もしかしたら、本当に殺されてしまったのだろうかと不安になった。
もし、仮にそうであったのだとしても、シークは任務を遂行するため、若様を守るためには、その強大な敵に立ち向かわなくてはならない。フォーリの背中に背負われている若様を見つめた。
今日は何もなくて良かった。だが、これからもっと気をつけなくてはならない。しかも、フォーリを出し抜いた。シークも気づかなかった。これは何を意味しているのか。
自分の部下にも黒帽子の息がかかっているという、嫌な想像を現実のものとして、本格的に考えなくてはならないということでもあった。
ずきりと、胸の奥が痛んだ。部下達を信じたい。でも、それを最後までできるのかどうか分からない。
この時、王の苦悩が分かる気がした。シークを信じられる器かどうか、確かめに来た。確かにそうだ。自分が信じられる器なのか。自分自身さえ、こうなってくれば疑わしくなってくる。
なぜなら、家族を人質にとられても、若様を守ると言えるのかどうか、そこが分からなかったから。
そして、その時、気がついた。だから、バムスはシークを、若様の護衛であるように王に進言したのだと。そして、最初に推薦したイゴン将軍もその考えがあったのだと。シークなら、家族を人質に取ることが、とても難しいからだ。
シークは家族の実力を信じようと思った。決して人質には取られないと。それに、罠に関してもナークがいるから気がつける。そして、人数もまた力なのだと、この時、本当に思った。人数が多いというのは単純でも大きな力だ。お互いに信じあれば、岩のように強固だ。
でも、信じ合えなければ、泥のように崩れ去ってしまう。
シークは部下達のことも、信じようと決心した。そのことで裏切られたら傷つくし、もしかしたら、危険も招くかもしれない。もちろん、シークはそのことを念頭には入れておく。しかし、常に疑い続けるのは、自分の性に合わない。きっと、いつかぼろが出る。
たとえ、部下達が全員裏切ったのだとしても、シークはそのことを受け止め、一人でも若様を守ろうと決めた。もちろん、フォーリとベリー先生は裏切らないだろう。ベリー先生の性格からしても、裏切りはできないだろうと思われるし。そもそも、裏切るようにそそのかす方が難しそうだ。
それを考えると、落ち込んだ気分だったが、少しおかしくなった。
フォーリには後で、さんざん文句を言われるだろうが仕方ない。文句を言われる覚悟を決めた所で、周りに気をつけながら歩くことに集中したのだった。
星河語
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