教訓、四十一。吉凶は人によりて日によらず。 3
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若様の捜索はなかなか進まなかった。誰もがみんな、同じ事を思っていた。若様は攫われたのではないのかと。そんな時、リカンナが走ってきて……。
成果はなかなか出なかった。少しずつ、少しずつ、捜索範囲を広げている。だんだん日も落ちてきて、みんなに焦りも出てきた。こういう時が一番、危ない。
そういえば、セリナとリカンナはどうしただろうか、と心配になった。そろそろ、戻ってきて報告してくれてもいい時間だと思う。
「隊長、ここもいませんでした。」
アトー・バルクス、フェリム・ダロス、イワナプ・ジラー、ジェルミ・カンバの組が探したところについて、報告にきていた。
「…ここもいなかったか。」
みんな、言いたいことを飲み込んでいる。若様は攫われたのではないか、という不安だ。心配でも口に出せないでいた。その時だった。
「大変です…!」
リカンナが大声で走ってきた。山の中、懸命に走ってきたようだ。セリナがいない。滑って転び、大けがでもしただろうかと不安になる。
「……あ、あの……。」
リカンナは大急ぎで走ってきたが、一斉にシークの他に四人の隊員がいたので、少し緊張したようだ。
「どうした、何があった?セリナに何かあったのか?」
努めて優しく妹達に語りかけるように聞くと、リカンナは緊張が解けたように、急いで頷いた。
「はい、あの、セリナが崖の斜面に、誰かが滑り落ちたような跡があるって、見つけたって言ってたんですけど、調べに行って、そのまま滑り落ちちゃったんです!」
「!」
なんということだ。やはり心配した通りだった。
「大けがをしたのか?」
リカンナは首を振った。
「わ…分かりません。斜面を滑ったのを見たので、大急ぎで走ってきたんです。どうしよう、確認してくれば良かった。」
リカンナがおろおろして、涙ぐんだ。
「リカンナ、大丈夫だ。すぐに助けに行く。それで、最初にセリナは何を見つけたと?」
シークはリカンナにゆっくりと確認する。こういう時は慌てているので、急かしても意味が無い。
「…あ、えーと、誰かが滑り落ちた後があるって言ってたんです。それで、よく見ようとしたら、切り株が壊れて、滑り落ちちゃって。……大丈夫かな、セリナ。どうしよう。あそこの崖は危ないから、近づかない所なんです。死んじゃってたら、どうしよう。」
とうとうリカンナが泣き出した。シークはアトーに他のみんなを集めるように指示を出した。
もし、若様の暗殺が目的なら、その崖は非常に最適な場所だ。そこに連れて行って突き落としさえすれば、事故で落ちたように思われる。
シークは知らず緊張した表情を浮かべていたが、みんなも同じように、厳しい表情を浮かべている。
部下達を集めている間に、シークはリカンナを落ち着かせた。涙でぐしょぐしょのリカンナにちり紙を渡す。
「いいか、リカンナ。今から助けに行くから、どこに落ちたか、落ち着いて案内してくれ。」
ゆっくり繰り返し言い聞かせると、ようやくリカンナは頷いた。
シークは集まってきた面々に説明した。
「みんな聞いてくれ。セリナが向こうの崖の方に、人が滑った後を発見したそうだ。だが、それを確認しようとして、セリナも落ちたらしい。今から、セリナを助けに行くと同時に、その崖についても調べに行く。
暗くなってきたから、事故が起きないように注意すること。足下にも気をつけろ。」
まだ、全員は揃っていない。
「バルクス、カンバとここを頼む。まだ、全員来ていない。お前達二人を残して、私は集まったみんなと先に探しに行くから、残りの全員を連れて来てくれ。」
本当は暗くなってきたし、全員揃ってから出発した方がいいだろうが、リカンナが心配でたまらないだろう。急いで見に行ってやった方がいいはずだ。
「くれぐれも怪我や事故に気をつけるんだぞ。こういう時は悪いことが立て続けに起きたりするものだから。」
みんなに注意してから、リカンナに目を向ける。リカンナは早く行きたくて、やきもきしているようだ。それもそうだろう。だが、慌てていっても、事故が起こったりする。
「バルクス、カンバ、頼んだぞ。」
そう言ってから、リカンナを振り返る。
「リカンナ、案内してくれ。」
それを合図に、リカンナは急いで歩き出した。そこに行くまで、やたらと長く感じた。暗くなってきて、慎重に歩いているから余計だ。
「こっち、こっちです!ここの斜面の下にセリナが落ちちゃって、落ちる前に人が滑ったような跡があると言っていました!」
確かに危ない場所だ。狩りを本格的にする前に、山歩きだけをしている。その時に、ウィットとロモルに調べて貰っていた。
「セリナ、聞こえる、大丈夫!?」
「!うん…!大丈夫!」
リカンナが大声で呼びかけると、下からセリナの大声が響いてきた。それを聞くなり、リカンナはそこに座り込んだ。
「良かったー!」
と言って泣き出した。当然だろう。運が良かったので、無事にすんだのだ。だが、肝心の若様の無事はまだ、確認できていない。
「セリナ、若様はおられるか?」
シークは気をつけながら、少し崖に近づいて大声で聞いてみた。
「若様はご無事だ!」
フォーリの声が聞こえてきた。さすがはニピ族、若様の居場所を確実に見つけたらしい。しかし、ここにいるということは、やはり、何者かに若様は連れてこられたと思うしかないだろう。
星河語
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