教訓、四十。地道な訓練が大切。 3
シークは若様にせがまれ、部下達を集めて槍の訓練をすることにした。若様はみんなと何かをするのが嬉しくて、にこにこしている。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
その様子をなぜか、若様はとても嬉しそうに見ている。目をキラキラさせて楽しそうだ。それを見た隊員達は、みんなと一緒に何かすることが嬉しいのだと分かり、苦笑した。
「何するの?」
「若様は木刀を振ります。それで、部下達はこの竹を振ります。私もこの竹を振ります。」
「この竹の棒?どうして、竹の棒なの?」
「若様、竹の棒だって、立派な武器になるんですよ。」
シークの言葉に若様は、目が落ちそうなほど目を丸くした。
「本当なの!?どうやって!?」
そんなに驚かなくても!と思うほどの驚き用だ。でも、そんな若様は弟のように可愛いと、隊員達は思うようになっていた。
「そっか、竹の棒でもちゃんと武器に出来るように、今から訓練するんだね。」
思わず、隊員達は声に出して笑ってしまった。若様は間違えていたと気がつき、頬を赤らめた。
「ええー、違うの?」
「すみません、若様。説明の仕方が悪かったですね。」
シークが苦笑して、ぽんぽんと若様の頭を撫でてやると、若様は途端に嬉しそうに機嫌を直した。「へへ。」と楽しそうに笑う。思わず場が和む。
「実はこれ、槍の訓練なんです。竹は竹槍にも仕えますが、実戦ではないので、先を尖らせたりしていません。布を張ってあるでしょう?」
「うん。」
若様は傍らに木刀を置いて、竹の棒の先端を触った。きっちり布を巻いて紐で縛ってあるが、内側にはさらに何重か布を巻いてある。
「国王軍で使う槍と、ほぼ同じ重量にしてあります。竹は節があるので、穴を空けて中に砂を入れ、穴は漆喰で塞ぎました。ただの竹の棒だと思って持ち上げると、とても重いですよ。」
その訓練用の竹棒は、オルの指導の下、一人一つずつ隊員達は作らされたのだった。竹の加工にオルの指導が必要だったのだ。
「本当?持ってみていい?」
「いいですよ。」
若様は竹の棒を持ち上げようとした。
「重たい。ちゃんと持てないよ。」
「真ん中を持って。両手を肩幅くらいに広げて足を踏ん張って下さい。」
シークに言われて、若様は竹の棒を持ち直した。
「ほんとだ、今度は持てた。」
「さっき、話した重心です。鶏の時は縦方向の動きの重心を見ましたが、今のは横の重心です。横に長いから、横の重心をとるのが難しいでしょう?天秤棒などはこれを利用したものですよ。」
「ふーん。ねえ、いつまで持っていればいいの?」
若様、それを聞くかい?いつまでって、訓練が終わるまでだよ。そこにいる隊員達は全員同時に思う。
「おい、お前ら、ぼーっと見ていないで、さっさと一人一本持って距離を保って立て。分かっていると思うが、絶対に若様に当てるような距離には立つな!」
シークの声が訓練仕様になっていると気づいた隊員達は、大急ぎで竹の棒を取り、さあっと距離を保って立った。
「構え!!」
全員、ざっと竹槍を構える。
「始め!!」
「一、二、三…!」
「声が小さい!!!」
若様がシークの大声にびっくりして、竹の棒を取り落とし、後ろによろめきかけた。シークがそれに気づいて、若様が足の上に落とす直前に棒を捕らえ、若様の体も支えた。耳をごそごそしている若様を、苦笑してシークが見守り、頭を撫でてやっている。
やっぱり、何かいつもの訓練とは違うのだった。
「ねえ、ヴァドサ隊長は振らないの?」
「振りますよ。若様が持っていたこれを振ります。」
シークが答えると、若様は嬉しそうに頷いた。
「それでは、若様、質問です。この長さの竹を私が振り回して、大丈夫だと思う距離に離れてみて下さい。」
「うん。わかった。」
若様は楽しそうに離れた。
「本当にそれで大丈夫だと思いますか?」
「うーん。ヴァドサ隊長が走ってこないなら、大丈夫だと思う。」
「なるほど。いい答えです。でも、左足を軸にして、こう回って伸びた時、ほら、腕の長さの分、つきますよ。」
シークが若様の肩にぽん、と軽く竹の棒を当てると、若様は目を丸くした。
「ああ、ほんとだ。そっか、腕の長さの分、届く距離が変わるんだね。」
「この武器が届く距離のことを間合いというんです。自分が武器を持って戦う時、武器がなくて仮に素手でも同じですが、自分が攻撃出来る距離、その距離のことをさします。」
「じゃあ、もうちょっと離れる。もしかして体も伸びたら、足がこっちに動かなくても届くかもしれない。」
若様はそう言うと、さらに数歩離れた。なかなか飲み込みが早い。
「やってみますよ。」
シークは言って、振り回して見せた。
「ああ、やっぱり、そう思った!届かない距離だよ。」
「正解です。そしたら、若様。そこを動かないで下さい。今から振りますからね。」
シークは若様の位置を確認しながら竹の棒を振る。最初は体慣らしから始め、徐々にいつものように振り回し始める。
ビュウゥッッ、ビョォォォッ、という竹棒が空気を切る音に若様はおっかなびっくり、でも目を輝かせて見ている。そんな風に、尊敬の目で見られたら、つい、張り切ってしまう。国王軍式の槍術だけでなく、少しだけヴァドサ流に伝わる槍術も披露した。
毒を盛られたせいで、以前より体力はかなり落ちた。でも、これだけできるように回復して、本当に良かったとシークは実感した。
「すごーい!」
若様が飛び跳ねて喜んでくれた。
「若様は木刀を振るんですよ。」
「うん。」
「あ、その前に間合いについてもう一つ。こっちに来て下さい。」
シークは若様を手招いた。若様を自分の前に立たせた。
「動かないで下さい。ちょっと振りますよ。」
シークは自分の胸に抱っこするような形で、片手で竹棒を振ってみせた。
「ほら、若様、気づきましたか?」
「何を?」
若様もシークと同じ方向を見ている。
「じゃあ、あの木を攻撃目標だとしましょう。仮にあれが攻撃してくるとして、どうですか?」
「え?攻撃って?」
しばらく、シークは竹棒を振ってみせた。
「よーく、考えてみて下さい。攻撃してくるから、こうやって……。」
本当にしばらく経ってから、若様は声を上げた。
「分かった!間合いって、攻撃の距離だけじゃないんだね、防御の距離でもあるんだね!」
「そうです、正解です。」
さすがのシークも腕がだるくなった。だが、腕が疲れた素振りは全く見せない。疲れたと言えば、休む口実を与えてしまうからだ。
「うん、分かった。間合いって大事なんだね。だって、攻撃と防御と両方兼ね備えているもんね。」
「そうです。」
こうして、若様はようやく木刀の素振りの練習の再開をした。初めの頃は、手にまめができ、それが潰れたりして痛い思いをすることがあったが、今は掌が硬くなってきて、それもなくなった。
夕べは悪夢を見なかったようだ。こうして体を動かす日は、できるだけ楽しく動かせるように、シークは心がけていた。楽しく体を動かせば疲れ切って、悪夢を見る暇も無く寝付けるだろうと考えてのことだ。
さて、シーク達の訓練の様子を見ている者があった。
「……。」
(なるほど。目立つことをしないが、あの親衛隊の隊長は、相当の猛者だな。王子の護衛のニピ族が一目置いているだけある。あの竹棒の動き。本物の槍だったら、私は近づけもしないで死ぬだろう。竹棒でも脅威だ。
それに、他の隊員達もしっかり練兵されている。まあ、こうして毎日、何かしら訓練しているのだから、当然のことだが。しっかり、計画を練らねば。狩りをするということだし、その隙を狙うしかない。)
そう考えたその人物は、ひっそりと立ち去った。
星河語
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