教訓、三十九。どんなに言いづらくても、大事なことは話し、教える必要がある。 5
命の営みは不思議で神秘的なものです。しかし、いざ説明となると難しいものです。この難問はベリー医師が解決しました。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「それで、どうやって教えるんですか?」
ジリナに聞かれた時だった。向こうから大声で騒ぐ声が聞こえてきた。急いで二人が戻ると、図書室にウィットが猫を二匹わしづかみにして連れてきていた。一匹はミー太郎である。もう一匹は、あの子猫の母猫だ。
「おい、ウィット、ここは図書室だ。本を汚したらまずい。外にしろ。」
ベイルが注意しているが、ウィットは言い訳を述べた。
「でも、副隊長、猫が大人しくしていません。今、さっさと説明して放します。」
猫がフーッッ、ギャーッ、ミャーオ!ウーッ!などと鳴いていて騒がしい。
「猫がかわいそうだよ、怒ってるよー!」
若様が叫んでいる。
「いいから見てろって!」
ウィットは言うと、首根っこを掴んでいる雌猫の上にミー太郎をむんずと乗せた。
「おい、お前ら早く交尾しろ…!」
なんて無茶苦茶な!なんぼ猫でもちょっと気の毒だ。二匹はじたばた暴れて、交尾どころではない。今から取って食われる!というような危機感で暴れまくっている。
仕方なく、ウィットは二匹を窓の外から放り投げた。綺麗に投げすぎて、ミー太郎は木の幹に当たって「ぎゃ!」という悲鳴を上げた。雌猫もどこかに走り去った。猫達にとって、人生…猫生の中で一番の災難だっただろう。
ウィットは毛だらけになった手をぱんぱんと払う。さすがに手の甲にひっかき傷ができている。
「いってーな。引っかかれた。」
「当たり前だ!」
ロモルはベイルと同時にウィットをこづいた。
「猫達、かわいそうだよ!ひどいよ!無理矢理したらダメって、ジリナさんが言ってたよ…!」
若様が抗議するが、ウィットはどこ吹く風だ。
「とにかくだ。若様、お前のここを…ふごっ!」
「ウィット!いいかげんにしろ…!隊長がいないからって、ふざけているのか!?どうなんだ!」
珍しくベイルが本気で怒って、黙らせた。
「……すみませんでした。」
ようやくウィットは大人しくなる。
その騒動をジリナもベリー医師も、神妙な顔で見守っていた。もう一度、二人はさっきの部屋に戻った。
「………ジリナさん。どう思います?実際の所、実演しないと分からないのではないかと思いまして。」
「実は私もそう思いました。知識では分かっていても、よく分かっていないと思います。」
ベリー医師はため息をついた。
「ああ、カートン家だったら、簡単だったのになあ。手っ取り早く現場を見せるから。」
ジリナは思わずベリー医師を見つめた。
「そうなんですか?」
「ええ。そうですよ。性病なんかも診察するわけですから。全てを見るんです。」
「よくそんな強者の男女がいますね。」
「それについては、その道の玄人の男女の方々にお願いするんです。」
ジリナはいたく納得した。
「じゃあ、そうするしかないのではありませんか?」
「知り合いにいます?口が堅い人は?」
「さすがにちょっといませんよ。」
ジリナが苦笑した。
「分かりました。やっぱり、こっちで手配するしかないか。」
ベリー医師は頷いた後、とんでもないことを口にした。
「ジリナさん。万一、緊急を要する場合、ないと思いますが念のため。もし、万一の場合は、ジリナさんが実演者になってもらえますか?」
「わたしがですか?」
驚いて聞き返しているものの、普通より冷静だ。ベリー医師には予想していたように思えた。ある一つの推測が立つ。
もしかしたら、ジリナは王宮で侍女をしていたのではないか。なぜなら、侍女は万一の時、王子・王女の性教育の実演をすることがあるからだ。口が堅くて信用できなくてはならない。おいそれとできないが、知っていなくてはならない。難しい問題である。
「ええ。万一の場合、相手はどうしますか?さすがに気に入っている相手でないと……ね。ちょっとやりにくいでしょうから。」
「そうですね。普通、こういうことは、お給金に色が付くものですよ?」
内心でベリー医師は確信した。やはり、ジリナは王宮にいたことがあると。侍女は実演した後、給金に上乗せされて支給される。
「ええ、もちろんです。」
ベリー医師が何食わぬ顔で答えると、ジリナは頷いた。
「いいですよ。ちょっと恥ずかしいですが、年の功で乗り切ります。」
普通の女性ではない。かなり肝が据わっている。
「それで、相手はどうします?あくまで万一の時の話なので。たぶん、ないと思いますが。」
ジリナは頷くと、ふう、とさすがに頬を赤らめて答えた。どこかうっとりした視線で、中空を見つめる。
「……隊長殿。ヴァドサ殿がいいです。」
ああ、やっぱり、と思いながらベリー医師は頷いた。
「落ち着いてますもんね。分かりました。カートン家の方で手配しますから、あくまで本当に万一の話です。ないと思いますから。」
「分かってますよ、先生。それが一番いいです。さすがに私もちょっと、実演はね。」
そう言って、苦笑しながら部屋を出て行った。
しばらく経ったある日。屋敷にカートン家の家紋が入った馬車がやってきた。中から見目麗しくも、落ち着いた男女が下りてきた。
普段、使っていない奥の部屋に若様は連れて行かれ、その男女も入っていった。ベリー医師もフォーリも当然いた。シークとベイルも一緒に護衛だ。
その後、若様はロモルとしばらく目を合わせようとしなかった。いや、できなかったのだろう。そもそも、その奥の部屋から出てきた後、若様はフォーリに抱きついたまま、彼の肩に顔をうずめて、誰とも視線を合わせようとしなかったのだ。みんなの前で赤ちゃんが欲しいと言ったことが、よほど恥ずかしかったらしい。
それ以来、若様は赤ちゃんが欲しいと口にしなくなって、一安心したのだった。
星河語
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