教訓、三十九。どんなに言いづらくても、大事なことは話し、教える必要がある。 4
この話では赤ちゃんがどうやってできるのか、説明する部分が存在します。話の流れの上そのまま掲載しています。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
そのせいかもしれないが、赤ちゃんに興味を持ったようだ。だからといって、いきなり聞かれてもどう答えよう。
「あのね。」
ロモルが考えていると、若様が言った。
「ウィットに聞いたら、こんな言ってた。」
(!?ウィットだと?なんて答えた、あいつ。かなり心配だ。)
ウィットの名前を聞いたロモルは、非常に心配になった。
「雄と雌が交尾して赤ちゃんができるって言った。でも、交尾って具体的に何するのって聞いたら、雄の体についている突起状のものを雌の体の穴の中に入れるって言った。そしたら、赤ちゃんができるって。人間の場合は、男の人と女の人が重なったらできるんだって言った。それって、本当?」
(ひぃぃぃ!何だ、その露骨な説明は!?しかも、よく意味を分かってないみたいだし…!どうしよう…!)
ロモルは冷や汗を全身にかいた。
「私の体にもついてるって。ねえ、それで赤ちゃんできたら、お世話できるね。」
若様はどこか嬉しそうに言った。
(これは、完全にお人形さん遊びの延長でしか考えてない…!生きてるお人形の感覚だぞ…!まずいんじゃないか!?しかも、自分が嫌らしい目で見られたりするのが、“交尾”の延長というか、そのものっていうことを理解していない!)
ロモルは自分を落ち着かせた。とにかく、人間の赤ちゃんは人形ではないので、簡単に“交尾”して作ったらいけないと教えなくてはならない。ロモルが口を開こうとした時だった。
「ねえ、やってみたこと、ある?やってみたら、赤ちゃんできたの?」
「ぶっ!げほっ、げほっ。」
話そうとしていた時だったので、なんか涎でむせた。
「若様、ロモル君に何を聞いて困らせているんですか?」
ベリー医師の声に振り返ると、交代にやってきたベイルをはじめ、仲間達がにやついて笑いを堪えていた。しかも、フォーリが仏頂面で眉間に皺を寄せて無言で突っ立っている…!全身から何か妙な気配が漂っているし、危険を感じた。
「あのね、ベリー先生。赤ちゃんってどうやってできるのか、聞いてたの。ウィットがね……。そうしたら、赤ちゃんができるって言った。本当?」
今度はもっと具体的に話し出した。思わずベリー医師も少し考え込んでいる。なんて説明するか、分かりやすいたとえを考えているのだろう。
「あなた達、そんなことも教えてないんですか?」
その時、ジリナの声がした。扉が開けっぱなしだったため、話が聞こえたのだろう。ジリナはつかつかと中に入ってくると、若様に言った。
「いいですか、おばさんが教えてあげます。ちょっと、こっちにいらっしゃい。」
「……ジリナさんが?」
若様は目を丸くした。ジリナはにっこりする。
「ええ。わたしも昔、赤ちゃんを産んでますからね。」
若様は目を輝かせた。
「本当?赤ちゃん、可愛いい?見に行きたいな。」
赤ちゃんはずっと赤ちゃんではない、と若様は分かっているのだろうか。一抹の不安をみんな覚えた。そういう意味では親猫に返さず、子猫を育てた方が良かったのかもしれない。この間の子猫は、次の日、親猫が探しに来たので返した。
「それも含めて教えてあげますから、こっちにいらっしゃい。」
そう言ってジリナは若様の手を引いて、部屋を出ると隣室に行った。
しばらくすると、若様は不思議そうな顔をして戻ってきた。
深刻な表情をして戻ってきたジリナは、ベリー医師を手招いた。ベリー医師が今度は隣室に行く。
「…ベリー先生。あの子、なんか頭の中でくっついていませんよ。性的な行為が“交尾”だって。体を触られたり、嫌らしいことをされるのは、“交尾”の前段階だって分かっていません。」
それを聞いたベリー医師は、思わず顔を覆った。
「やっぱりか…。赤ちゃんは可愛い、生きているお人形のつもりですからね。まずい。やっぱり、この間の子猫、育てれば良かったかな。
生き物の赤ちゃんは可愛くても、親に返してやるもの、何でも可愛いから連れて帰ればいいというものではない、と教えたつもりだったんですが、まずかったかなあ。少しお世話して、大変だねって言ってたはずなんですが。」
参ったなあ、とベリー医師はぼやく。
「なんか、余計に赤ちゃん、可愛いから欲しいになってしまったみたいで。」
「ええ。そういう感じですよ。自分で赤ちゃんを作れば、親猫から取り上げなくていいから、いいだろうという考えのようで。とりあえず、相手がいないといけないし、相手が嫌だと言ったら、“交尾”はできないと教えました。
それに、赤ちゃんは大きくなるもので、誰でも生まれたばかりの時は、みんな赤ちゃんだと教えました。赤ちゃんが大きくなって大人になり、お年寄りになって最後は死ぬということは、一応、分かってはいるようですが、頭の中で結びついていないみたいです。」
ベリー医師はため息をつくと、普通と違う子の若様について、ジリナに説明することにした。
「ジリナさん。若様ですが、十歳の時の事件をご存じで?」
「ええ。もちろんです。今の国王様に軟禁されて。」
さすが、知っていたらしい。ベリー医師は頷いた。
「実は軟禁されている間、虐待を受けておられて、言葉の虐待から性的なものまでいろいろです。それで、少し他の子と違うのです。半年ほど前までは、話すことさえ普通にできなかったんです。赤ちゃんに興味を持つどころではなかった。一日を生きるのが、やっとのことでしたから。」
ジリナの目が丸くなった。その後、苦々しい表情になったかと思うとベリー医師に尋ねた。
「王妃様ですか?犯人は。」
さすがだなと思いつつ、この鋭さは領主の侍女をしていただけで身につくだろうか、といささか疑問にも思った。
「……。言いにくいことですが。」
ベリー医師はそう答えてみた。すると、ジリナはいたく納得した表情を浮かべた。
「なるほど。相変わらず過激なお方。」
ベリー医師はジリナを思わず見つめた。
(相変わらず?)
まるで、知っているかのような物言いだ。
星河語
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