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教訓、三十九。どんなに言いづらくても、大事なことは話し、教える必要がある。 3

 ロモルの回想。子猫の事件は、結局、子守の達人シークの出番だった。子猫が何をしてもミルクを飲まず、困り果ててシークの所に連れて行ったのだった。

 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 ところが部屋に戻り、貴重な牛乳を温めて飲ませようとしても、飲まなかった。その上、どんどんぐったりしていく。時々、思い出したようにミーミー、ニャオニャオ鳴くのだが、だんだん鳴き声が弱くなってきた。

「どうしよう、死んじゃう?」

「このままだと。」

 仕方なくベリー医師が呼ばれてきたが、にべもなく無理だと言った。牛乳も水も飲まない。ひたすら、ぐるぐるかごの中をよちよち歩き回り、布の中に潜り込んで鳴いては、ぐったりしている。

 猫を飼っていた経験のある隊員も、これにはお手上げだった。飼っていたのは大人の猫だったし、子猫は勝手に母猫が世話していたので、人間は手を出さなかったから分からないのだ。

 フォーリも成猫が家にいたが、子猫はいなかった。そもそも雄猫で、一帯を支配している大きな縄張りを持った親分猫だったのだ。

「大人の猫なら、これで一発だが……。」

 牛乳の入った器を眺めてフォーリは呟いた。

「フォーリ、ここは悩んでないで、子守の達人の所に連れて行くべきでは?」

 ベリー医師がニヤリと笑って提案した。

「……。」

 子守の達人。もちろん、シークのことだ。それで、仕方なくシークの部屋にみんなで、子猫を連れていった。

 シークは部屋で、部下達が作成した報告書を寝台に座って読んでいたが、大勢の気配に振り返った。

「若様。どうしました?」

「あのね、これ。子猫なんだけど。」

 若様は自分が連れてきてしまった結果、子猫が具合悪くなり、母猫も姿を消したので、返せなくなった次第を説明した。

「どうしたらいいの?みんなでお世話しようとしたけど、牛乳も水も飲まないの。」

 若様はしょんぼりして、子猫が入ったかごを差し出した。

「待って下さい。」

 シークは書類を側の机に全部のせると、かごの中の子猫を取り上げた。手の上に乗せて()でていたが、すぐに分かったようだ。

「そういうことか。捨ててもいいようなぼろ布を少し多めに持ってきてくれ。それと、お湯だ。布は切って欲しい。ぼろ箱もあるといい。」

 まさか、布と湯を持ってこいと言われるとは思わなかった一同だが、言われたとおりに用意した。どこかから、古ぼけた木箱も持ってきた。

「それ、どうするの?」

 若様が不思議そうに尋ねる。

「若様、ぼろ布を箱の中に少し畳んで置いて下さい。」

「分かった。」

 若様は嬉しそうにぼろ布を畳んで箱に入れた。シークは布団から出ると、若様が畳んだ布上で、子猫を左手の上に仰向けにして乗せ、右手では切ったぼろ布を湯につけて絞り、少し冷ましてから子猫の腹をなで始めた。

 それでさすると子猫の腹が赤くなる。さらに、尻尾の付け根を布でさすると、しばらくして子猫のしっぽに力が入り、ちょろちょろ…としっこをした。

「あ!おしっこした…!」

 若様の声が(おどろ)きに満ちている。みんな、あーなるほど、そうだったのかと納得した。

「そうです。この子はまだ、自分でできなかったんです。母猫がこうして、腹とお尻に刺激を与えて排泄(はいせつ)を促し、おしっこをさせるんです。」

 シークが説明している間に、子猫はうんちもした。シークは手際よく、子猫のお尻を拭いて始末した。

「これで、牛乳も飲むはずです。人肌に温めないとだめですよ。」

 こうして、一旦連れ帰った若様だったが、牛乳を温めて器に入れてやっても、子猫は飲まなかった。

 そこで、もう一度シークの所に連れて行かれた。シークは今度は水差しを湯通しして温め、食器洗いに使う海綿を新しいのを少しだけちぎり、水差しの先に詰め込んだ。そして、牛乳がその先から出るようにすると、子猫を抱き上げて口元を海綿に当てがった。

 すると、子猫は最初は戸惑っていたが、すぐに匂いで海綿を(くわ)えて吸い始めた。じきに海綿は取れてしまったが。少しずつ水差しの先から牛乳を流すようにすると、何とかこぼしながらも飲んだ。

 シークは手早くそっと口元の牛乳を拭いて、手の中で温めながら体を撫でてやった。すると、子猫はじきに眠ってしまった。

「さすが、子守の達人だね。子猫も寝かしつけられるんですな。」

 ベリー医師が楽しそうに笑う。

「ほんとだね。ヴァドサ隊長、すごーい…!」

 若様が嬉しそうな声を上げる。

「子どもの頃、弟達に子猫を助けてくれと泣きつかれたことがあって、子猫の世話もしたことがあったからですよ。母猫が世話しなくなった子を、連れてきてですね。仕方ないから、母猫がすることを観察して、真似をしました。おむつをつけていない分、大変だと思いましたよ。」

 シークが苦笑しながら説明した。

「大人の猫とは違いますから、(むずか)しいですよ。自分でできるようになった子は飼えますが、その前が大変なんです。若様も明日、母猫が来るまでお世話してあげないといけませんよ。」

 シークに注意されて、若様は重々しく頷いた。あくまで自分でやるという所は、筋が通っている。普通はできる人に丸投げしたりして、結局、母親がすることが多い。

 こうして、大変だった数日があった。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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