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教訓、三十九。どんなに言いづらくても、大事なことは話し、教える必要がある。 2

 次もロモル視点で進みます。若様が突然、あるものを欲しいと言い出しました。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 それは突然、起こった事件だった。親衛隊員達の間では、こう名付けられて記憶された。『若様の赤ちゃん事件。』


 次の日、シークはヒーズまで三泊四日の予定で、軍に報告を提出しに行くついでに、買い物等をしてくることになっていた。数人の部下達と一緒に出発して行った。

 フォーリがいろいろと買ってくる物を書いた紙を渡し、細かく何か言っていたが、なんだか妙な気分になった。

「…なんか、街に出ていく夫に妻が言いつけている図に見えるのは、私だけ?」

 ジラーがぼそっと言わんでもいいことを言う。だが、実際にみんなそんな図に見えていた。

「ヴァドサ隊長、どこに行ったの?」

 若様が図書室で勉強しながら、聞いてきた。

「ヒーズまで軍の報告に行ったんです。提出しないといけない報告書の山を提出しに。」

「ふーん。聞こうと思ったことがあったけど、いいや。」

 フォーリは今や、護衛よりも食事の準備などの方に忙しい。若様も手伝いに行くが、その他の下準備などに忙しいのだ。他にも部屋の掃除や、細々仕事が際限なくある。

「他の人ではいけないんですか?ベイル副隊長とか。」

「うーん……。」

 返事がいまいちだ。他の人ではなく、シークに聞きたいのだろう。それにかこつけて話をしたいのかもしれない。

「前にね、国史がつまらないって言ったら、国史は先祖達が何を考えていたのか、何を思ったのか、書かれていないことを想像しながら読むと、面白いって教えてくれた。」

「そうでしたか。」

「うん。それで、前より面白く読めるようになったんだよ。」

「それは良かったですね。」

「うん。そういえば、ベリー先生っている?」

「いいえ。今は仮の診察室で、おそらく薬などいろいろ、用意したりされているんだと思います。薬草を干していましたし。」

 ロモルが答えると、若様は何か考え込んだ。

「…ねえ、赤ちゃんが欲しいの。赤ちゃんってどうやってできるの?」

 突然、若様は尋ねた。

「!」

 一呼吸分よりも長い沈黙が下りた。

(えぇー!?いきなり?突然?)

 どうやって答えればいいんだろう。妙なことを答えると、フォーリに殺されそうな気がする。

「前に、使ってない物置小屋に、子猫がいたでしょ?」

 その若様の一言で、若様にとって突然の話ではないのだと気がついた。しかし、大問題だ。もしかしたら、若様の中では子猫と人間の赤ちゃんが同列におかれているのかもしれない……!

「そうでしたね。」

 ロモルはなんとか返事をした。その時、若様は赤ちゃん猫をお世話すると言い出した。つまり、一匹飼いたいと言い出したのだ。確かに子猫はふわふわしていて可愛い。

 フォーリを始め、子猫は親猫みたいに世話できないと病気になって死んでしまうから、死なせるよりは親猫の側においておいた方がいいと、みんなで説得した。確か、この時、シークはまだ回復していなくて、部屋にいることが多かった。

 だが、若様は目を盗んで子猫を服の下に入れて、部屋に連れ帰っていた。ロモルが(おどろ)いたのは、若様はフォーリを出し抜いたいうことだ。フォーリなら速攻で気づきそうなものだが、気づかせなかったのだ。眠っている子猫を手巾でくるみ、懐に入れていた。

 他の一匹を返していたので、気づかなかった。でも、当然、子猫は途中で目を覚まし、ミーミー鳴いて若様の懐の中で動き始めた。しかも、食事中だったので一目瞭然(りょうぜん)だった。

 フォーリは子猫を返すように若様を諭そうとしたが、若様は嫌だと言い張った。しかも、フォーリにつかまらないように、逃げ出した。隣で食事中の親衛隊員達の食堂の方まで逃げてきたのだ。ずいぶん子供らしい行動ができるようになったと、ロモルは吹き出しそうになるのを堪えた。完全に“お母さん”から逃げる子供ような図に見えたのだ。

 その上、捕まってもいい親衛隊員と、捕まるとフォーリと同じで返しなさいと言われる親衛隊員と分けており、強く若様に言わない親衛隊員の方にだけ逃げていた。

 若様は逃げ回っていたが、ふと胸の中の子猫の異変に気が付いた。急いで懐から出したが、子猫はくたっとしている。

「あれ……?ぐったりしちゃった。」

 若様は両手の上に子猫を乗せて、心配そうに見つめた。

「ほら、だから返さないとだめなんです。子猫の世話を全部できるのは、母猫しかいません。それに、若様の匂いがついてしまったから、母猫に返してもちゃんと世話をするかどうか。」

 ここぞとばかりにフォーリに注意されて、若様はしょんぼりした。両目が潤む。

「……だって、可愛いからお世話したかったんだもん。具合悪くなっちゃうって分からなかったもん。」

 ぽつぽつと涙が子猫の上に落ちていく。

「若様。泣かないで下さい。人間の赤ちゃんは、人間しか世話できないでしょう?それと同じで猫の赤ちゃんは、猫のお母さんしかできないんですよ。だから、返しに行きましょう。」

 フォーリは途端に若様の涙にひるんで、少し(きび)しかった口調が優しくなり、手巾を出して頬に流れた涙を拭った。

「…うん。分かった。」

 こうして、一度は子猫を物置小屋に戻しに行った。ところが、母猫は警戒(けいかい)して他の子猫を連れて、どこかに引っ越してしまった後だった。

「戻ってくる?」

「分かりません。私達が来たので、母猫が警戒したのは間違いありません。困りましたね。」

「じゃあ、お世話する?」

 途端に若様の声が喜びに溢れる。フォーリも仕方なくため息をついた。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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