教訓、三十九。どんなに言いづらくても、大事なことは話し、教える必要がある。 1
出だしは、森の子族であるロモルからの視点です。シークはいい隊長だなあ、とつくづく感慨にふけります。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「……狩りに行くだと?」
「ああ、そうだ。狩りに行く。若様のために、安全な食料を確保しないと。」
シークの問いにフォーリは重々しく頷いた。
「それは…分かるが、なぜ、お前自らが行う?私達が代わりに狩ってきたらいいだろう。」
「…それは、私が直接、目で見ないと安心できないからだ……!」
「……ああ、そういう理屈か。しかしだな、その間、若様の護衛はどうする?」
「もちろん、若様も一緒だ。」
「その方が危なくないか?山で滑ったり、転んだりするかもしれないし。狩りに出た方が、万一刺客がいた場合、みすみす機会を与えるようなものだ。」
すると、フォーリは少し黙り込んだ後、仕方なさそうに口を開いた。
「…それは、若様の気を紛らわせるためだ。屋敷にいると、いろいろと考えてしまわれるようだ。」
シークはそこで、しばらく考え込んだ。側で聞いていたロモルは、おそらく隊長のシークが結局頷くだろうことは分かっていた。内心、仕事が増えるから嫌だなあと思う。
それに、洗濯物が増えるし。森の子族のロモルとウィットが、村娘達から敬遠されているのは分かっていた。彼女達の仕事のほとんどは、洗濯だ。その彼女達から、痛々しい視線が突き刺さる毎日である。ウィットなんかは睨み返したりするので、余計に怖がられていた。
「分かった。」
シークはため息をついた後、ロモルの予想通りに頷いた。
「ただし、鶏小屋が完成して、その後、燻製小屋の雨漏りを直してからだ。」
「…鶏小屋が完成してからではだめなのか?燻製小屋まで直さなくても。」
「とったものを全て食べきれるかどうかわからない。狩りに行くなら、燻製小屋が直っていた方がいいに決まっている。」
シークの答えを聞いて、フォーリはしげしげと相手を見つめた。
「…お前。本当に燻製もするつもりなのか?」
「いつも、狩ったり釣ったりできるとは限らないし、天気が悪かったら行けないだろう。保存できた方がいいに決まっている。保存するには、加工するしかないんだから。お前も知っているとおり。」
「だが、ちゃんとできるのか?まずい物を若様にお出しするわけにはいかない。」
「大丈夫だ。実家が漬物などの食品の加工をしている隊員がいる。」
すぐにピオンダ・リセブだと分かった。彼の実家は食品加工業をしている。漬物屋を継ぎたくなかったので、国王軍に入ったのに、結局、漬物や何かを作らなくてはならないのだ。
「漬物?大丈夫なのか?燻製と違うぞ?」
「いぶした漬物も作っているし、根菜を燻製にしたりもしているそうだ。肉の燻製も作っているという話だし、見た限り、普通の塩漬けなんかも作っていた。」
「見た限り?」
フォーリはシークの話に納得しつつも、聞き返した。
「ああ。一応、部下の家には行ける範囲で挨拶に行っている。行けない遠方の部下には、手紙で挨拶文を送っている。」
「ずいぶん、丁寧なことをやってるな。」
「部下の命を預かっている。軍に入っている以上、いつ何時何があるか分からないから、家族には挨拶をしている。今回みたいに、急に親衛隊に昇進したら、帰省も出来なくなるからな。」
なるほど、とフォーリは頷いた。
「お前らしい。じゃあ、とにかく狩りを早くするために、鶏小屋を完成させて、燻製小屋の雨漏りを早く直してくれ。」
「フォーリ、お前な、勝手なことを言って。」
「どうせ、大工仕事も得意じゃないか。」
「何を言ってる。雨漏りをしないようにするの、大変なんだぞ。」
「鶏小屋の方が大変だって言わないんだな。」
「だから、屋根が大変だって話だ。雨が漏ったら鶏も病気になるだろう。元気に卵を産んで貰わないと困る。たった一セルも無駄にできないからな。」
若様の食料を確保するため、村から鶏を数羽買ったのだ。そのため、今、鶏たちは仮の簡単な囲いの中にいる。夜は仕方ないので、物置小屋に臨時に入れてあった。
「とにかく、早く作れ。」
フォーリは言うと、急いで行ってしまった。
「……ああ、やれやれ、フォーリの奴。仕方ないか。ほんとに焼き餅焼きだな。」
シークはフォーリの後ろ姿を見ながらぼやいた。
「もしかして、先日、若様と話をした後、眠ってしまわれたので、部屋にお連れした件ですか?」
ロモルが尋ねると、シークは苦笑して頷いた。
「おそらくな。あの後、余計に殺気立っている。」
「…隊長。興味本位で聞くんじゃないんですが、若様は何に怯えているんですか?」
シークはロモルの質問に、軽くため息をついた。
「フォーリを死なせてしまうことだ。」
若様らしい答えに、ロモルは納得した。
「そうですか。しかし、それでは、フォーリは…。」
「そうだ。ニピ族が最も怖れることだ。信じて貰えないと思ってしまう。本当に不器用な人達だな、ニピ族というのは。」
「若様には何て言ったんです?」
「フォーリには自分と一緒に死んでくれ、と言ってやって欲しいと答えた。びっくりしておられたが、ニピ族は主との絆を最も大切にしているから、遠慮しないでいいということをお伝えすると、納得しておられた。」
シークだから、若様はその答えでも納得したような気がした。そうでないと、『フォーリにそんなことを言わないといけないなんて!』と怒ってしまいそうだ。
「さて、早く鶏小屋作らないといけないな。」
「ほとんどできていませんでしたか?」
「ほとんどできていたが……ウィットの奴が空気穴と称して、蛇が出入りできるような大穴を壁にこしらえてな。」
「ああ、ウィットの馬鹿め。空気穴なんか作らなくても、どうせ壁が隙間だらけなんだから、いらないんだよ。」
思わずロモルは毒づいた。
「そうなんだよな。まったく。あの穴、塞がないと。それに、屋根ももうちょっと手直ししないと。昨日の雨で雨漏りしているところがあったみたいだし。」
と言いながら、シークはロモルに聞いてきた。
「そういえば、最近、ウィットが荒れてるな。何か理由を聞いていないか?」
その理由は分かっている。ロモルはため息をつくと、シークに部屋で話したいと申し出た。シークはすぐに承諾し、隊長として使っているシークの部屋に入れてくれた。
「どうした?」
「……それが。私はまあ、仕方ないかと流せるんですが、それでも、ちょっと続けばいい気分はしません。ウィットは一番年下だし、ちょっと血筋もあって、余計にいらだちが最高潮になっているかも。」
長い前置きにも、シークは黙って話を聞いてくれる。
「実はですね。村の娘達ですが、私達、森の子族を避けているんです。」
それを聞いた瞬間、シークの眉根がぴゅっと寄った。
「そういうことか。」
「ええ。それだけなら、いいんですが、ウィットも私も村の娘達が、洗濯物を押しつけ合っていたのを見たんです。森の子族の洗濯物は洗いたくないと。
あまり接触がないから仕方ないとは思いますが、いい気分はしません。ちょっと用事で声をかけただけで、まるで病気がうつるかのような態度を取られます。仕方なく私やウィットと話をした子に、後で他の子達がなんやかんや言って、近寄ろうとさえしないんです。」
腕を組んで話を聞いていたシークは、頷いた。
「分かった。後でジリナさんに話しておく。悪かった。本当なら、お前達に聞かなくても、私が気づくべきことだ。気づかなくて悪かった。すまない。」
これがシークだ。こういう所がロモルは好きだった。隊長のシークはずっと、鶏小屋作りに忙しかったのだ。気づけるわけがない。
「いいえ。隊長のせいではありません。だって、ずっと鶏小屋を作っているじゃないですか。それ以外の時は、若様の護衛だし、他にも仕事は山積みです。」
ロモルが言うと、シークは首を振った。
「いいや。どういう事情だろうと、隊長は部下達の様子に目配りをする義務がある。それが隊長の役目だ。」
今のはロモルに対する教えでもあった。ロモルは今、副隊長のベイルを手伝って、半ば副隊長のような仕事をしている。つまり、二人とも、ゆくゆくはロモルが隊を率いてもいいと思っているということだ。それは、ロモルも分かっていた。二人にそういう期待を寄せられていることは。期待を持たれていることは、純粋に嬉しい。
「お前のおかげで助かった。後で、ウィットと話す。ジリナさんにすぐに話しておくから。」
「はい。分かりました。ありがとうございます。」
「いいや。それより、こっちの方が助かってる。色々面倒な仕事をして貰っているからな。」
にっこりして、肩を軽く叩いてくれた。隊長のシークは怒ったら相当怖いが、普段はこうして励ましなんかの方が多い。
いい隊長に出会えたな、とつくづくロモルは思う。部屋を出てシークと別れると、ロモルはベイルの所に向かう。午前は若様の護衛だ。若様がシークに甘える理由はよく分かる。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。




