教訓、一。突然の出世には裏がある。 3
初めて国王に拝謁する。否応なしに緊張した。今の国王は曰く付き、いろいろあるが、国王に違いない。幼い子供の代わりに摂政をしていたが、結局王になっただけである。以前からその役割をしていたのだから、正当な座についただけだという見方もできる。
“正当性”を主張する者達も大勢いるが、シークはどちらかと言えば、王など誰でも良く、能力がある者がなれば構わないと思う。
一応、その血筋である、というのはやはりあるが。だが、その点、今の王は何も問題ない。なぜなら、前国王の弟なのだ。どこにも問題は無く、その上、前国王の時代から宰相をしていたほどの実力者である。いろいろと公にできない問題があって、その座に納まったのだろうとシークは想像していた。
ただ、前国王の子供であるリイカ姫とグイニス王子には、多少の同情は禁じ得なかった。特にセルゲス公となったグイニス王子はまだ、十歳になったばかりの事件だっただけに、ちょっと可哀想だと当時も思った。
ただ、それだけだった。まさか、自分の身に関係してくるとは夢にも思わず。
国王に呼ばれたシークは久しぶりに緊張した。めったに着ない完全なる正装の軍服姿である。副隊長のベイルは隊のみんなを集めて待機している。一人、国王の前に出るのだ。
「隊長、緊張しすぎて粗相しないで下さいよ。」
「失敬だな。そんなヘマをするもんか。」
と言いながら、シークは床の小さな板の段差に躓いた。
「!だから、言ってんですよ…。」
隊の面々が呆れて心配する。
「ほんと、陛下の前でずっこけないで下さい。」
「いやあ、ほんと、失敗しないようにって神に祈っておく必要があるんじゃ。」
めいめい好き勝手なことを言っている。
「おいおい、私はそんなに信用がないのか?」
みんな、一瞬、顔を見合わせて笑い出した。
「ないっすねー。」
「模擬戦とか剣のことなんかは信頼できるけど、他のこととなると信用できん。」
結構な言われようで、シークは額に手を当ててがっくりした。
「……。分かった。だったら、私が陛下の前でヘマをしないように、天の神様に祈っておいてくれ。」
そうやって、みんなに見送られて出てきた。謁見室に通され、緊張したまま跪いて国王が入ってくるのを待った。あまりに緊張していたせいか、いつもより早く脚が痺れてきた上に尿意を催してきた。さっき、来る前にしてきたはずなんだが。
そして、王が入ってくる知らせがあり、王と共になぜか王太子とその護衛まで一緒に入ってきた。
「お前がヴァドサ・シークか?」
「はっ、初めて拝謁致します。このたびは拝謁の栄誉に預かり、誠に恐悦至極でございます。」
「そう、緊張するな。あまりに言葉通りに恐縮しすぎだぞ。」
ボルピス王が苦笑した。王に苦笑されてシークはどうしていいものやら、困ってしまう。礼儀やらなんやら、今まで学んできたことは一体、何だったのかすっかり頭の中から消え去ってしまった。
「は、も、申し訳…申し訳ございません。」
「名前からして、十剣術のヴァドサ家の者だな。」
「はい、本家の五男でございます。」
「剣術の試合に出場したことはないのか?」
内心、聞いて欲しくない話題だ。だが、仕方ない。この名前がある限りついて回る。
「残念ながら、ありません。」
「十剣術交流試合にもか?」
十剣術交流試合になら、国王軍に入っていても出場は許されている。
「はい、何度か剣士に選ばれましたが、間が悪いことに怪我などで出場できなくなりまして。」
シークは仕方なく言いたくない事実も、少しぼかして答えた。
「…そうか。それは残念なことだな。」
王はなんと思っただろうか。十剣術交流試合の剣士として出場したこともない者に、役目が務まるかと考えるだろうか。