教訓、三十六。裏に回ることも大切。 7
シークはジリナに、木はどこに行ったら手に入るか聞いていみた。さらに、自分達で必要な雑用をするつもりだと話すと……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは礼を言ったついでに、思い出したことがあった。
「そう言えば、この辺で木を手に入れる場合、誰に頼めばいいんでしょうか?」
「木ですか?」
思いがけないことを聞かれたせいで、ジリナは目を丸くした。彼女は顔を怪我でもしたのだろうか、引き攣れている所がある。それで、あえて注視しないように気をつけていたし、部下達にも注意しておいた。とにかく、村人の怒りを買わないように、丁寧にしておく必要がある。
若様の味方をできるだけ、増やさなければいけない。おそらく、ここにはしばらく滞在するのだろうから。
「何に使うんですか?薪とか、そんなものですか?」
「それもありますが、それだけでなく屋根の修理などに使う木です。板に加工してあるものがいいですし、木工所のような場所はあるのでしょうか?」
「屋根ですか?職人を呼んで修理をするんですか?」
「本来なら、その方がいいでしょうが、呼んで欲しいと言っても、おそらく呼んでくれないでしょう。ですから、自分達で修理しないといけないでしょうね。
雨樋なんかも確認しないといけませんし、屋根瓦も壊れているかもしれない。この木の枝の伸び具合からいけば、木の枝が張り出している部分は、多少、屋根が傷んでいる可能性があると思いまして。」
ジリナはまさか、自分達で修理すると言い出すとは思わなかったのだろう。目を丸くしていたが、口を開いた。
「…しかしですよ、仮に雨漏りを直せたとしても、屋根瓦なんかはどうするんですか?」
「実家がレンガや瓦を作っている工房の部下がいます。炭焼き小屋があったので、炭焼きの窯を使ってレンガや瓦を作れないか、後で聞いてみようと思っています。
できなければ、取り寄せるしかありませんが、買うと結構、お金がかかるでしょう。できるだけ、節約したいと思ったので。まあ、おそらく瓦は買ってこないといけないとは思っていますが。作れてレンガまででしょう。少し向こうに粘土質の土があったので、きっとレンガくらいなら作れると思います。」
「…本気で言ってます?」
ジリナの問いにシークは苦笑した。
「本気です。何でも自分達でしないといけませんから。あ、そうだ。肥え汲みをした場合、どこに汲んだ肥を運べばいいんでしょうか?」
「肥え汲みまでするつもりですか!?」
とうとうジリナがびっくりして、素っ頓狂な声を上げた。ああ、確かにそうだよな、とシークは思う。親衛隊が雑用をするなど、そもそもあり得ないはずのことだからだ。
彼女はそこら辺のことも、少しは知っているようだ。村の中でも相当の知識を持った女性だろう。もしかすれば、村にいるカートン家の医師より、その辺のことは知っているかもしれない。なかなか侮れない女性のようだとシークは思った。
「そのつもりです。二十人が毎日使えば、あっという間に溜まります。井戸の側ではまずいし、井戸の水に流れ込むような場所に穴を掘ってはいけないし、当然、川に流れ込まない場所に掘らないといけません。
二十人分の肥を毎日、撒けるような広大な畑もありませんし、発酵させる以外になさそうです。ベリー先生が発酵させて、分解させるのがいいと仰っていたので、カートン家の先生に指導を仰ごうとは思っていますが。」
シークの話を聞いていたジリナは、とうとう笑い出した。
「……ごめんなさい。でも、まさか、こんなに日常生活について、現実的に考えられる人が隊長殿とは思わなかったもので。確かにその通りです。この辺は少し小高いので、北東方面はどうでしょうか。そっちなら、下は森が続いているし、村側ではないし、人は住んでいないはずです。
ついでにそっち側の、街の森ならあまり管理されていないので、勝手に伐採して薪をとっても構わないと思います。倒木なんかもたくさんあって、主人が森の管理を息子としていますがね、到底手が足りないんですよ。切っちゃっていいと思いますよ。
森の子族との境界は、まあ、見たところ部下の方々に森の子族がいらっしゃるようなので、彼らの方が分かるかと思います。
製材した板については、主人に聞くといいでしょう。ただ、そうなった場合は、お金を頂戴しないといけませんがね。」
「念のため、村長に確認を取りたいのですが、その時に、ご主人にも立ち会って頂けないでしょうか。」
ジリナは頷いた。
「いいですよ。一度、家に帰ります。その時に、主人に伝えておきます。主人が言えば、村長も来るでしょう。それに、今日は村娘の面接の日ですし、村長も気になっているでしょうから、かこつけてお屋敷はどうなっているか、見に来るでしょう。」
ジリナは実に、話の分かる人だった。非常に仕事が出来そうだ。だから、ミー太郎は逃げたのかもしれない。猫ならネズミを捕れとうるさく言われるのかもしれない。ただ飯を食うなと言われそうだ。
「ありがとうございます。助かります。」
話が終わり、ジリナは家に帰っていった。
「随分、話し込んでいたな。」
ジリナが帰るとさっそくフォーリがやってきた。
「ああ、見てたのか?いろいろと聞きたいことがあってな。今日は、村娘達の面接だが、その間、親衛隊の半分は街の森の管理状況を確かめようと思っている。肥え汲みの穴も確保しないといけないし。」
「聞こえていた。」
「なんだ。それなら、説明は省く。屋敷で雇う面接はお前に任せていいな?その方がお前も安心するだろうと思っているが。」
フォーリは頷いた。
「で、その間、お前は実務部隊と測量とか何とかするって話だな。偵察も兼ねて。」
「そういうことだ。」
二人は言いながら、どの辺を調べるか少しだけ見て確認した。
「本当に手入れされていないな。斧や鉈がいりそうだ。持っていくことにしよう。」
シークが考えていると、しげしげとフォーリが見つめていることに気がついた。
「何だ?」
「お前。心なしか楽しそうだな。」
「そうか、バレたか。子どもの頃から、裏庭で剣を振ってきたから、裏庭とか家裏の畑とか性に合ってる。ここも、屋敷の裏手に当たるし。」
すると、フォーリがふう、とため息をついた。
「お前、分かってるのか。これは親衛隊に対しての甚だしい侮辱でもある。当然、若様に対しての侮辱でもあるが。」
「知ってる。分かってるよ、心配されなくても。」
「普通、親衛隊がこんな雑用はしない。いいのか、部下達は内心不満じゃないのか。」
「ああ、不満な奴もいるだろうな。実家の手伝いをしなくていいように、家を出て晴れて国王軍に入り、なんとか親衛隊にまでなったのに、結局、田舎にいる時と変わらない仕事をしないといけないんだからな。
こっちに来る前に、一応、話はしてきた。だが、私の従弟のセグが亡くなったりして、みんな少し忘れていたかもな。本当にベブフフ殿は、何の準備もせずに若様をここに送った。」
シークは半ば感心しながら、苦笑した。
「ああ、本当に腹が立つ。若様は王子だぞ。本当にこういう手段で嫌がらせとは。若様が強く言えない立場を利用して。許せん…!」
フォーリが怒りで全身をわななかせた。その気持ちも分かる。
「フォーリ。だから、衣食住だけは困らないように、ノンプディ殿が私の結婚祝いに乗じて、お金を下さっている。それだけは何とか工面しながら少しずつ使っていくつもりだが、私達の衣食住まで賄うのは厳しいかもな。お前に半分は渡しておこうと思うが、全額渡しておくか?」
「半分でいい。一応、お前の結婚祝いだ。」
「そういうことも考えたら、結局、節約していくしかない。みんなにはもう一度、私からも話しておく。ベブフフ殿との我慢比べだと。」
フォーリは頷いた。
星河語
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