教訓、三十六。裏に回ることも大切。 4
シークは目を覚ましましたが、全身を縛られていた。何だこりゃ!?トイレに行きたいのに、ベリー医師が仕事をすると言い出すでしょ、と言って解放してもらえません。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは埃っぽい布団の中で目を覚ました。妙に口の中が乾いている。その上、両手両足を縛られていて、動けないようにしてある。
「!」
シークは混乱して、まさかまたマウダに攫われようとしているのかと思ったが、そうではなかった。
屋敷に到着して下りる前、ベリー医師が馬車の中で診察した。その時にシークが目を覚まして仕事をすると言ったので、ベリー医師によって、もう一度気絶させられた。ベリー医師は淡々と馬車から降りると、見守っていたシークの部下達に命じた。
「これ、目立たないように下ろして、屋敷の中に運んで。起きても騒がないように、猿ぐつわして、両手両足を縛っといて。高熱があるくせに、起きたら絶対に仕事するって言い張るから。」
「……はい。」
仕方なくシークの部下達は答えた。見知らぬ人が見たら、とんでもない悪の組織のようだ。
それで、今は寝間着に着替えさせられているが、人気のないひっそりした部屋に閉じ込められ、猿ぐつわを噛まされ、両手両足を縛られていたというわけだった。
「ヴァドサ隊長、落ち着いて。ベリー先生、ヴァドサ隊長、目を覚ましたよ。」
若様がすぐ側にいて、向こうを振り返ってベリー医師を呼んだ。
「ああ、起きた?」
シークは一時、訳が分かっていなかったが、屋敷の中にいると分かり、とりあえず暴れるのはやめて静かにしていた。
「完全に熱が出ている。今、絶好調ですな。熱の方が。顔も真っ赤になってるし。汗もびっしょりかいてるから、いい傾向ですな。」
ベリー医師はやってきて診察した。どうでもいいから、早く猿ぐつわと両手両足の縄を解いて欲しい。喉が渇いたし、尿意をもよおしていて用を足しに行きたい。
「ベリー先生、猿ぐつわ取ってあげないの?」
「仕事するって言い出すだろうな。言わないならいいけど。」
「でも、何か言いたそうだよ。」
シークは必死になって、若様に取って欲しいと訴えた。今はもう、さすがにシークも仕事をするとは言わない。行ってもベイル達の足手まといになるだけだ。頭がぼーっとして、仕事どころではない。
「若様、しばらくそのままに放っておきなさい。この人はたぶん風邪で、若様もうつったら行けないから、部屋の準備ができたら、そっちに行くんですよ。」
「!」
な、何!?待って下さい、ベリー先生、ほどいて下さい、便所に行きたいんです!!
「ふ、ふぐぐぐ……!」
必死になって喋っても『ふぐぐぐ。』にしかならない。誰だ、こんなに上手く猿ぐつわかませた奴は!?ちっとも取れてこないから、上手く話せない。
「でも、ベリー先生、ヴァドサ隊長、何か言ってるよ。」
「ええ、ふぐぐぐ、って言ってますね。ほら、行く準備をして。」
ベリー医師は言って、ニヤリと笑った。この野郎!ふざけた真似を!さすがのシークも頭にきて怒って、手足をばたつかせた。そこで、両手両足だけでなく、体も起こせないように寝台に縛られていることに気がついた。
「ベリー先生、ヴァドサ隊長、怒ってるよ。きっと、何か言っているよ。喉が渇いたのかもしれないし、便所にも行きたいのかも。」
なんと慧眼なのだろう、若様は!その通りだ。シークは必死になって、若様に向かってうんうんと頷いた。
最初から分かっているくせに、ベリー医師はわざとらしく、ため息をついた。
「仕事はしないで、休むって約束します?ちゃんと便所だけに行き、他の所に寄り道はしないって約束します?どうせだから、部下達の様子を見ようとか、思ったりしないこと。いいですね?」
シークは必死になって頷いた。
「なんか、信用できないなあ。」
ベリー医師はぼやく。
「ベリー先生、きっと、熱でふらついているから、一緒に行ってあげようよ。そうしたら、見張りになるじゃない。私の側から離れなくていいし、一石二鳥だよ。」
「若様がそれでいいなら、そうしましょうか。外に出て行かないといけない便所なんですよ。」
「本当、面白そうだね…!」
「若様、夜になると怖い便所なんですよ。それに、雨の日や雪の日は最悪の便所です。」
若様はベリー医師に聞いて、途端に意気消沈した。
「…そ…そんなに怖いの?」
「大丈夫です、若様が行く便所は唯一、室内にある便所。さっき行ったでしょう。そこですから。後の人達が外の便所なんです。室内のはくみ取り槽が小さいから、若様一人が使う予定で、後の人は外ってことで。」
それはいいから、一緒に行くんだから怖くない、それより早くほどいてくれ…!必死になってシークは叫んだ。
「よっぽど我慢してるのかな。なんか必死に言ってるよ、ベリー先生。」
「分かった、分かった。約束だからね、仕事しないって。」
シークは人形のように首をぶんぶん振って頷いた。
「しょうがないな、ほんと。休ませるのに、ニピ族並みにがんじがらめにしておかないといけない人なんて、珍しいよ全く。」
がんじがらめにしすぎだ、こっちはそんなに危険じゃないはずだ、ニピ族ほど聞き分け悪くないはずだ…!心の中でシークは叫んだ。
ベリー医師はぶちぶち言いながら、ようやく外してくれたが、最後に猿ぐつわを外す前に耳打ちした。
「いいかい、屋敷の外にはベブフフ家の役人がいる。一応、出迎えに来ていたんだよ。我々を監視に来ているんですな。
わざと君が具合悪いことは隠している。君を運ぶ時も、裏口からばれないように運んだ。君でなく、ベイルが隊長だと思うように、思わせぶりにしてあるが、断言はしていない。ついでに、副隊長はロモル君がなりすましている。
それでだね、君には頭からすっぽりマントを羽織ってもらうし、犯罪者のように手首縛っていく。誰なのか、判別がつかないようにするためだ。」
それで、余計にがんじがらめだったようだが、やりすぎだろうと思う。
「そうだ、先生、思い付いたよ。」
話を聞いていた若様が嬉々として手を上げた。
「何ですか?」
ベリー医師はそんな若様を見て、目を細めてにこにこしている。いや、それより早く便所に行きたいんですけど。
「覆面したら、いいんじゃない?」
のんきに覆面の検証を始めようとしたため、シークは勝手に部屋の外に出た。
「あ、待ちなさい!」
ベリー医師の声が追いかけてきたが、熱のため、ふらついて派手に転んだ。
結局、シークは室内の便所に連れて行かれたのだった。
星河語
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