教訓、三十六。裏に回ることも大切。 3
ヒーズの街を出て、若様が療養する村に進んでいる途中です。シークはまだ回復していません。馬車の中でのお話です。少しくすっと笑える話かなーと思います。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「うわあ、小さくて可愛らしい村だね…!」
若様が馬車の窓から外を見て、嬉しそうに声を上げた。
「ええ、そうですね。ただ、若様、村人には“小さくて”という部分は言わない方が賢明かと。」
「どうして?」
若様は不思議そうにフォーリを見上げた。
「人によっては、馬鹿にされていると受け止める人がいるからです。」
フォーリの説明を聞いて、若様は目を丸くした。
「そっか、そんなつもりじゃなかったのに、馬鹿にされていると思う人もいるんだね。」
そんな二人のやり取りをシークは黙って聞いていた。シークも馬車の中にいたのだ。なぜなら、ベリー医師に馬での移動を認められなかった。なかなか熱が下がらなかったためである。
しかし、これ以上、ヒーズに来てから村に入るのを遅らせるわけにはいかず、出発せざるを得なかったので、シークは馬車、ということになった。そして、シークの馬にはベリー医師が乗っている。
この馬車はヒーズまで、シェリアが貸してくれた馬車とは違い、狭くて小さかった。道も狭く、シェリアが貸してくれた馬車では、到底走れなかっただろう。脱輪したに違いない。
御者をしているのは、実家が馬牧場のテレム・ピンヴァーだ。ヒーズまでは、シェリアが貸してくれた馬車にちゃんと御者もいたのだが、ヒーズからはいない。ラスーカ・ベブフフは何かと嫌がらせをするため、御者さえ用意していなかった。
そうだろうとは思っていたので、別段驚きはしなかったが。
「ねえ、もうすぐ着く?」
若様が狭い馬車の中で振り返った。シークはできるだけ、馬車の端によって体を小さくして座っていた。そうでないと、大の大人の男が二人も乗っていたら狭くて、肝心の若様が乗る場所がとても狭いからだ。
そのため、シークは最初遠慮した。ところが、ベリー医師が許さず、フォーリを御者席のテレムの隣に送ろうとした。しかし!フォーリは絶対に首を縦に振らなかった。若様がシークと二人っきりになると言って、絶対に譲らなかった。よほど、以前に若様がシークに抱っこと言って甘えたりしたのが、許せないのだろう。
「もうじきですよ。もうしばらくの我慢です。」
フォーリが優しく若様に言い聞かせる。ヒーズから三時辰(この当時のサリカタ王国の時間。半時辰が約一時間。一時辰は二時間ほど。)は馬車に乗っているのだ。狭くて道が悪い分、かえって馬車だと時間がかかるようだ。馬か徒歩の方が早い場合もあるかもしれない。
テレムの御者としての腕は決して悪い方ではない。だが、ぐらぐらぎしぎしと揺られ続けられるのは、辛いものがあった。シークは酔いそうになって、途中の休憩でベリー医師に酔い止めの薬を貰った。
それでも気分が悪くなって、さらに次の休憩でまた薬を貰い、鍼も打ってもらった上に、酔いにくい精油の香りを手巾に染みこませてもらった。なんとか、それでここまできたが具合が悪かった。馬の方が良かった気がするのは、気のせいだろうか。
そう思いながら、窓の外を眺めた。あまりいいガラスを使っておらず、透明度が悪い。歪んでいるし、遠くまでは見えない。なんでも一級品を与えてくれたシェリアとまるで扱いが違う。そう思えば、シェリアはいい領主だった。若様に対しても、決して無礼な振る舞いはなかった。
だが、ベブフフ家の所領に来た以上、不便になることは避けられない。覚悟はして来ているが、今は自分の体力を回復させる方が先決だった。体力が持たなかったらどうしよう、といういささかの不安がないわけではない。
ちなみに、叔父のエンスと長兄のアレスとは、ヒーズで別れてきていた。心配そうな二人と別れて、もうじき一日が経とうとしている。
「!」
思わず振り返ろうとした。
「そのままでいて。」
若様がシークの額に手を伸ばして、触っていた。む、と真剣に考え込んでいる。最近はいろんな表情を見せてくれるようになったので、ほっとしたし嬉しい。やはり、子供は子供らしいのが一番だ。若様は幼い頃の虐待のせいで、そういう成長が遅れていたから。
「……それで、先生、見立てはどうですか?」
シークは自分の弟妹達や親族その他の子供達の子守をしていた時の、ごっこ遊びに付き合っていた時の調子で聞いてみた。
「…たぶん、まだ、熱があると思う。私より熱いんじゃないかなあ?」
若様は真剣に言って、自分の額を触って確かめる。しかし、首を捻り、もう一度シークの額を触り、さらに首を捻って、もう何度かそれを繰り返した。
「ねえ、フォーリ、フォーリも触ってみて。」
狭いので必然的にフォーリの膝の上にいた若様は、満足げに若様を膝の上に乗せているフォーリに話を振った。
「……若様、後で必ずベリー先生が診察されますから、大丈夫でしょう。」
暗に嫌だと言っているが、若様は真剣にフォーリを見上げた。
「でも、今、フォーリもやってみて。だって、もし高熱があったら、大変でしょ。」
「若様、たぶん、そんな高熱はないと思います。」
シークが答えると、若様は疑わしそうにシークを見つめた。
「………。違うと思う。だって、凄く具合悪そう。顔色は悪いし、寒そうだよ。」
確かにずっと寒気はしていた。
「ね、だから、フォーリも確かめてみて。」
若様は、はっしとフォーリの右手を掴み、無理矢理シークの額に手を当てさせた。不満そうなフォーリの顔を見ているうちに、シークは妙におかしくなってきて、吹き出してしまった。
「……。何がおかしい?」
「すまない、だが、お前の顔を見ている内に、何かおかしくなってきてしまって。」
後は言葉にならず、さらに笑ってしまう。
「それだけ、笑う元気があるなら、大丈夫そうだな。」
「違うよ、フォーリ、熱に浮かされているんだよ…!だって、いつものヴァドサ隊長と違って変だよ!だって、高熱でしょ?」
若様に言われてフォーリはため息をついた。
「確かに高熱です。これは着いた途端にベリー先生によって即効で、寝室に寝かせられるほどのものです。」
「な、何を言っている!きちんと屋敷の中を調べて間取りを確かめないと……。」
後は言葉にならずにシークは意識を失った。フォーリが気絶させたからである。
星河語
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