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教訓、三十六。裏に回ることも大切。 2

 シークは部下から街での報告を受けていた。そして、つくづくバムスには世話になりっぱなしだと感じる。早く見つかって欲しいと願いながら、いつになく感傷に浸っていた。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シークはカートン家の施設の一室で横になっていた。熱が出たのだ。前はそんなことはなかったので、本人もびっくりしたが、それよりエンスとアレスが本人以上にびっくりした。そして、シークが毒を盛られた経緯の話をベリー医師から聞き、二人は深刻な顔でシークの元に来ていた。

「……念のために聞くが、シーク、お前は国王軍を辞するつもりはあるか?」

 エンスは言いにくそうに聞いてきた。

「いいえ、ありません。」

 シークの即答に、エンスはため息をつき、アレスはだから言ったでしょう、とか言っている。

「分かった。だったら、敢えて言うが、死に物狂いで死の覚悟をして、ことにのぞめ。言われなくても分かっているだろうが。」

「はい。」

 シークは寝台に横になったまま答えた。

「エンス叔父上、兄上。」

 部屋を出て行こうとする二人にシークは頼んだ。

「私が伏せっている間、若様の武術指導をお願いします。」

 二人は頷いた。フォーリがいる上に、二人がくっついていれば安心だった。

 二人と入れ違いに、部下が二人部屋に入ってきた。頼んだ任務を果たしてきたのだ。その報告である。

「ハング、ドンカ、戻ったか?」

 オスク・ハング、テルク・ドンカの二人だ。オスクは大人しいが、潜入したり地図を書いたりするのが上手い。テルクも目立たないが、模型などを作らせたら正確にできる。

 そのため、ヒーズの街に出て、どういう街並みか調べ、さらに街の様子もどうなっているか、聞き込みをしてきて貰ったのだ。

「隊長、起きていて大丈夫なんですか?」

 額に濡れ布巾を乗せたままだったので、二人は心配そうだ。

「ああ、大丈夫だ。それより、どうだった?」

「そうですね、アリモに行った時は、ただ通り過ぎただけだったので、分からなかったのですが、のんびりした田舎の街です。

 ただ、パーセ大街道と繋がっている小街道の先にある、ヨヨと一番近い街なので、物流も人の流れも遅いわけではありません。もしかしたら、プーハルやレイトより、早いか同じくらいかもしれません。」

「つまり、怪しげな人物もそれなりの速度で、やって来れるということだな?」

 話していたテルクが頷いた。

「はい。」

「一応、展望の良い建物に上って、簡単な街の見取り図というか、地図を描きました。」

 オスクが紙を差し出した。確かに簡単ではあるが、街の概略を描いてある。

「うん、よくやった。ざっとでもよく分かる。街に行くたびに、これに書き加えていけば、かなり正確な道路地図になりそうだな。」

「はい。」

「軍に報告を送るために、ヒーズに出て来る時は、お前達を班に入れることになる。頼むぞ。」

 はい、と二人は嬉しそうに頷いた。目立たないが、きちんと自分達の働き場があって嬉しいようだ。

「それで、街の人の様子はどうだった?」

「どの人も、レルスリ殿の話をしていました。セルゲス公である若様の話もちらほらとはありましたが、レルスリ殿の話の方が衝撃的だったせいか、その話ばかりです。」

「人はいい人が多いようです。初めてやってきた私達にも親切に教えてくれました。」

 シークは思わず考え込んでしまった。若様が注目されることを警戒していたが、それがかき消される事件が起きてしまった。割と静かに、あまり注目されずに若様は療養地の村に行けそうだ。

「……隊長、どうしたんですか?」

「ああ、いや。若様はあまり人混みが得手ではない。だから、注目されて大勢の人が集まることを警戒していたが、それがかき消される事件が起きたと思ってな。レルスリ殿のおかげで助かることに。」

 シークの答えに、二人とも神妙な顔になった。

「そうですね。思えば私達は、レルスリ殿に助けられてばかりです。」

「確かに、ノンプディ殿にも助けて頂きましたけど、レルスリ殿の方により助けて頂いた感はあります。」

 オスクとテルクがバムスに恩を感じているのは、シークと同じだった。ちゃんと助けて貰ったのだと分かっていて良かったとシークは思う。

 従兄弟達のねつ造した事件については、口止めされたので詳細を語っていないが、なんとなく分かっているようだ。他にも毒の事件とかあったし、事件続きだった。

「レルスリ殿には、生きていて欲しいと心から思う。もっと早くにサグを帰しておくべきだった。つい、厚意に甘えてしまった。」

「隊長のせいではないです。だって、隊長は毒を盛られたせいで体調が万全ではなかったんです。今だって、熱を出しているじゃないですか。

 もしかしたら、レルスリ殿がサグを置いていってくれなかったら、隊長が弱っている隙を突いて、若様を狙ってきたかもしれない。」

「はい、私も同じ意見です。サグがいたので、隊長の体力が戻るまで、少し安心できました。隊長だって、命を狙われたんです。レルスリ殿の判断は間違っていなかったと思います。だから、隊長は自分を責めないで下さい。」

 ついシークがこぼした言葉にたいして、オスクとテルクが勢いよく詰め寄ってきた。普段、積極的に意見を述べる方ではない。その二人がそこまで言ってくれて、シークは本当に嬉しくなった。心配してくれていることが、その気持ちが嬉しかった。

「……そうか。分かった。二人ともありがとう。」

「私達も、レルスリ殿には生きていて欲しいです。」

「八大貴族だなんだって言われていますが、想像以上に公平な人でした。偉ぶっていなくて、正直、本当に(おどろ)いたんです。先日のベリー先生の話も、びっくりしました。でも、それなのに、全然事件を感じさせないのは、(すご)いと思いました。」

「そうだな。私もそう思う。」

 三人は少ししんみりした後、ため息をついた。

「そうだ、ハング、ドンカ、二人でその簡単な地図を何枚か書き写して、他の隊員にも渡しておいてくれ。」

「はい、分かりました。」

 二人はそう言って、退室した。

 二人がいなくなってから、シークは完全に布団に横になった。大丈夫だと言ったものの、案外、疲れている。旅の疲れが出たんだろうとベリー医師に言われた。他に精神的に疲れることが続いたせいもあるようだ。

 あれ以来、あの男は接触して来ない。セグが送ってきた冊子には目を通した。あれを読んでから、シークは考えることがあった。それを考えていたら、熱が出た。ベリー医師が言ったとおり、旅の疲れと同時に精神的なものもあって、熱が出たんだろうと思う。

(もしかしたら、部下の中に向こうの密偵がいるかもしれない。)

 その可能性は排除できなかった。ダロスの件がある。この疑いはおいそれと口に出せなかった。もし、言ってしまうとお互いが疑心暗鬼になり、肝心な時に力を出せなくなる。だから、シークが一人で目を光らせているしかないのだ。

 ベイルには言えない。ただでさえ、シークが寝込んで苦労をかけている。これ以上、心労を増やすことはできない。

 ふと、シークは親衛隊になる前のことを思い出した。あの頃は、こんなことを考える必要はなかった。それに比べて今は、どうだろうか。振り返ってみたら、一年も経たない間に一年以上の事件を経験していた。

 あの頃が、ふと懐かしくなった。みんなただ、出世できない不満があるだけで。命の危険を感じずに済んだ。

 なんだか、弱気になっている。シークは思った。そうだ、大事な人達を次々に失っているからだ。これ以上、失わないためには、過去を懐かしんでいる場合ではない。しっかりしないと、とシークは自分を叱咤(しった)した。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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