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教訓、三十六。裏に回ることも大切。 1

 とうとう若様が療養する村の、一番近郊の大きな街までやってきました。バムスが行方不明になったという噂はどこの街でも流れており、若様がやってくることは二の次に。でも、その方が良かったのでした。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シーク達一行はその頃、かなり旅路が進んでいた。バムスが死んだかもしれない、という話は瞬く間に国中を駆け巡り、小さな田舎の町にまで伝わった。

 今、若様が療養する屋敷がある村に、一番近い街のヒーズまで来ていた。そこにも、バムスが死んだかもしれない、という噂は広まっていた。

「…なんでも、国中で一番の色男だっていうお方だろ?大勢の愛人がいるっていう。」

「そうそう、とてもモテるらしい。勝手に女の方から寄っていくから、道ばたで婚約者がいる男はすれ違いたくないし、すれ違わないようにするらしい。」

「小心者でニピ族を四人も、護衛につけてるって話だろう?」

「…案外、小心者ではなくて、男共から命を狙われるのは本当なんじゃないのか?」

「そうかもな。」

 男性がそんな噂をしている一方。女性の反応はまた違った。

「…なんでも、国中で一番の色男だっていうお方でしょ?大勢の愛人がいるっていう。」

「そうそう、とてもモテるらしいわ。勝手に女の方から、その方の方に寄っていってしまうらしいの。一度でいいから、お会いして見たかったわ。」

「あんたなんて、無理よ。そもそも、こんな田舎町に来られる訳がないわ。」

「……実はわたし、お見かけしたっていうか、お会いしたことあるわよ。」

「!えぇ!?なんでよ!?」

「そういえば、あんた、前にご領主さまのお屋敷で働いてたことがあったんだっけ。」

「え、ほんとだったの!?」

「嘘だと思ってた?」

「…うん、ごめん、はったりだって。」

「大きな声では言えないけど、ご領主様とレルスリ様って、八大貴族だけど仲が悪いでしょ。」

「うんうん。」

「そうね。張り合ってるけど、絶対に無理。だって…ねえ。モテ方から言って無理じゃない。隣のノンプディ家のご当主のノンプディ様に言い寄ってるけど、無視されてるんでしょ?しかも、いつも、レルスリ様と一緒にいるとか。

 その上、今度はセルゲス公の護衛の親衛隊長に言い寄ったんでしょー。望み薄よ。」

「そうなんだけど、八大貴族で議会がない時に集まって寄り合いすることがあるのよ。建前上、我々は仲がいいよって、宣伝するために。」

「ああ、なるほどね。」

「それでね、ご領主様の所に集まることになったの。でも、シュリツじゃなくて、意地悪して田舎のここ、ヒーズにしたわけよ。シュリツの屋敷は工事中とか言い訳して。

 その時に、お会いしたわ。本当に素敵な方よ。おっとり、ふんわりしていらして、穏やかににっこり微笑んで。貴公子の中の貴公子よ。年の癖にとか、年甲斐もなくとか、そんな言いがかりがあるけど、関係ないわ。

 機会があるなら、一緒について行きたいって思ったもの。だって、とってもお優しいの。わたし、侍女よ、一介の。それなのに、布巾を落としたら、自ら拾って下さって、落としましたよって、持ってきて下さったの…!

 ああ!もう、天にも昇るような幸せな気持ちに包まれたわ…!心臓を矢で射貫かれたような気がしたの!」

「まあ!」

「いいな、わたしもお会いしてみたかったのに…!」

「まさか、亡くなったって!」

「まだよ…!亡くなったと決まったわけじゃないわ!」

「行方不明なんだから!」

「そうね、そうだわ!」

 その時、女性達は人に気がついて、ぎょっとして会話をやめた。気がついたら、旅装姿の二人の若者が立っていたのだ。

「あの、びっくりさせて申し訳ありません。その、話の切れ間に声をかけようかと思っていたのですが…。」

 一人が慌てて口を開いた。

「その、私達は初めてヒーズに来たんですが、街のことが分からないもので、お尋ねしようかと思いまして。」

「どこに何の店があるか、教えて頂けたら助かるのですが。」

 一人の説明にもう一人が付け加える。

「あんた達が行くような店なら、あたし達じゃなく、男達に聞いた方がいいよ。」

「どうせ、飲み屋とか、可愛い女の子がいるような店だろ?」

 すると、二人の若者は困ったような表情になった。

「そうではなく、買い出しに必要な物資を買える店です。食料とか、日用品とか。そんな物です。」

「あ、それと古道具屋もありますか?」

 二人の答えに今度は、女性達の方がびっくりした。

「…どうして、あたし達に聞くんだい?」

「その、母がそういうことは、女性に聞いた方がいいと言っていたので。普段から買い物をしているので、いい店を知っていると。」

 主に説明をしている青年の答えに、女性達は大いに納得した。

「まったく、その通りだよ。よく分かってるじゃないか、あんたのお母さん。」

「ほんとさね。それだったら、街の中心の通りに行った方がいいよ。」

「連れてってあげたら?」

「そうだね、そうしよう。」

 結局、五人の内、二人がその青年達を案内するためにその場を離れた。

 その後ろ姿を残る三人は眺める。そして、若者二人が帯剣していることに気がついた。

「なんか、おっとりしていたね、あの子達。」

「そうだね、普通の子達とは違うようだった。」

「物腰からして違ったよ。田舎の出じゃないね。たとえ、田舎出だったとしても、一時は、大きな街に出てるはずさ。洗練されてる。」

「あれは、親衛隊だね。」

 三人の後ろから、突然、別の女性の声がしたので、三人はびっくりして飛び上がって振り返った。

「ああ、なんだ、ジリナさん!」

「あんただったのかい、もう、びっくりしたあ。」

「心臓が止まるかと思った。どうしたんだい、久しぶりじゃないか。」

「ちょっと用事でね。」

 ジリナは答えた。

「それより、さっきの子達、どうして親衛隊だって分かるんだい?」

「もうじき、セルゲス公が来られるだろ?だからだよ。」

 ジリナの答えに、女性達は顔を見合わせた。

「あれ、本当なの?」

「本当だよ。だから、親衛隊が来たんだ。」

「でも、制服を着ていないよ。」

「そういえば、ジリナさん、あんたも昔、ご領主様のお屋敷で働いてたんだろ?」

「そうだよ。だから、その頃、見たことがあるんだよ。親衛隊だから、飲み屋なんかには興味を示さず、日用品や食料品の店を知りたがった。セルゲス公のために、必要な物を買える店を探していたのさ。」

「あんたの村に行くって、本当の話なのかい?」

 ジリナは頷いた。

「本当だろうね。この間、村長のところにシュリツからお役人が来て、説明していったよ。」

 女性達はびっくりして、お互いに顔を見合わせた。

「親衛隊ってのは、物腰から丁寧なのが選ばれる。制服は目立つから脱いできたんだろうね。なんせ、ご領主さまは、セルゲス公のことを疎ましく思っておられる王妃様の側に、ついておられるわけだから。」

「本当は、王様も邪魔なんじゃないのかい。」

 すると、ジリナは首を振った。

「可哀想な王子様だね。そして、その護衛につかなきゃならない親衛隊も。だって、王妃様は言っちゃなんだけど、王子様を殺したいわけだろ。でも、王様は殺したくない。前の王様派の貴族や議員なんかが反発するから、生かしてるって話だ。

 つまり、夫婦で意見が相別れてるってことじゃないか。その板挟みになるんだから、面倒なこと、この上ないよ。しかも、王妃様は王子様に刺客を送ってるって話じゃないか。」

「確かに。そんな話が新聞に載ってたよ。」

「いい子達なのに、刺客に殺されたりするのかい?」

「…確かに。いい子達だったね。でも、腕っ節は確かなはずだよ。そうでないと親衛隊には選ばれないんだから。

 そもそも、候補に挙がる時点で、ある程度の腕っ節の隊が選ばれる。そして、その中から礼儀正しいのが選ばれるんだよ。なんせ、王族の方々にお側でお仕えするんだから。」

「ああ、確かになるほどね。」

「ねえ、ジリナさん、あんたほんとにご領主様にお仕えしてたのかい?ずいぶん、都のことに通じているみたいだけど。」

「そうでもないよ。聞きかじっただけさ。それに新聞を隅々まで読めば、分かることだよ。けっこう、時間がかかるけどね。」

「ねえ、あんた、レルスリさまにお会いしたことあるかい?」

 ジリナは笑った。

「あるわけないじゃないか。しかも、あたしはこんな顔だよ。お会いする度胸もないね。」

 ジリナの言葉に女性達は、それ以上は言わなかった。その後、ジリナが時々売る蜂蜜の値段の話などをして、彼女たちは去った。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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